「い、出久…!お母さんも大好きよ!!でも、いくつか約束してくれない?」
「約束?」
いったい何の…。
首を傾げた僕を見て、お母さんは「ちょっとまってて…!!」といいながら別の部屋へと走っていった。
すぐに戻ってきたお母さんが手に持っていたのは…小さな箱。
お母さんは、それを僕の前でパカッと開いた。
「万が一の時に用意していたんだけど…高校には、これをつけて通ってちょうだい」
箱の中に入っていたのは…。
「…え?何、これ?」
ボサボサの黒髪のウィッグ…に、大きなメガネ。あと…カラーコンタクト?
さっぱり状況がわからず、再び首を傾げる。
お母さんは、まるで苦渋の選択を強いられたかのように顔をしかめ、口を開いた。
「そんなかわいい姿であんな危険な場所に行かせられないから、せめてこれをつけて学校に通うこと!これが、お母さんからの絶対条件よ!」
ぜ、絶対条件って…。さすがにこれは…あはは。
そんな事言われても、今の格好だけで十分地味だと思うんだけどなあ…。
カラコンとウィッグに、メガネ…か。
…でも、少し面白そうかもしれないっ…!
「わかった。ちゃんとつけてくね」
僕が、雄英高校に通いたい理由。
それは、この学校には遠距離恋愛中の恋人である、転ちゃんこと、志村転弧がいるから。
ちなみに、転ちゃんには僕が帰ってきたことも、雄英高校に編入することも言ってない。
びっくりさせようと思って、秘密にしてるんだ。
変装して、さらにびっくりさせるのもいいかもしれない…!
転ちゃん、僕だって気づいてくれるかな…ふふっ。
「ちょっと試してくるね」
洗面所に向かい、変装セットをすべて付けると、僕の面影は全くもってなくなってしまった。
わっ…これは誰だかわからないかもしれない…!
「ど、どうかな?」
リビングに戻って、両親にお披露目する。
お母さん、お父さんの前に立つと、二人は僕を見て目を見開いた。
「す、すごいな…!出久の可愛さが完全に隠された!」
「あらまあ、ここまで変わっちゃうのね…これなら大丈夫かも…!」
どうやらホンツに別人になった様で、2人も納得してくれた様子。
転ちゃん、これじゃあ気づかない…あはは…ちょっと不安…。
『出久がどこにいたって、俺が見つけてやるから』
以前、転ちゃんに言われた台詞が頭をよぎった。
…うん、きっと大丈夫。
転ちゃんなら、きっとすぐ僕だって見破って、びっくりしたって笑ってくれるはず。
〝villains〟のみんなも、気づいてくれたらいいな…。
早く、みんなに会いたい。
自然と笑みがこぼれて、会える日が待ち遠しくなった。
待っててね、転ちゃん。
僕は恋人の顔を思い浮かべ、ニッコリと微笑んだ。
波乱万丈な学校生活が待っているなんて、知る由もなく——–。
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