テラーノベル
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シスターにより強化されたダイナマイトの洗礼をうけ、意識を失ったゴリラっぽいモンスターを観察していた。
俺たちの足元に転がるこのゴリラは、家具のショールームで爆睡する客のごとく、1ミリたりとも動かない。
「ゴリラ勇者、おきろし」
あいもかわらず、シスターはケリを入れながらゴリラに話しかけている。
だから、そのゴリラは俺じゃない。
横たわったゴリラな物体の写真を撮影。冒険者用アプリに転送し、コイツの情報をゲットする。
召喚システムによって呼ばれたモンスターだった。
名は『ギガント・クトゥルフ(G・クトゥルフ)』。
史上最大の霊長類ギガントピテクスと、磯の香り漂うクトゥルフが融合(コラボ)したヤツらしい。
ギガントピテクスはすでに絶滅した動物だが、システムがバグって邪神クトゥルフと合体させてしまったのだ。
G・クトゥルフの体長は俺と同じく3メートルほど。
成分の割合は、ゴリラ:クトゥルフ(魚介類)=6:4くらいか。
タラコ唇が残念なゴリラ顔。首から下は、ほぼゴリラ。
体の大部分はワカメで覆われ、手には巨大なカニ爪を搭載する。
仰向けで倒れているため良く見えないが、背中から翼のようなコンブが生えているようだ。
鍋とガスコンロを用意したくなってしまう容姿だ。
シスターにはガスコンロは不要だった。
ビール片手に、生のコンブを齧っている。
きったねえ!
召喚システムと冒険者アプリの連携に問題があるようだ。
残念ながらG・クトゥルフの戦闘力など、細かいステータスは不明だ。
素手でゴリゴリ攻める戦闘スタイルらしい。
40パーセントほど邪神成分が含まれているため、精神攻撃のたぐいをかましてくるかもしれない。
冒険者用アプリ画面に弱点という項目がある。だが、ここから先は購入しないと見られない。
「なあ、なあ~クズ勇者ぁ~。買わねえのぉ?」
お客さんに高い酒をねだるキャバ嬢のような甘えた声で聞いてくるシスター。
横からスマホを覗き込み、シレっと課金ボタンに指を伸ばしてくる。
「高額すぎる。弱点など知る必要はない。どうせ熱湯かなにかだろ」
俺はシスターの指を反対方向に曲げ、入金を阻止した。
価格は500万円ナリ。
こんな価格設定にしたボケは俺だ。
利用者からぼったくろうと思っていたのが、またしてもアダになってしまった。
「アッシがぶっ倒していいか?」
「まあ、待て。ゴリラの体力を回復できるか?」
「このまま、ぶったおしゃ良いだろし」
「ベストな状態のゴリラとオマエのガチバトルを見てみたい」
「よく言った! 任せときな。ガタガタ震えてアッシの活躍を見てろし」
酔いつぶれたOLのような表情のシスターが、週刊ネクロノミコソの付録“杖の先っぽ”を頭上に掲げ、呪文を唱える。
シスターが呪文詠唱するときは、なぜウ〇コ座りなんだろうね? 魔術師に問いかけられた。アソコと肛門に力が入りやすいということだろう。
こうも問われた。股ぐらをボリボリ掻いてるけど、あれで集中できているのか? と。
”シスターは、十字架とおっさんで出来ているのだろう”と返答しておいた。
修道とは、おっさんの道を究めることとみつけたり。
みたいなことを考えながら、己の道を貫くやさぐれ女を眺めていた。
俺と魔術師がオシャレな会話を楽しんでいる間も、シスターの詠唱がつづいた。
「――ビール!」
読経よりも長そうな呪文の詠唱が終わると、G・クトゥルフがムクっと立ち上がる。意識はないようだ。
“ヒール”のひと言だけで良さそうな気がするが……。
ちょっとまった。いま、シスターは“ビール”と言ったか?
聞き返す間もなく、ジョッキに注がれたビールがシュワっとG・クトゥルフの頭上に表出した。
「間違えたし」
ジョッキを握った右手の小指を立て、左手を腰に添えたシスターがゴクゴクと喉をならす。
至福に満ちた顔をしやがって。シスターの小指をへし折ってやりたい。
「生ヒール! 大ニョッキで頼むし!」
大ニョッキは、ジョッキのことだろう。
居酒屋で店員をよぶかのごとく、手を掲げたシスターが呪文を唱えた。
いや、呪文というより、注文か。
緑色の液体で満たされた巨大な注射器が顕現した。
注射器の大きさは5メートルほどだ。
「ねえ、シスター。注射器ってどうやって出すんだい?」
魔術師はシスターの意味不明な呪文に興味があるようだ。
「は? 出てくんのはランダムだからね。しらねぇし。ホントは詠唱なんかいらねぇんだけど、呪文っぽいだろ?」
シスターが立てた親指をクイっと下に向ける。
注射針がG・クトゥルフの頭部に刺さり、得体の知れない汁が体にトクトクと流れ込んでゆく。
と思ったが、G・クトゥルフの鼻からブシュっと結構な勢いで液体が噴出している。
「オマエはクトゥルフの部分から“旨み成分”を抽出しているのか?」
「コイツは海産物だろ? いいダシが取れそうだし」
シスターが言うように、北海道の物産展から逃げてきたみたいなヤツだからな。
例えるなら、高級海産物四点セットか。
「オシッコのキレが良くなったオジサンみたいな顔になってるよね」
魔術師が何気にいい例えをだしてくる。
俺にはジェットエンジンを2基搭載した小便小僧のように見えているが。
「あ、そうですわ! ワタクシはもう回復魔法を撃てませんの。魔力をほとんど使ってしまいましたので。それにしても、その顔につけた便座、よくお似合いです!」
シスターの巨乳が貧乳へ退化している。顔つきもどことなく穏やかだ。
「だれだオマエは?」
「あら、勇者さまったら、いやですわね」
口もとに手をあて、お上品に返してくるシスター。
気持ちわる……。
魔力汁(魔力)が枯渇すると、シスターは性格が変わるようだ。
魔術師は下腹部とタマに魔力汁が溜まると言っている。
シスターの場合、胸が貯蔵庫になっているらしい。
シスターの回復魔法の威力は本物だった。
G・クトゥルフの足元には、お花畑ができている。
人を喰らいそうな怪しげな花。
毒々しい色のキノコなどが顔を出した。
核弾頭のようなデカイ竹の子などもある。
かつて、俺が訪れた魔界で見たような光景だ。
俺の頭にも変化が現れた。回復魔法のエキスが頭部全体に付着したおかげか。
毛根が復活し、ツヤツヤのロングヘアーへと変貌を遂げていた。
おい、魔術師。小声で「発毛ミク」とか言うな!
女子力の戻ったシスターが、俺の髪を三つ編みにしてくれている。
やめろ……。
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