テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「さて、出し物だが――投票の結果、最も希望が多かったのはこれだ」
担任教師が、黒板に大きく魔法文字を書いた。
【魔獣カフェ】
「学院で飼育している教材用魔獣を使い、触れ合い型のカフェを行う。ただし――事故だけは絶対に起こすな。以上だ」
(はあ。丸投げにもほどがあるわよ……)
教師は言うだけ言うと、満足そうに教室を出ていった。
残されたのは、浮かれる生徒たちと、責任者になってしまった私である。
(つまり、企画、準備、管理、当日の運営まで、全部私が見るってことよね……)
私は頭を抱えた。
***
放課後。
私は両手で分厚い魔獣の飼育マニュアルを抱え、飼育棟へ向かっていた。
「お姉様、大丈夫ですか……?」
心配そうに覗き込むフローラに、私は死んだ魚のような目で答える。
「大丈夫かじゃないのよ。社畜には『やる』か『死ぬ気でやる』かの二択しかないのよ……」
「しゃ、しゃちく?」
フローラがきょとんとした顔をする。
ひょい、と大きな手が伸びて、私の資料を取り上げた。
「……アレク? なんであんたが私の資料を運んでるのよ」
アレクは分厚いマニュアルを軽々と持ち上げ、無表情のまま断言した。
「お前を一人で働かせるわけにはいかない」
「僕も忘れないでよ」
今度は反対側から、レオンがキラキラした笑顔で割り込んできた。
「君が望むなら、王族専用の希少魔獣をいくらでもプレゼントしようか?」
「いらないわよ!」
私は即座に首を振った。
一般的に、希少魔獣ほど保有する魔力が高い。つまり、手なずけるには相応の魔力が必要になる。
(私は魔力ゼロなのよ。そんな高位魔獣を手なずけられるわけないでしょ。手なずけるころにはみんな卒業してるわよ!)
「バイオレッタが世話をするなら、僕と魔力交換もほぼ必須になってきちゃうけど……僕はいつでも大歓迎だよ」
そう言って、レオンは当然のように私の手を取った。
(はあ、チャラいわね……)
「お姉様に気安く触れないでくださいっ!」
フローラがレオンを肘でぐいっと押しのけ、私と彼の間に割り込んだ。
「魔力交換が必要なときは、私がお姉様とします! 邪魔者は引っ込んでいてください!」
「わあ、特待生ちゃん、今日も手ごわいねえ」
「当然ですっ。お姉様の安全がかかってますから!」
(……あれ? これ、魔獣カフェの準備よね? どうしてすでに空気が修羅場なのかしら……?)
そんなことを考えているうちに、私たちは飼育棟へ到着した。
***
飼育棟の中には、大小さまざまな魔獣が並んでいた。
私は檻を一つずつ確認しながら、手元のマニュアルへ目を落とす。
・ミスト・キャット
体の一部を「霧」に変えることができる小型の猫。隠密魔法の基礎や、魔力探査の授業で使われる。非常にすばしっこく、人間の五十倍以上の速さで走る。
檻の奥では、灰色の猫が霧のように消えたり、姿を戻したりしていた。
(愛らしいけど、カフェなら放し飼いが基本。逃げた時に追いかけるのが大変だから、これはパスね……)
隣の檻には、虹色に輝くトカゲが入っていた。
・ジュエル・リザード
食べた鉱石によって、背中の鱗が美しい宝石色に変化する。魔法鉱物学の教材。攻撃力が高く、鱗が硬質化すると周囲の光を反射し、「閃光弾」を放つことがある。
「わあ、綺麗ですね、お姉様!」
フローラが目を輝かせる。
確かに、カフェにいたらキラキラ輝く姿は映えそうだ。
でも。
(攻撃力が高いのは危険すぎるわ。お客様に閃光弾を浴びせるカフェなんて、営業停止どころじゃないわね)
これもパス。
そして私は、一つの檻の前で立ち止まった。
そこにいたのは、わたあめのようなピンク色のフワフワした塊。
「めぇ」
つぶらな瞳でこちらを見上げ、小さく鳴く。
ころころ、ふわふわ。
まるで綿菓子に足が生えたみたいな可愛さだ。
「……コットン・キャンディ・シープ」
マニュアルにはこう書かれている。
魔力を吸うと毛が膨らみ、吸った相手の属性によって色が変わる。収穫した毛糸は「魔法糸」として、高級魔法ローブの材料になるほどの防御力を秘めている。
(……待って)
私はページを持つ手に力を込めた。
(これ、お客様に合わせた『完全受注生産・オリジナルカラー限定キーホルダー』のワークショップができるじゃない)
(学院の魔獣を使うから原価ほぼゼロ。人件費ゼロのオンリーワン商品になるわ!)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!