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─────他人が落とした物を拾う癖がある。
先月、受験期が終わり難なく志望校に受かることが出来た栞は休憩をしていた。卒業式前に一時の安らぎを求め、小学校からの友達、文恵と遊園地へ出掛けることになった。
「お久しぶり!」
「お久しぶり⋯志望校合格おめでと」
「ありがと!文恵も進学おめでと!」
「うん、なんとか上がったわ」
文恵は、中高一貫校に通っているためそのまま上に上がることができる。多少のテスト、小論文をこなして高校生になることが出来る。
「よーし!それじゃあ、行きますか!」
二人はパーク案内パンフレットを見て最初にメリーゴーランド、続いて子供用ジェットコースターに乗った。 二人は時間を余すことなく最後に観覧車から見えるイルミネーション、プロジェクションマッピングをスマホで撮ることにした二人。急いで列に並び、取っておいたチケットをスマホでかざして提出した。ピロンという軽快な音がスマホから鳴り、ゆっくりと乗り込む。
そこから見える景色は想像を絶した。所々にあるオーナメントは神々しいほどに煌めいている。その写真を撮ろうと前屈みになった栞は光度を下げ、ズームモードに切り替えると小さく展開されているプロジェクションマッピングを写した。
次の瞬間、文恵が身に着けていたピアスがとれて床に落ちてしまった。それを見て栞はなんの気兼ねもなく拾い上げてしまった。それを見て文恵は
「前から思っとったけどさ、栞って他人が落とした物を拾う癖みたいなのあるん?」
と、不思議そうに尋ねた。
栞の思考はピタッと止まった。いつからそうだったか。文恵に聞くと出会った時からずっとの癖があるらしい。今まで無意識のうちに物を拾ってはその人に返していた。いざ、意識し直してみると思い当たる節しかない。
「あるわ。全く意識しとらんかった⋯⋯」
「まぁ、親切心やしええことじゃない?」
確かに今のも今までのもきっと善意で動いていた。だが、よく考えてみれば他人の物に無許可で触れている時点で窃盗と同じじゃないか。
「ちょっと気をつけよ⋯」
そう呟いた栞を見て小さく吹き出した文恵はとても幸せそうに笑っている。
やっとゴンドラが地上へ戻り、閉園の音楽が丁度鳴り始めた。二人は他愛のない会話をしつつ門に向かっていくと、誰かの無くし物が道端に落ちていた。それを見つけた栞は
「届けなかんわ」
と、拾い上げインフォメーションセンターに届けに向かった。届け終わった栞は、ふと振り返って文恵の方を向いた。案の定、文恵はニヤつきながらひょこひょこと着いてきていた。
「結局、栞は拾っちゃうんだよね」
と、口元に手を当ててカラカラと笑っているのを見た栞は顔を真っ赤にして恥ずかしさの他に今後、本気で気をつけなければならないと心に誓ったのだった。