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布張りの戦略室で、オレとルーニーが地図を囲んでいる。


「とうとう来たな」

「はい」


地図の上には着色された赤石と黒石。

赤石がオレたち率いる奴隷軍で、黒石が敵の虫人だ。


オレ達はまだ目視できない敵の位置を完全に把握している。


「それにしても、第三奴隷魔法は凄まじいですね。こんな使い方があるとは」


なぜ、古代ローマのようなこの世界でレーダーじみた真似ができる理由は、第三奴隷魔法【聖痕よ、来たれ《スティグマ》。】にある。


奴隷刻印が施された奴隷は主人が念じることでその位置を把握できる。

流石に大陸から離れてしまうと大まかな位置すらわからなくなるが、近づくほどにその精度は上がっていく。


これでまず、味方の位置がわかるわけだ。


さらに敵の位置を把握する為、今回は少々絡め手を使っている。

【聖痕よ、来たれ《スティグマ》。】は、相手を対象に取った時点で奴隷化保留にする。


刻印も浮かばぬこの状態では【痛みよ。《ペイネス》】などの他の奴隷魔法をかけることはできないが、点滅する光点として位置だけは把握できる。


そして、何も奴隷にできるのは生きた人間だけではない。

物品にも奴隷魔法はかけられる。


どうせ全滅するとわかっている帝国の先兵や聖堂騎士団どもの武装を奴隷化保留状態にして、敵に奪わせるだけで、簡単に位置が特定できる。


現代日本で言えば、GPSを奪わせるようなものだ。


ゼゲルは先の第二ルナックス戦争でも敵兵の武装を奪いながら、戦力を拡張していた。どうせまたやるだろうと思っていたが、案の定だ。


支配権を一部譲渡され、位置情報を共有したルーニーにもリアルタイムで敵の位置が見えているのだろう。


盤面の黒石を動かし、カピリス丘の入り口へ移動する。


予定通り。

変更なしでいいだろう。


「定刻だ! 放て!!」

「放つのじゃー!」


戦略室の外でハガネが叫ぶ。

ついでにイリスも叫んでいた。


到着した奴隷部隊と共に、オレの奴隷と金で雇われた自由民たちが天に鉄の矢を放つ。放ち続ける。


点滅する光点が凄まじい速さで丘を越え、虫人の群れに突き刺さった。


鉄の矢の表面は奴隷化状態に、裏面は奴隷化保留状態にしてある。

これなら鉄の矢そのものを操ることもできるし、点滅する光点から位置も割り出せる。


動き続ける点滅。

矢が刺さり、それでも動いているのが敵だ。


これで敵の数も把握できる。

敵の数と位置がわかれば、そこに矢を放ちまくるだけで勝てる。


一切のリスクを負わず、敵を殺せるにこしたことはない。




「ど、どこから射って来ている!?」


次々と飛来する鉄の矢に貫かれながら、バルメロイが叫ぶ。

未だ敵の姿は見えず。こちらの剣は届かない。魔法すら届かないだろう。


『カピリスの丘、最深部からのようです』

「最深部……。どれだけ距離があると」


未知の超遠距離攻撃。

絶え間なく降り続ける鉄の雨が、虫人達に突き刺さっていく。


脳を虫に食わせたことで、限界を越えて行動できる虫人だからまだ動けるが、通常の兵だったらこの時点で全滅だ。


虫人が持つ自己防衛機能が身体に刺さった矢を抜こうとするが、そうしているうちに、新しい矢が刺さっている。判断力の鈍い虫人はそれでも、矢を抜こうとしていた。


「自分を労るな! そのまま進め!!」

「魔法使いは虫人を守れ!!」


バルメロイの怒号に反応して、虫人たちが歩き出す。

まるでハリネズミの行軍だ。


隊列にいる何人かの魔法使いが第二神性魔法で不可視の壁を生み出すが、鉄の雨の連打に耐えきれず、崩壊していく。


魔法使いは第二神性魔法を張り直すが、同じことの繰り返しだ。

これではすぐに魔力が尽きてしまう。


「何だ。これは何なのだ」


武芸の達人。

熟達の冒険者。

高名な魔法使い。


そのすべてが、一切の性能を発揮できずにやられている。


これまでは、ただ虫人を突撃させるだけで戦線を維持できた。

なんならそのまま押し切ることだってできた。


戦術がないわけではない。

むしろ、いくらでも用意がある。


だが、目視もできない敵に対峙する戦術など。存在しない。

どんな魔法も、この距離では届かないのだ。




カピリスの丘の最深部でアーカードがほくそ笑む。



最良の戦闘とは。

敵に発見されぬうちに、敵の攻撃の届かない遠距離から、一方的に攻撃し続けることだ。


戦士の誇りだとか。相手への敬意だとか。

そんな吹けば飛ぶような「お気持ち」など、心の底からどうでもいい。


そう、つまり。

勝てばいいのだ。




またか、とバルメロイは思う。


またこれだ。


富める者、力の強い者、知恵ある者が一方的に得をして、貧者は為すすべもなく地に伏せ、死に絶える。


最後に笑うのはいつだって金持ちだ。

なんとおぞましい摂理か。


この膨大な鉄の矢も、超遠距離攻撃技術も、アーカードの金の力によるもの。


使用できる資源が違う。

土台、奴隷が支配者に勝てるわけがないのだ。


『バルメロイ。申し訳ありませんが、私は魔力を温存せねばなりません』

「わかっています。わかっていますとも」


自分たちはただの捨て石だ。

この邪悪な女神に操られ、いいように使われている。


そんなことはわかっていた。

それでもバルメロイは行軍を続ける。


老いた身体にまた鉄の矢が刺さった。

引き抜いている時間はない。


奪った聖衣の袖に隠し持つ、拡散の魔石を握りしめる。


「行くぞ! 虫人達よ! あだ花を散らせ!!」


魔石がバルメロイのしわがれた声を増幅し、周囲に解き放つと、虫人たちが走り出した。


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