テラーノベル
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朝の通学路。
視界の隅で揺れる制服のスカートが、どうしようもなく息苦しかった。
みんなと同じように風になびかせ、笑いながら登校する、あの子たちの姿は、僕には遠い世界のことのように思える。
月島朔、高校二年生。生物学的には『女』。戸籍上も、学校の出席簿にも、紛れもなくそう記されている。
だけど、心の中で何度も繰り返す。
――僕は、違う。この制服も、教室で向けられる『女の子としての視線も、全部が曖昧で、まるで自分じゃない誰かを演じているみたいだ。
鏡に映る自分は、確かに世間が言う『女の子』の形をしているけれど、その奥に隠れた本当の僕は、いつも不完全な、満ち足りない三日月だった。
「朔!おはよー!」
緑川 恵、中学の時から一緒にいる友達だ。
「恵。おはよう。」
僕はいつもの様に挨拶をかえした。
「朔、今日元気無い?もしかして好きな人が出来たとか!?」
「違うって〜」
(恵も僕が好きになる人は男だって思ってるよね、)
「恵ちゃんと朔ちゃん!おはよ〜!」
「陸くんもおはよう。」
僕は青野 陸、高校1年生の時に友達になった男の子と挨拶を交わした。
「2人共知ってる?隣の4組に転校生がきたらしいよ!」
陸は興奮気味に言った。
「へ〜!そうなんだ!」
僕は咄嗟に返した。
(こんな時まで女の子らしく接してしまうのか、僕は。)
放課後――
「今日カラオケ行かない?」
恵は僕と陸に提案した。
「いいね!行こう!朔ちゃんも行くよね?」
陸は嬉しそうに言った。
「いいよ。行こうか。」
「なら決まりだね!」
恵は嬉しそうに言った。
―その時、廊下で人とぶつかってしまった。
「あ、えっと、ごめんなさい。」
僕の口から出てくるのは女の子らしい言葉だけだ。これしか、これしか方法が見つからない。
「大丈夫大丈夫!そっちこそ大丈夫? 」
その子の第一印象は明るい、太陽のような人の様に見えた。
「大丈夫、です。」
その子はニッと笑うとすぐに何処かへ行ってしまった。
(なんだか雰囲気が凄い人だったな…)
「朔〜早く早く〜!置いてっちゃうよ〜?」
恵は急かすように言った。
「わかったから待って〜」
僕は大声で返した。
カラオケボックスの薄暗い通路を歩きながら、僕は昼間のことを考えていた。ぶつかった転校生。なぜか、妙に心に残る出会いだった。
「朔、何歌う?」
恵の声で、僕はハッと我に返った。マイクを握る陸が、すでにアニメソングを熱唱している。
「えーっと、何にしよっかな。」
僕は適当に答えたけれど、頭の中はまだ昼間の転校生のことでいっぱいだった。
「あ!みんなでこれ歌おう!」
恵が選曲したのは、人気の男性アイドルグループの曲だった。
ノリのいいアップテンポな曲に、僕たちはそれぞれマイクを取り、歌い始めた。僕は歌詞をなぞりながら、ふと、心の中で呟いた。
(本当は、こういう曲を、もっと声を出して歌いたいんだよな)
そんな僕の隣で、恵は楽しそうに歌っている。陸も相変わらず熱唱中だ。
その時だった。コンコン、と部屋のドアがノックされた。
「あれ?誰か来たのかな?」
恵がドアを開けると、そこに立っていたのは、昼間ぶつかった転校生だった。
「あれ!?さっきぶり!」
転校生は僕を見て、パッと顔を輝かせた。
「え、あ、はい…」
僕は驚きと戸惑いで、しどろもどろになる。
「青野くんに呼ばれて来たよ〜!」
転校生は屈託のない笑顔で言った。
「4組の人にLINE聞いてもらってね。どうせなら転校生と遊んでみたいでしょ!?」
陸は興奮気味に言った
「あ、そういえば名前言ってなかったね。私は、今日から転校してきた日向 陽だよ!よろしくね!」
陽は元気いっぱいに自己紹介をした。その声は、昼間よりもずっと、僕の心にまっすぐ届いた。
「なら陽ちゃんだね!よろしく〜!」
