テラーノベル
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再建が進み、少しずつ活気を取り戻した町。そんな町を二人が睦まじく歩く、穏やかな休日のひととき。
かつての戦火が嘘のように、市場には色とりどりの野菜や布地が並び、唐風の提灯が軒先で揺れています。その人混みの中を、長身の二人が並んで歩いていた。
「ひろぱ、見て! あの組紐、君の目の色にそっくりだよ」
元貴が楽しそうに指差したのは、深い青色の絹糸で編まれた装飾品。王としての威厳はそのままに、今の元貴は年相応の青年らしい、柔らかな表情を浮かべていた。
「……そうか? 俺には、お前がさっき見ていた翡翠の方が似合っていると思うが」
滉斗はぶっきらぼうに応えながらも、元貴が人混みに流されないよう、その腰をさりげなく、だが力強く引き寄せる。その手つきは、かつての冷徹な剣士ではなく、一人の愛妻家としての独占欲が滲み出ていた。
町を行き交う人々は、二人に気づくと親しげに声をかける。
「若井の旦那! 今日は一段と男前だね。この大根、持っていきな!」
「もとき様ー! 昨日の術、お花がキラキラしてて凄かったよ!」
元貴は一人ひとりに丁寧に応え、滉斗は面倒そうに鼻を鳴らしながらも、差し出されたお裾分けをしっかりと受け取る。かつては「戦えない王」と「冷酷な剣士」として恐れられていた二人は、今やこの町にとって、なくてはならない「日常」の一部となっていた。
買い物を終えた二人は、町外れにある大きな銀杏の木の下で足を止めた。ここは、王都の騒がしさが届かない、二人だけのお気に入りの場所だ。
「……こうして普通に町を歩けるなんて、夢みたいだね」
元貴が木陰に座り、持ってきた竹筒の水を口にした。滉斗はその隣に座り、手にした組紐を無造作に元貴の髪に結びつけた。
「夢じゃない。俺たちが、泥を啜ってでも手に入れた現実だ」
「ふふ、そうだね。ひろぱ、顔が怖いよ。せっかくの休日なんだから、もっと笑って?」
元貴が滉斗の頬を指で突っつくと、滉斗は観念したようにふっと表情を緩めました。彼が自分を飾らず、心から安らげるのは、世界中で元貴の隣にいる時だけだ。
日が沈み始め、町にオレンジ色の光が差してきた。
帰り道、滉斗は元貴から預かった買い物籠を片手で持ち、もう片方の手で元貴の手をぎゅっと握りしめた。
「元貴」
「なあに?」
「……来週の休日も、またここへ来よう」
その言葉は、かつての「結婚しよう」という約束と同じくらい、重く、そして確かな響きを持っていた。
「うん。来週も、その次も、ずっと。……ずっと一緒だよ、ひろぱ」
影が一つに重なり、二人は夕闇が降りてくる自分たちの「家」へと、ゆっくりと歩き出した。
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