テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
3件
あぁ、爆破しちゃった…にしてもヒースクリフさんは普通に強いけどダンテさんは時間巻き戻せるんですか!?強すぎる...
砂が薄らと積もった廊下に、朝の柔らかな日光が差し込む。光の粒子がきらきらと舞い、その空間は、廃れながらもどこか神秘的な雰囲気を形作っていた。
コツン、コツンと、私の足音だけが静かに響く。とある教室の前で足を止め、目の前のドアノブを掴み、ゆっくりと開けた。
「おはよ~、せんせ……あれ?」
〈先生じゃなくて悪かったね〉
「あらっ、ダンテさん。おはようございます。今日は、お早いですね」
扉を開けて最初に目に飛び込んできたのは、ソファの上、ノノミの膝を枕にして、ホシノが気持ちよさそうに横になっているという、何とも微笑ましい光景だった。来客に気づいたホシノは、眠たげな目をこちらに向けたが、それが先生ではなかったことに、少しだけ戸惑いを見せた。
〈はは、みんなに「先に行っててくれ」と言われてしまってね。……それにしても、随分とリラックスしているじゃないか〉
私は先生から渡されたタブレットを操作し、文字を通じて気持ちを伝えた。
「リラックスしてるねって? うへ~、ノノミちゃんの膝枕は、柔らかくてサイコーなんだよ~。私だけの特等席だもんね~」
「ダンテさんもいかがですか? はい、どうぞ~☆」
〈いやいや、私のこの炎で焼いてしまっても悪いし、遠慮しておくよ〉
「そうだよ、ダンテ先生~。ここはおじさんの場所なんだからさ。先生は、あっちの座り心地の悪そうな椅子にでも座っててね~」
「もう……私の膝は、先輩の専用じゃないですよぅ……」
そんな微笑ましいやり取りを横目に、私は隣のソファへと腰掛けた。すると、ノノミが顔を寄せ、悪戯っぽく私に耳打ちをしてきた。
「ふふ☆今度、誰もいない時にしましょうね、ダンテさん?」
〈その役は、先生のでしょ?〉
「あらっ、いいんですか?」
〈なんというか、性に合ってないから〉
すると、さっきまで気持ちよさそうに横になっていたホシノが、ゆったりと体を起こす。床に足をつけ、猫のように大きく伸びをしながら、ふあぁ~、と大きなあくびをした。
「ふあぁ〜、みんな朝から早くから元気だなあ」
「のんびりできるのは久しぶりですから……今はみんな、やりたいことをやっているんでしょうね。んー、シロコちゃんはきっとトレーニングでしょうし、アヤネちゃんは多分勉強しに図書館でしょうか……」
「ノノミちゃんは学校の清掃と教室の整頓をしてくれたよね〜。うへ、みんな真面目だな〜」
〈みんな勤勉だね。そういうホシノは?〉
「もちろん、ずっとここでダラダラしただけだよ〜」
そう得意げに言うと、彼女はふらついた足取りで扉へと向かい、ドアノブに手をかけた。
「あらっ。先輩、どちらへ?」
「今日のおじさんはオフなんでね。適当にサボってるから何かあったら連絡帳だーい、ノノミちゃん」
ホシノはそう言い残しながらひらひらと手を振り、扉を開けてどこかへと行ってしまった。
「ホシノ先輩……またお昼寝しに行くみたいですね」
〈委員長なんだけど……大丈夫なの?〉
「まあ、いいんじゃないでしょうか。会議はアヤネちゃんがしっかり進めてくれますから」
そう言い終わったノノミの顔は、どこか呆れているようにも見えたが、同時にその状況がおかしいのか、少しだけおどけたような笑みを漏らした。
「あはは……それにしてもホシノ先輩も、以前に比べてだいぶ変わりました」
〈以前はどうだったんだ?〉
「今はいつも寝ぼけてるような感じですけど……私が初めて出会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」
〈何に?〉
「何に追われていたかというと……うーん、ありとあらゆることに、と言いましょうか……。聞いた話ですが、以前に、とある先輩がいたそうで。アビドス、最後の生徒会長だったらしいんですけど、とても頼りない人で……。その人がここを去ってからは、全てをホシノ先輩が一人で引き受けることになった、と……」
〈……そうか。大変だったんだな〉
