テラーノベル
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ただ声一つ
「その一言があれば、未来は変わってたのにね」
葬儀の帰り道、誰かがそう言った。
違うよ。
未来を変えられたのは、
“誰か”じゃなくて、私だった。
あなたと最後に話した日のことを、何百回も再生している。
『別に、無理して会わなくてもいいよ』
あれは、強がりだった。
本当は会いたかった。
声が聞きたかった。
触れたかった。
なのに私は、
“平気なふり”を選んだ。
たった一言、
「会いたい」と言えばよかったのに。
あなたはいつも静かだった。
でも、私が泣くと必ず電話をくれた。
「どうしたの」
その低い声を聞くだけで、世界は少し優しくなった。
画面越しでもよかった。
電波越しでもよかった。
声があるだけで、
そこにあなたがいると信じられた。
事故のニュースを見たとき、
最初に思ったのは心配じゃなかった。
「嘘でしょ」
だった。
現実を拒否するみたいに、
あなたのトーク画面を開いた。
既読は、昨日のまま。
私が送った最後の言葉。
もういい。好きにすれば?
あれが最後になるなんて、思わないじゃん。
あなたの友達から、後で聞いた。
「あいつさ、会いに行く途中だったらしいよ」
心臓が止まった。
「ちゃんと話したいことあるって」
……何それ。
聞いてない。
そんなの、聞いてない。
スマホを握る手が震える。
どうして私は、
あのとき電話しなかったの?
どうして私は、
あのとき素直にならなかったの?
たった声一つ。
「好き」
それだけでよかったのに。
あなたのボイスメッセージが、ひとつだけ残っていた。
再生ボタンを押す。
『今から行く。ちゃんと__』
そこで途切れる音。
雑音。
ブレーキ音。
そして、無音。
世界から色が消えた。
それから一年。
私はいまだに、あなたの番号を消せない。
夜になると、意味もなく通話ボタンを押してしまう。
「現在、この電話番号は__」
機械の声が流れる。
それでも耳を澄ませてしまう。
もしかしたら。
もしかしたら。
あなたの声が、混ざってるかもしれないって。
今日、やっと言えるよ。
ねえ。
好きだった。
本当に好きだった。
ちゃんと伝えたかった。
あなたの声が好きだった。
名前を呼ばれるのが好きだった。
ただ声一つ。
それだけで救われてた。
だから今度は、私が言うね。
遅すぎるけど。
「会いたい」
返事はない。
でも、風が少しだけ揺れた。
まるで、
「俺も」
って言ったみたいに。
コメント
4件

すご〜!
やば…最高すぎる…✨️