恵は嬉しそうに言った。
僕は驚きながらも、陽と挨拶を交わす。陽はそのまま、楽しそうに僕たちの歌を聞いていた。彼の存在は、このカラオケルームの空気を、これまでとは違う色に変えたようだった。
僕の視界の隅で揺れる制服のスカート。
その息苦しさは、まだ消えていない。だが、目の前にいる日向 陽という存在が、まるで僕の閉ざされた世界に、新しい風を吹き込んでくれたような気がした。
(この出会いは、きっと何かを変える)
不完全な三日月だった僕の心が、少しだけ、満ちていく予感がした。
カラオケの後、それぞれの帰り道カラオケでの時間はあっという間に過ぎた。陽は僕たちの歌を一緒に口ずさんだり、時折、大きな声で笑ったりと、本当に楽しそうだった。その飾らない明るさに、僕の心も少しだけ解けていくような気がした。
「じゃあ、また明日ね!」
カラオケ店の前で、恵が屈託のない笑顔で手を振る。陸も陽と何か楽しそうに話している。僕は少し離れたところで、二人の会話に耳を傾けていた。陽の話し方は、はつらつとしていて、どこか男の子っぽい響きがある。それが、僕の心にまた小さな波紋を広げた。
「朔、私たち、こっちだよね?」
恵が僕の腕を引っ張り、帰り道を促す。僕は「うん」と頷き、陽と陸に軽く手を振って別れた。
家路に就きながら、僕は陽のことを考えていた。彼女は、女の子らしい仕草もするけれど、話し方や雰囲気には性別を超えた自由さがある。それが、僕にはとても新鮮で、少し羨ましくもあった。
(陽みたいに、もっと自由に振る舞えたら…)
僕が心の中でそう呟いた時、ふと、自分の制服のスカートに視線が落ちた。昼間と同じ息苦しさを感じる。でも、カラオケで陽が隣にいた時の、あの妙な安心感を思い出すと、その息苦しさが少しだけ和らいだような気がした。
家に帰り、僕は自室の鏡の前に立った。そこに映るのは、世間が「女の子」と呼ぶ姿。だけど、その奥に隠れた「僕」は、確実に陽という存在に触発されていた。
週末――
いつもなら休日は家で本を読んだり、ぼんやりと過ごすことが多い。でも、この日は違った。無性に、陽と話したいと思った。彼女の、性別にとらわれないような雰囲気に、もっと触れてみたかった。
(陽と関わることで何か変われたらな、)
僕は、陽が転校生だということを思い出し、もしかしたらまだ学校に馴染めていないかもしれないと考えた。少し迷ったけれど、勇気を出して恵にLINEを送ってみる。
「恵、陽と連絡先交換した?」
すぐに恵から返信が来た。
「したよー!どうしたの?」
「よかったら、今度みんなでどこか行かないかなって。陽も誘ってさ。」
既読の表示が消えた後、数秒の沈黙があった。そして、再びメッセージが届く。
「もちろん!陽ちゃんも絶対喜ぶよ!」
恵からの返信に、僕は少しだけ胸を撫で下ろした。そして、同時に、新しい世界への小さな一歩を踏み出したような、そんな感覚があった。
僕は集合時間の15分前に着いた。休日の駅前は、いつもより賑やかだ。
待ち合わせ場所として決めたカフェの前で、僕は少し落ち着かない気持ちで周囲を見渡した。まだ誰も来ていないのは分かっていたけれど、早く着きすぎたことに、少し気まずさも覚える。
そして、いつも制服はスカートだが、私服はメンズ服だからなのか妙に緊張してしまう。
(大丈夫かな、僕、変な奴って思われてないかな…)
そんなことを考えていると、後ろからポンと肩を叩かれた。振り返ると、そこにいたのは陽だった。
「あれ?朔、もう来てたんだ!早いね!」
陽はいつものように屈託のない笑顔で言った。僕が少し驚いていると、彼女は楽しそうに続ける。
「実は私も早めに来ちゃったんだよねー。なんか、この学校初めての友達との休日のお出かけ、って感じでワクワクしてさ!」
陽の言葉に、僕は思わず頬が緩んだ。彼女のそういう飾らないところが、僕にはとても新鮮で、そして心地よかった。
