僕、緑谷出久は、一年間お父さんの仕事の都合で九州に住んでいた。
もともと関東に住んでいたから、中のいい友達と離れるのはすごく寂しかったけれど、中学生だった僕に一人暮らしという選択はなく、泣く泣くみんなと離れることに。
そして——–今日、やっと住み慣れた地に帰ってきた。
「わ〜!!久しぶりの我が家だあ…!!」
玄関を上がって、家の中を走り回る。
「やっぱり、この家が一番落ち着くね」
僕の言葉に、両親が笑顔になった。
「そうだなあ」
「ふふっ、そうね」
お父さんに、お母さん。
ふふっ、当たり前だけど、何も変わってなくて安心したなあ…。
でも、僕はまたすぐこの家を出ていくことになるんだけど…。
「ねぇ出久、本当に雄英高校に通うの…?」
急に寂しそうな顔に変わったお母さんが、恐る恐る聞いてくる。
「うん!もちろん!!」
「でも…」
言いよどんだお母さんと変わり、お父さんが口を開いた。
「まあ、出久なら大丈夫だろ」
「で、でもどうしてよりによって雄英高校なの…あそこは男子が多いうえに全寮制なのよ…!!お母さん、寂しいっ…!!」
「ええっ、泣かないでよお母さん…!!」
メソメソと涙を流すお母さんの背中をさすって、苦笑いを浮かべる。
そう。僕は明後日から、雄英高校という高校に編入し、寮生活を送ることになっている。
「雄英高校なんて、そりゃあ有名な高校だけど…ここらじゃ暴走族の巣窟としても有名じゃないの…!!」
お母さんの言葉に、アハハと乾いた笑みがこぼれた。
確かに、お母さんが言うことは間違っていない。
僕の通うことになる雄英高校は、表…つまり公には県内トップの進学校だけど、じつは、いわゆる「不良」と呼ばれる生徒が多いのだ。
裏では、「暴走族高校」なんて言われているらしい。
「あんな危ないところに、こんな可愛い出久を入学させるなんて…」
母さんは泣きながら、僕を抱きしめてきた。
お母さんってば、また可愛い可愛いって…。
それは自分の子供だから思うことで、僕に可愛さなんてこれっぽっちもない。
ひ弱なわけでもないし、可愛いわけがないのに…。
「やっぱり、心配よ…!!暴走族ばかりのいる高校に、出久を通わせるなんて…!!それに、高校生の分際で暴走族なんて言語道断よ!!バイクの免許を取れる年齢でもないのに…!!」
「ば、バイクで暴走行為はしてないよっ…!!」
実は、暴走族に入っている人の中に、何人か知り合いがいた。
ただ、みんな悪い人ではないし、悪いこともしていない。
暴走族っていう肩書はあるけど、事実上みんなは街を守っているんだ。
他の不良グループが悪さをしないように、暴走族の肩書を背負っているだけ。
「…どうして知っているんだ?」
お父さんの言葉に、ビクリとかたが跳ねる。
「って、風の噂で聞いたことがあって…」
「まあ、たしかに問題行動は起こしていないみたいだけど…」
それ以上聞いてこなかった両親に、ほっと胸を撫で下ろす。
ごまかせて良かった…暴走族の友達がいるなんてバレたら、いくら優しい両親でも、激怒すること間違いなしだ。
「問題を起こしていないとは言え、危ないことには変わりない…」
「心配してくれるのはうれしいけど、僕は大丈夫だよ!!」
「まあ、出久なら…変なやつらに絡まれても、誰にも負けないだろうな」
僕は幼い頃から、お父さんに言われて空手に柔道、護身術を習っていた。
おかげでお父さん以外に負けたことはないし、そこらのヤンキーをすぐに倒せるくらいには育ったと思う。
心配する必要なんてないだろうし、自分の身は自分で守れるよっ…!!
「出久が強い子なのは十分わかっているけど、そうは言っても…」
「どうしても雄英高校に行きたいの…ダメ?」
「うっ…!かわいい…!!」
また変なこと言ってるけど、お願いすれば、お母さんはNOといえないのを、僕は知っている。
「し、仕方ない…寂しいけど、出久のお願いを断わるわけにはいかないから…」
ザバーっと勢いよく涙を流しながら、そう言ってくれたお母さん。
「ありがとう!!お母さん大好き!」
えへへ、お母さんが優しくて良かった…
「い、出久…!!お母さんも大好きよ!!でも、いくつか約束してくれない?」
「約束?」
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