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~7年前~
「卒業おめでとうございます、悠希乃さん」
「ありがとうございます!高科先生!」
「無事志望校にも合格してほんとによくがんばりましたね。」
「ありがとうございます。えと」
「どうかしました?」
「あの、7年!7年間この学校に残っててくれませんか?」
「え、なんでよ(笑)」
「教育実習生として絶対また戻ってきますからまた私にいろいろ教えてください」
「…善処しますね」
~現在~
「おかえりなさい、悠希乃さん」
「そんなこと覚えててくれたんですね」
嬉しさと恥ずかしさで顔や体から湯気がでそうだ。それを隠すようにそっと席に着く。時計を見るともう7時50分だ。そろそろ教室へ行こう。たしかクラスは3年2組、かつて私が過ごしていたクラスだ。
「俺隣の1組だから何かあったら言ってね。反対側の3組は畑野先生で担任は新井先生だよ。」
「えうそ!奇跡ですか!」
「教頭先生がいい感じにやってましたよ」
「えぇ!嬉しいです!すごい安心感というか、もうすごいがんばれそうです!」
「よかった。じゃあ教室に向かおう。」
「はい!」
やる気を胸に一歩踏み出したとき、高科先生の後ろ姿を前になにか物足りなさを感じた。なぜかはわからない。モヤモヤするが胸の底にしまっておこう。しかし、7年前の想いなのにまだ心臓がドキドキと音をたててしまう。そんなことを考えてるともうすでに教室の目の前にいた。窓から教室の様子が見える。なんとなく私がこの学校の生徒だったときに見た景色と重なり、懐かしさを覚える。そろそろ生徒たちが来るのだろう。遠くから話し声が聞こえる。心なしか緊張感が足元から這い上がってくる。
「悠希乃!教室入っちゃいな」
「あ、はーい」
新井先生に呼ばれ、教室に入る。するとそこにはかつてと変わらない机に椅子、ロッカーなどが並んでいる。
「えーとね、一番左の上のロッカー使っていいから荷物とか置いてね」
「はーい、ありがとうございます」
廊下のざわつきが大きくなる。もうすぐ生徒たちが来ることを伝えてくれるようだ。
「新井先生、廊下でみんなのことをまっててもいいですか?」
「あ、いいよー。楽しみだね!」
「はい!」
実のところ楽しみと同時に緊張が体を激しく走り回っている。しかし、生徒たちはもう目の前だ。彼らの姿が大きくなるのと比例するかのように「あれが教育実習生?」などという声も増え、大きくなる。3年生さながらの落ち着きと一緒に元気な声が聞こえてくる。
「おはようございます!教育実習の先生ですか?」
何人かの女の子のグループがそう声をかけてきた。
「おはようございます。そうだよ。3週間よろしくお願いします!みんな何組?」
「1組と2組!」
「あほんと?先生ね2組にいるよ。あと、理科教えにいくからね。」
「えまじ?私2組!夢、高橋夢!よろしくお願いしまーす!」
「うちも2組の中林梨奈!まじうれしい!」
「いいなー、私1組なんだよねー」
「大丈夫!授業しに行くよ」
中学生らしい勢いと元気さに気圧されながらも必死に答える。
「めっちゃ楽しみ!私理科好きだから余計楽しみ!」
「じゃあわかりやすい授業できるようにがんばるね!」
「え、かわいい!ほんと、来てくれてよかった!」
「え!…あ、ありがとう!あ、時間なっちゃうから教室入りな」
来ると思ってなかった言葉に一瞬口ごもってしまうが、何とか答えることができた。それからも続々と生徒が来て話しかけてくれる子や挨拶してくる子といい子達ばかりだ。私も一層頑張らねばと気合いをいれる。生徒が全員来たのであろう。教室が人でいっぱいだ。私も教室へ足を踏み込む。かつての習慣が健在らしく、みんな本へ向き合っている。そのとき、私の心臓が大きく跳ね上がった。高科先生だ。新井先生となにか話しているらしい。不躾だが、会話の内容が気になってしまう。一生懸命他のことに集中しようとするが、私の目は磁石で引き付けられているかのように高科先生から離せない。そんな私の視線に気づいたのか、高科先生と目が合った。え、笑った…?生徒の時はいつだってそんなことしなかった。私の幻覚だろうか。うん、きっとそうだ。高科先生がそんなことしてくれるはずがない。きっと教育実習初日の緊張と舞い上がりで、どうかしてしまったに違いない。初日の朝からこんな調子とはどうしたものか。
つづき