「私も、楽しみで…」
僕は精一杯の笑顔で返した。陽は僕の返事を聞くと、
「じゃあ、あと陸と恵が来るまで、何か見て回る?」
と提案してくれた。
「うん!」
僕たちはカフェの近くにある雑貨屋を覗いたり、ショーウィンドウに飾られた服を眺めたりした。陽はメンズの服にも興味があるようで、
「これ、カッコいいよね!」
と楽しそうに指差す。その何気ない仕草が、僕の心を救っているように感じた。
(陽は、本当に自由だ。性別とか、そういうの、あまり気にしてないのかな…)
そんな風に考えていると、僕たちのスマホが同時に震えた。恵からのメッセージだ。
『ごめん!ちょっと遅れる!陸はもうすぐ着くって!』
それから数分後、陸が小走りでやってきた。
「ごめん、待ったー!?あれ、陽ちゃんも朔ちゃんも、もういたんだ!」
陸が驚いた顔で僕たちを見た。陽は
「うん!私たちも早く来すぎちゃったんだよね〜!」
と笑っている。
恵が来るまで、三人で今日の予定について話した。陽はアニメや漫画にも詳しくて、陸とすぐに意気投合していた。
僕は二人の会話を聞きながら、時折相槌を打つ。でも、以前のように「女の子らしく」振る舞うことへの意識が、少し薄れていることに気づいた。
陽の存在が、僕の中にあった見えない壁を、少しずつ溶かしているのかもしれない。
恵が到着し、四人でカフェに入った。賑やかな店内でも、陽の明るい声はよく響く。僕はホットココアを飲みながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。
通学路で感じていた、あの息苦しさ。それはまだ完全に消えたわけじゃない。
だが、陽と過ごすこの時間が、僕の不完全な三日月を、満月へと変えてくれる、そんな気がした。
カフェでの楽しい時間はあっという間に過ぎ、僕たちは駅前で恵と陸、そして陽と別れた。帰り道、陽が
「今日はありがとうね!すっごく楽しかった!」
と、僕に少しだけ大きな声で言ってくれたのが、妙に心に残った。
家に帰り着き、僕はすぐに自室へ向かった。今日の服は、僕が選んだメンズのスウェットにジーンズ。制服のスカートを脱いで、この服に着替えた時、感じたのはほんの少しの緊張と、それ以上の解放感だった。
鏡に映った僕は、まだ完全に「僕」ではないけれど、陽といる時間は、僕の中の「違う」という感覚を、確かなものにしてくれた。
(陽は、僕がメンズ服を着ていること、どう思ったんだろう…)
そんなことを考えていると、スマホが震えた。陽からのメッセージだった。
「今日はありがとう!すっごく楽しかったよ!また遊ぼうね!」
短いメッセージだったけれど、僕の心は温かくなった。
その日の夜。僕はベッドに入っても、なかなか眠りにつけなかった。
僕の心の中で、不完全な三日月が、少しずつ、少しずつ、満月へと姿を変えようとしているのを感じた。
それは、単に誰かに認められたいという願望だけではなかった。
―陽との出会い、彼女の性別に縛られない自由な姿に触れることで、僕の中に眠っていた「本当の僕」
が、ゆっくりと目覚め始めているようだった。
翌日、日曜日。
僕は朝からずっと、あることを考えていた。それは、これまでずっと心の奥底に押し込めてきた、けれど、もう無視できないほど大きくなっていた想い。
(このまま、女の子として過ごしていくのは、もう無理だ。)
制服のスカートが息苦しいのは、見た目の問題だけじゃない。クラスメイトからの「女の子」としての扱いや、些細な仕草まで「女の子だから」と見られること。その全てが、僕の心を蝕んでいた。
陽との出会いは、僕にとって大きな転機だった。彼女のように、性別に囚われずに自分らしく生きることは、本当に可能なのだろうか。
僕は、自分自身の気持ちに、ちゃんと向き合わなければならないと強く感じた。
そして、僕の脳裏に、一つの決意が浮かび上がった。
