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「射撃中止!負傷者は?」

「皆健在です、聖女様」

エルフ達が完全に姿を消したことを確認したマリアは、蒼光騎士団を率いる腹心のラインハルトに被害の有無を確認。騎士団の被害がないことに安堵の息を吐いた。

貧民街での虐殺を耳にした彼女は蒼光騎士団二十名を率いて現地へ向かう最中、領邦軍やレンゲン公爵家へ攻撃を仕掛けるエルフ達を見て介入を決めたのである。

近代化が進む帝国では大規模な森林伐採が全土で行われており、森林で暮らしていたエルフ達は住み処を追われる結果となった。

住み処を追われたエルフ達は人間社会で生きることになるが、人間社会に馴染めない大半のエルフは賊として各地を荒らし回り、社会問題となっていた。マリアが介入を決めた理由にはこのような背景がある。

もちろん一年前に発生した『ロウェルの森』の戦いでマリアはシャーリィに付き従うエルフ達を知ったが、よく知るものでなければ見分けがつく筈もなかった。

だが、この些細な行き違いがシャーリィとマリアの関係を決定的な亀裂を生むことになる。

マリアは周囲を警戒しつつ、レンゲン公爵家の屋敷へと近寄る。正門前ではレイミ達が並んで背後に居るシャーリィを隠した。そしてエーリカがシャーリィを後ろから抱き締めて動きを止める。

「今はダメです、お嬢様っ!今は我慢してくださいっ!」

シャーリィを抱きしめて見えない場所まで下がるエーリカ。対するシャーリィは無表情ではなく怒りに染まった表情で踠く。ただ、幸いなのは彼女が大声を出さないことだった。

「離してください、エーリカ。マリアは一線を越えました。つまり私の敵です。今すぐに殲滅しないと」

「ここでそんなことをしたら、レンゲン公爵閣下にもご迷惑をお掛けしてしまいますよっ!」

正門では。

「聖光教会の聖女様とお見受けします。ご助力に感謝を!耳長共も思い知ったことでしょう!」

その場に残っていた公爵家の従士が感謝の意を表明する。彼は裏の事情を知らない。

「いえ、危機を捨て置くわけにはいきませんから」

「従士殿、閣下にお伝えすべきでは?」

「おお、そうだった!では、しばしお待ちを!閣下にお伝えして参りますので!」

レイミが割って入り、従士は母屋へ駆けていく。同時に衛兵達も解散させて、その場にはレイミだけが残る。

「貴女まさか……レイミ?」

「貴女には変装は無意味ですね」

マリアの問い掛けに、仮面を着けたまま肩を竦めるレイミ。

「魔力を感じれば分かるわ。それよりどうして貴女が……いや、そう言えば親類関係だったわね。訳があるんでしょう?黙っておくわ」

「ご配慮痛み入ります、マリアさん。

貴女も帝都に来ていたのですね」

蒼光騎士団がいつの間にか人払いをしており、二人きりの空間が作られた。

「実家の願いよ。多額の寄付をして貰っている以上、無下には出来ないわ」

「そうでしたか。お姉さま同様マリアさんもパーティーがお嫌いな方だと思っていましたが」

「大嫌いよ。その費用や食料でどれだけの弱者が救われるか」

「貴女らしい」

レイミもまたパーティーの類いはあまり好きではなかった。前世の記憶もあり、貴族社会にあまり馴染めなかったのもあるが。

少し二人で言葉を交わしていると、衛兵達が増えてゆっくりとカナリアが母屋から姿を表した。

「ごきげんよう、聖女様。それともフロウベル侯爵令嬢と呼ぶべきかしら?」

「どちらでもありません、マリアです」

優雅に一礼したマリアの返答を聞いてカナリアは面白そうに彼女を見つめる。

「あら、良いの?私に借りを作れるのよ。教会や侯爵が喜ぶんじゃないかしら?」

「今回の介入は私個人の信条に従っただけです。政治的な配慮は必要ありませんよ、公爵閣下」

「はいそうですかと何もしなかったら、私の矜持に触れるわ。貴女個人の働きには充分な見返りを用意しておくから期待しなさい。それにしても」

カナリアは整列し直立不動の蒼光騎士団へと視線を移す。特に彼らの装備する銃に興味を示した。

「ライデン社の新作かしら?見たことがない種類ね」

「ライデン社の試作品を譲り受ける機会に恵まれまして。聖女としての在り方に反していますが、悲しいことに帝国では充分な自衛手段を持たないと何も成せません」

「よく分かってるじゃない。まさか聖光教会の聖女がライデン社と懇意とはね?」

「ライデン社に関しても私個人の繋がりですよ。教会の皆さんは保守的ですし、何より私の愛読書を禁書指定した人達なので」

「貴女の愛読書、まさか帝国の未来かしら?」

「はい」

マリアの答えにレイミ、そしてエーリカに隠されているシャーリィが目を見開く。

禁書扱いを受けている画期的な書物でありシャーリィの愛読書。レイミからすれば技術発展の歴史を記した本をマリアが愛読していると言うのだ。

「聖女様が禁書を愛読している。素直に白状しても良いのかしら?」

「この程度の情報、どうすることも出来ませんよ。教会では知られていますし」

マリアの答えに、カナリアは楽しげに笑みを浮かべた。

「事実上の黙認ね?下手につつけば此方が痛い目を見そうね」

「教会関係に手を出すことはおすすめしませんよ。閣下は開明的なお考えの持ち主だと聞いています。わざわざ教会に介入する必要もありません」

「貴女のお父様はどうかしら?」

「父ですか?教会と結託しているので無駄かと」

「そう、残念だわ。とにかく、今回のお礼は貴女個人にさせてもらう。何かあったら頼りなさい。これでも公爵なんて重責を背負わされているの。何かと役立てるわよ?」

「その時は、お願いします。それでは」

深々と頭を下げたマリアは蒼光騎士団を引き連れてその場を後にした。彼女としては負傷者の手当てを行いたかったが、既に領邦軍の死者や負傷者は回収されておりその場には戦闘の痕跡が残るのみとなっていた。

マリアを見送ったカナリアも母屋へと向かうため踵を返す。その際、隊列の後方でエーリカに抑えられているシャーリィが視界に入る。

その表情を見て色々と察したカナリアは、足を止める。

「エーリカ、二人を私の部屋に連れてきなさい。人払いをさせておくわ」

「はい!」

エーリカに指示を出してカナリアは歩みを再開する。屋敷周辺では倒れた仲間達を密かに回収するエルフ達が見え、シャーリィが巻き起こすであろう騒動を予測し、カナリアは人知れずため息を吐いた。

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