「ファ、ミ、ソ、ド・・・」
待ち合わせの駅前に着くと、宮本先輩は植え込みの脇に座って空を指差し、そんな風にドレミの音階を呟いていた。
「宮本先輩・・・?」
待ち合わせの時間の5分前。早目に来て私の事を待っていてくれたのではあろうが・・・。
「あ、透子ちゃん」
宮本先輩は、私を見て手を戻し、立ち上がった。
「お待たせしました。あの、何してたんですか?」
「ああ、あのね、あそこの電線なんだけどさ、5本あるでしょ?そこにカラスの群が止まってて音符みたいだなぁって」
再び指差したその先を見てみると、確かに電線にカラスが止まっている。全部で5羽。うち真ん中ら辺に止まっている2羽が、こちらを見ている様な気がした。
「本当ですね・・・」
何故か、ミヤマさんを思い出した。
「透子ちゃん、来てくれてありがとう。お洒落して来てくれて嬉しいよ」
そう言って宮本先輩は、自然に私の手を取り繋いだ。当然の様に恋人繋ぎだ。宮本先輩の体と私の体が密着する。
「あの、宮本先輩・・・」
恥ずかしいです。そう言おうとして宮本先輩の方に顔を向けると、すぐ側に先輩の顔があって何も言えなくなってしまった。
身長が同じくらいで恋人繋ぎをすると、こうなっちゃうんだ・・・。
いつもの制服姿と違う私服姿の先輩は、少し大人っぽく見えた。ヴィンテージ風のダメージジーンズにブランドロゴがさり気なく入ったパーカー、足元のスニーカーはNIKEの白グリーン。正直『カッコいい』以外の褒め言葉が見つからない。
特にそのスニーカーは、私も欲しいと思うくらい可愛いくて、先輩にとても似合っていた。
「スニーカー好き?」
私の視線に気付いてそう声を掛けてくる先輩。
「宮本先輩の履いているそのスニーカーが可愛いな、と思って」
「これ良いよね。透子ちゃんにも似合いそう。今度一緒に見に行こ」
思わず頷いてしまった。これじゃ、次のデート確定・・・。
「そう言えば、昨日LINEを叔父さんに見られたって言ってたけど、父母よりも叔父さんが厳しい感じ?」
「厳しいと言うか、過保護ですね」
「そうなんだ。透子ちゃん可愛いから、過保護になるのも分かるな。一緒に住んでるの?」
「いえ、別々ですけど、時々会いに行きます。叔父は絵を描いているんですけど、その絵のモデルをしているので」
「(そういやあの2人叔父さんがヤバいとか言ってたな。昼間のLINE電話が何たらって)」
「?、何か言いました?」
「あっと、ううん。モデル!そうなんだ。絵描きさんなんだ。透子ちゃんの絵、俺も欲しい」
「・・・高いと思いますよ」
「あらま。まぁ、それは諦める。ならさ、電話やLINEするなら昨日位の時間がいいのかな」
また、電話してくれるんだ。そう思って私の胸がトクンと鳴った。
「はい・・・」
「じゃ、そうする」
先輩の笑顔が嬉しい。
あれ・・・?、私・・・。
「チケット代、俺出して良い?それとも割り勘が良い?」
駅の券売機前でそう聞かれた。
「私、払います」
「了解。ならICにここで入れてっちゃお。IC支払いokだから、その方がスムーズだよ」
「はい」
ちゃんと細かい所迄調べてくれている事に感動を覚えた。それと、最初のデートでありがちな『どっちが払うか』問題をサクッとクリアしてくれた事にも。
先輩のおかげでスムーズに園内に入り、まず最初にメリーゴーランドに乗った。
「絶叫系は苦手なんですよ」
という私の意見を聞いてくれて、穏やか系を回って貰う事になったのだ。
「二階建てなんだね」
そう言う先輩に手を引かれて登った二階部分は、遠くまで見通せて予想以上に楽しかった。
「園内が見渡せちゃいますね」
そう言って笑った私を、先輩がスマホでパシャっと激写した。
「あ、勝手に撮った」
「ゴメンゴメン、でも自然な笑顔撮れたよ」
そう言って笑う先輩の笑顔が眩しい・・・。
後でその写真を私のスマホにも送って貰った。
次に『占の館』なるアトラクションに入る事にした。入口で、外人男性の2人組が、係員と何か揉めているのを見つけた。近づいてみると、タブレットを持って内部を回るのだが、その説明が日本語で読めない、と訴えている様だった。係員さんは片言の英語で説明しているのだが、上手く伝える事が出来ていないみたいだ。
「Excuse me,」
突然、先輩が会話に割って入った。流暢な英語で外人男性達に英語表示への変更方を教え、中の進み方までレクチャーしてあげる。
「thank you!」
外人男性達は、そう言って機嫌良く中に入って行った。
「宮本先輩って、英語喋れるんですか?凄い」
私は驚いてそう言った。
「うん、そうなの実は。見えないでしょ?」
「・・・ここで『はい』って言ったら失礼ですよね」
「ハハハッ、みんなに言われてるから別に気にしないけど。こう見えて、何度もホームステイとかしてるんだよ?だから英語は完璧。他の教科もね、以外と出来るの」
「凄い・・・」
感嘆の声が漏れてしまった。
「俺らも入ろう?」
「あ、はい」
そして、私達も『占の館』へと入った。
中では色々な占いの中から好きな占いを選び、それぞれのルートに分かれて進めて行くというものだった。
「金運、健康運、仕事運、学業運、恋愛運・・・と、ペア占い」
「ペア占いって何でしょう?」
「2人でやるみたいだね。2人居るからこれにしてみる?」
私達は、その謎のペア占いという物をやってみる事にした。
各々が一つずつタブレットを持ち、中に進んで行くと、別れ道になる。
「え!ここからバラバラなの!?」
先輩のびっくりした声。二手に分かれての作業になるようだ。
「じゃあ、私は左に行きますね」
そう言って手を離して進もうとすると、ぎゅっと握られ引き寄せられた。
「離れるのやだなー。コッソリ一緒に行かない?」
近距離でそう囁かれる。少しドキッとしてしまった。
「コッソリしても、上手く出来ないと思いますよ?」
私がそう言うと、
「だよねー」
先輩は、そう言って残念そうに手を離した。
「後でね」
頭を撫でながらそう言う先輩。
やだなー、いちいちドキドキしてしまう。
そして、私達は別々のルートを進み始めた。