(このままじゃ、ダメだ。僕は、変わる。変わらなきゃいけない。)
それは、これまでで一番、強く、確かな想いだった。
新たな朝、そして決意
翌朝、制服に腕を通しながら、僕は昨日抱いた決意を反芻していた。「このままじゃ、ダメだ。僕は、変わる。」その言葉は、僕の心を静かに、しかし確実に満たしていた。不完全な三日月だった僕の心が、あの眩しい陽の光を浴びて、ゆっくりと満月へと姿を変えようとしている。
通学路で、いつものように恵と陸に会った。僕は普段通りに挨拶を交わす。けれど、今日の僕は、昨日までの僕とは少し違っていた。いつもなら感じるスカートへの息苦しさが、微かにはあるものの、以前ほどではない。
僕の視線は、無意識のうちに、隣のクラス、4組の教室へと向かっていた。
陽は、いつも明るく、周りを自然と引き込む力がある。彼女と話していると、自分の性別を意識する瞬間が薄れるのを感じた。カラオケで僕がメンズ服を着ていた時も、彼女は全く気にしている様子がなかった。そのことが、僕に大きな勇気をくれた。
(陽なら、もしかしたら、僕のこの気持ちを、理解してくれるかもしれない)
そう思った瞬間、心臓が大きく鳴った。誰にも言えずに抱え込んできたこの思いを、誰かに話す。それも、出会って間もない転校生に。無謀かもしれない、でも、陽のあの太陽のような明るさが、僕の背中を強く押していた。
その日の放課後、僕は陽に声をかけた。
「陽、ちょっと話したいことがあるんだけど…いいかな?」
僕の少し震える声に、陽は不思議そうな顔をしたけれど、
「うん、いいよ!」
と笑顔で頷いてくれた。僕たちは人気の少ない屋上へと向かった。屋上には、秋の少し冷たい風が吹き抜けていた。
「どうしたの?なんだか真面目な顔してるけど、もしかして、あの漫画の続きのネタバレ?」
陽は冗談めかして言ったけれど、僕の表情を見て、すぐに真剣な顔になった。
僕は深呼吸をして、絞り出すように言葉を続けた。
「あのね、陽。私…いや、僕は…」
僕の声が震える。喉の奥がキュッと締まるような感覚があった。
―それでも、一度口にした言葉は、もう止められない。
「僕は、生物学的には女で、戸籍上も学校でも、ずっと『月島朔は女』って扱われてきた。制服も、スカートだし…」
僕は言いながら、自分の制服のスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
「でも、心の中では、ずっと違和感があったんだ。鏡に映る自分は、世間が言う『女の子』の形をしてる。でも、それは本当の僕じゃない。僕は、ずっと、男になりたいって思ってた。いや、僕は、男なんだって、思ってる。」
最後まで言い切ると、僕は息をすることすら忘れていた。陽は何も言わず、ただ僕の言葉をじっと聞いていた。
彼女の表情からは、驚きも、困惑も、読み取ることができなかった。それが、かえって僕を不安にさせた。嫌悪されたら、どうしよう。引かれたら、どうしよう。
長い沈黙が、屋上の風の音だけを響かせた。僕の心臓は、耳元でドクドクと大きく脈打っていた。
そして、陽が、ゆっくりと口を開いた。
「そっか…」
陽の声は、驚くほど穏やかだった。
「朔は、そういう風に思ってたんだね。」
彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、僕が恐れていたような否定の色は一切なかった。むしろ、深い理解と、優しい光が宿っているように見えた。
「話してくれてありがとう。きっと、すごく勇気がいったでしょ?」
陽の言葉に、僕の目頭が熱くなった。
「僕…これまで、誰にも言えなくて…ずっと一人で抱え込んでたから…」
震える声でそう言うと、陽はふわりと微笑んだ。その笑顔は、僕が初めて出会った時と同じ、太陽のような明るさだった。
「そっか。じゃあ、これからは一人じゃないよ。」