「ホシノ先輩は、当時まだ1年生だったとか……。詳しくは、私も知らないのですけど……。でも、今は先生も、ダンテさんたちもいますし、他の学園の生徒さんたちとも交流できますし……。以前だったら、他の学園と関わること自体、すごく嫌がっていたはずなんです。……かなり、丸くなりましたね」
彼女は、丸くなった……。
その言葉を聞いて、私はふと、この世界に来てからの過去を振り返る。
初めてこの地で目を開いた、あの無機質な部屋。あそこには、黒服と共にホシノもいた。あの時の彼女は……確かに、今の気だるげなホシノとは違い、どこか落ち着きがなく、イライラとした空気を纏っていた。ノノミの言う通り、まるで何かに追われているかのような、張り詰めた感情が渦巻いていたように思う。
もしかしたら彼女は、まだ、その過去と完全には断ち切れていないのかもしれない。
「うん、これもきっと、ダンテさんのおかげですね☆」
〈えっ!? 私か!? 私はその……まだ、彼女たちの役には、あまり……〉
「そんなに謙虚にならないでください。もしかしたら、ご自身では役に立っていないと思っているかもしれませんが、ダンテさんは、しっかりと『先生』としての役目を果たせていますよ」
〈……本当に?〉
予想外の、あまりにも温かい褒め言葉。そんなことを言われるとは夢にも思っておらず、私は思わず、間抜けな汽笛のような音を鳴らしてしまった。
「だって……ダンテさんはいつも、先生と同じように、私たちのことを手伝ってくれるじゃないですか。他の先生方とは違って、なかなか表舞台には出られず、陰でひっそりと……ですけど。それでも、私たちのために身を挺してくれるという事実は、決して変わりません。きっとホシノ先輩も、重い荷物を一緒に背負ってくれる人が増えたことに、少しは安堵しているはずですよ☆」
ここまで、見ていてくれていたとは……。そんな当たり前のことすら自覚できず、生徒に諭されてしまうとは……。なんとも、情けない話だ。
〈……悪いね。こんな情けない先生で〉
私は、どこか物悲しい気持ちのままそう音を鳴らし、感謝と、少しばかりの申し訳なさを込めて、ノノミの肩をぽん、と軽く叩いた。彼女は、そんなことをされるとは夢にも思っていなかったようで、きょとんとした困惑の表情のまましばらく固まっていたが、やがて状況を理解すると、ふふっと悪戯っぽく笑い、私に軽口を叩いてみせた。
「ふふっ、近くにもっと大人気ない先生方もいるんですから、大丈夫ですよ」
〈……そっか。はは〉
その言葉に、私もつられて、乾いた音の笑いを漏らす。
お互いに冗談めかして笑い合いながら、私たちは、他の仲間たちがやって来るのを、ただ静かに、そして穏やかな気持ちで待つのだった。
柴関ラーメンにて、何やかんやで大金の入ったバックを受け取ってしまい、尚且つ再びアビドスへ襲撃せねばならない状況に陥ってしまった便利屋がテーブルを囲んで座っていた。目の前には人数分のラーメンが置かれていた。
「来たあ!!いただきまーす!」
「ひ、一人につき一杯……。こ、こんなに贅沢してもいいんですか?」
運ばれてきた湯気の立つラーメンを前に、ハルカがおずおずとそう尋ねる。そんな彼女に、柴大将は豪快な笑みを返した。
「アビドスさんとこのお友達だろう。遠慮はいらねえよ。替え玉が欲しけりゃ、いつでも言いな」
「!?」
『アビドスの友達』。その予期せぬ言葉に、アルがギョッとして固まる。そんな彼女を横目に、カヨコは目の前のラーメンを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「こんなに美味しいのに、お客さんがいないなんて」
「場所が悪いんじゃないの?廃校寸前の学校の近くだし」
「まあ、美味しいからいいけど。それじゃあ、いただ……」
「……じゃない」
さあ、目の前の美味しいラーメンを啜るぞ、と、便利屋の面々が勢いよく箸を持ち始めた、その時。その中で一人、静かに、しかしはっきりと呟く者がいた。
「ん?」
その小さな声に、カヨコが思わず聞き返す。すると、その静かな問いに対し、雷鳴のような、うるさい答えが返ってきた。
「友達なんかじゃないわよぉーーー!!」
ダンッ!と、アルが渾身の力でテーブルを叩く。その予想外の行動と大声に、近くにいた者たちは、驚いて一斉にこちらを振り向いた。
