テラーノベル
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「はーい、みんな~。お着替えして、準備できたかなー?」
「「「「はーいっ!」」」」
「はいですー!」
《モルノスクール文化祭》の当日。
中庭に響く返事の中で、誰よりも元気よく声をあげたのは――ユキだった。
小さな体で、ぴょんぴょんとその場を跳ねながら、手をぶんぶんと振っている。
まるで、楽しみで身体ごと弾けちゃってるみたいに。
少しだけ成長して、背もほんのり伸びたけれど……
それでも見た目は、元の世界ならまだ小学生くらい。
「ユキちゃん、あんまりはしゃぎすぎて怪我しないようにねー?」
「はいですー! ユキ、怪我には気をつけますですっ!」
「じゃあ、みんな~? ペアの人と手をつないでー?」
合図とともに、子どもたちはわらわらと集まり、それぞれの仲良しと手をつないでいく。
当然、ユキの相手は――
「よろしくね、ユキちゃん♪」
「よろしくです! ミーちゃんです!」
ユキより少し年上の、金髪の女の子。
ふたりは共通の“憧れ”を胸に、よく一緒に遊んでいる仲良しコンビ。
今日も、朝から元気いっぱいの笑顔で手を繋いだ。
「せんせー!なんでミーちゃんとユキちゃんだけお洋服ちがうのー!」
「ふたりとも、ずるーいっ!」
わらわらと集まる声。
他の子たちが口をとがらせてブーブー言い出すのも、無理はない。
子供というのは、ほんの些細な“違い”にすぐ気づいて、それを羨ましく思ってしまうものだ。
「こーらー、文句言わないのー。文句言う子はルクス先生に怒ってもらうわよー?」
「えーっ!」「やだー!」
ドーロがさらっと脅し(?)をかけながら、列を整えていく。
ぶつぶつ言っていた子たちも、門の外に一歩出た瞬間――
その目は一気にきらきらと輝きはじめた。
外の世界――
それは、この子たちにとって“特別”だった。
生まれてすぐ、親に売られた子は、初めて見る世界に目をまん丸にして。
物心ついた頃に調教された子は、少しだけ怯えた目で周囲をうかがう。
片耳を失った獣人の子は、通りすがる獣人の二つの耳を羨ましそうに見つめる。
そして、大人たち――先生たちも。
「そこー、列からはみ出てるわよー」
「おトイレは、もう少し先よー?」
「……こけた子いる? ウマヅラー!」
彼らにとってもこれは、**初めての“大移動”**だった。
外に出すことの不安。
でも、だからこそ、外の世界を“見せてやりたい”という願い。
子供たちの列があっちへふらふら、こっちへふらふらしながらも、
なんとか形を保ったまま――
ドーロたちは、ようやく《ギルド》の建物に到着した。
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