陽の言葉は、まるで乾いた大地に染み渡る水のように、僕の心に深く浸透していった。僕の不完全な三日月は、今、確実に満月へとその形を変えていくのを感じた。
「…ありがとう、陽。」
僕は、震える声で、それでもはっきりと、そう答えた。
陽に告白して以来、僕の世界は少しずつ色づき始めた。陽は本当に「僕」を「僕」として接してくれた。
放課後、陸と恵も交えて話す時も、陽はさりげなく「朔がさ」と、僕が「僕」であることを尊重した言葉を選んでくれた。
恵や陸は、陽と僕の間の変化には気づいていないようだった。僕が陽と話す時に、以前より表情が柔らかくなったり、少しだけ声のトーンが変わったりすることには気づいていない。でも、僕はそれでいいと思った。
まずは、僕自身が「僕」であることを受け入れること。それが一番大事だと気づいたから。
陽との会話は、僕にとって何よりも大切な時間になった。彼女は、僕が抱えていた漠然とした不安や、誰にも言えなかった疑問を、自然と引き出してくれた。
ある日の昼休み、陽と二人で屋上でパンを食べていた時、陽がふと切り出した。
「朔さ、髪、切らないの?」
僕の髪は、肩にかかるくらいの長さだった。女の子としては「普通」の髪型だ。
「え?…どうして?」
僕は少し動揺した。
「いや、なんとなく。朔はさ、ショートとか、似合いそうだなって思ったんだよね。なんか、もっと朔らしいって感じがするっていうか。」
陽は悪気なく、だけどまっすぐな瞳で僕を見た。彼女の言葉は、僕の心にすとんと落ちてきた。これまで、髪型を変えるという発想自体がなかった。なぜなら、「女の子」の僕がショートカットにする理由なんてないと思っていたから。
でも、陽は「朔らしい」と言ってくれた。それは、僕が「男」であることを前提にした言葉のように聞こえた。
その日の帰り道、僕はまっすぐ美容院へと向かった。
美容師さんに「短くしてください」とだけ伝えた。ハサミの音が心地よく響く。
切り落とされる髪の毛が、まるで僕を縛り付けていた鎖のように見えた。
鏡に映る自分を見るのが、少し怖かった。どんな自分がそこに現れるのだろう。世間が求める「女の子」の姿ではない、僕が望む「僕」の姿は、果たしてそこにいるのだろうか。
「はい、お疲れ様でした!」
美容師さんの声に、僕はゆっくりと目を開けた。
そこに映っていたのは、これまで見たことのない僕だった。
すっきりと短く刈り上げられた襟足。耳にかからない前髪。まだ少し幼いけれど、紛れもなく、そこにいるのは「僕」だった。スカートを履き、まだ「女の子」の制服を着ているけれど、鏡の中の僕は、確かに以前より堂々としていた。
僕の不完全な三日月は、まだ満月ではないけれど、確実にその輪郭をはっきりとさせていた。
翌朝、通学路を歩く僕は、いつもより少しだけ背筋が伸びていた。風に揺れる髪はもうない。代わりに、新しい僕の髪が、朝日にきらきらと輝いていた。
恵と陸は、僕の髪型を見て目を丸くした。
「朔!髪、切ったんだ!すごく似合ってる!」
恵が驚いた声で言った。陸も
「お!朔ちゃん、イメチェンじゃん!かっこいい!」
と笑ってくれた。二人の言葉が、温かい光のように僕の心を照らした。
そして、学校に着くと、陽が僕を見つけて、駆け寄ってきた。
「朔!やっぱり切ったんだね!ね、言ったでしょ?すっごく似合ってるよ!これぞ朔って感じ!」
陽は満面の笑みで笑った。その言葉や動作が、僕にとって何よりの肯定だった。
僕の心の中の三日月は、陽の言葉と、新しい僕の姿によって、さらに光を増していく。
―もう、息苦しさは感じない。
僕は、少しずつ、だけど確かに、自分自身を認め始めている。
不完全な三日月だった僕は、太陽の光を浴び、今、確かに輝き始めている。
―END―
※この物語には1部AIが使われています。ご了承ください。
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