「わわっ!?」
「分かった!!何がずっと引っかかってたのか、今やっと分かったわ!問題はこの店よ!」
「!?」
突拍子もないことを言い出し始めたアル。そのあまりにも突飛な発言に、ムツキが思わず聞き返した。
「どゆこと!?」
「私たちは、仕事でこの辺りに来ているの!もっとハードボイルドに!!アウトローっぽく!!それなのに、何なのよ、この店は!お腹いっぱい食べさせてくれるし!!あったかくて親切で!気さくに話しかけてくれて、和気藹々としてて、ほんわかしたこの雰囲気!こんな場所にいたら、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
「それに何か問題ある?」
むしろ良いことではないか、と問うムツキ。その至極真っ当な指摘に、アルは今さらながら目を吊り上げて反論した。
「ダメでしょ!メチャクチャでグダグダよ!私が一人前の悪党になるには、こんな店は要らないのっ!私に必要なのは、冷酷さと無慈悲さと非情さ!こんなほっこりした感じじゃない!!」
「いや、それは考えすぎなんじゃ……」
ここまでの暴走っぷりに、さすがのムツキも困惑を隠せない。しかし、アルが口走った『この店はいらない』という、その一言がいけなかった。その言葉は、静かに眺めていたハルカの中で、とんでもないスイッチを入れてしまうには、十分すぎるほどの威力を持っていたのだ。
「それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」
「……へ?」
何だか嫌な予感がする。便利屋の誰かが本能でそう感じた。その時、ハルカはあるものを取り出した。
「良かった、ついにアル様のお力になれます」
「起爆装置?何でそれを……」
「ハルカ、ちょっ、ちょっと待っ……」
唯一、嫌な気配を察知したカヨコは、彼女の行動を止めかけるも……もう遅かった。
ハルカは、既にボタンを押していた。
「……へ?」
アルの戸惑う声も虚しく、辺りに眩い閃光が走りーー。
ドゴゴゴゴゴゴーーーン!
一方その頃、アビドス高等学校では、ホシノと囚人たちを除いたメンバーで、会議が行われていた。ホシノは事情を知っているのでいいとして、囚人の方はというと、イシュメールは別の学園へ出張中、他の二人はあまりにもマイペースが故に遅刻……とのことだった。
……早く来てしまった私が、なんだか馬鹿みたいだ。
少し人が足りない会議も、無事に終わりかけていた、その時。私たちの耳に、とんでもない知らせが飛び込んできた。
「前方、半径10Km内にて大規模な爆発を検知!近いです!」
アヤネの切羽詰まった知らせに、最初に反応したのはシロコだった。
「10kmってことは……市街地?まさか、襲撃!?」
「衝撃波の形状から確認すると、C4爆弾の連鎖反応かと思われます。砲撃や空爆ではないですね……。もう少し詳しく確認してみます!」
アヤネは冷静に状況を分析しながら、自らのタブレットを操作する。すると、新たな情報を見つけたらしく、再び口を開いた。
「……爆発地点、確認できました。市街地です!正確な場所は……柴関ラーメン!? 柴関ラーメンが、跡形もなく消えていました!」
「はあ!? どういうこと!? なんであの店が狙われるのよ!」
「戦略的な価値もなく、重要な交通網が近いわけでもないのに。一体、誰が……」
「ま、まさか、私を狙って……?」
それぞれが爆破の対象を考察し、セリカが勝手に怯え始める。その様子を眺めていると、隣にいた先生に、そっと肩を叩かれた。
“……ねぇ。柴関ラーメンを知っている人って……私たち以外にいたかな?”
〈私たち以外か……あっ、便利屋? ……まさか、便利屋かも!!〉
“しっ! あんまり大きな声で……。待って、今、便利屋って言った?”
〈他に候補はいないだろうけど……〉
“……そんな! あんなに情に篤い生徒たちが、わざとそんなことをするはずがない! ……だとしたら、何かの間違いで、とかか?”
〈生徒を疑わないその心構えはいいが……。で、どうするんだい?〉
そんな大人たちのひっそりとした会話が交わされている間に、シロコがすっと立ち上がり、外へ向かって走り出した。
「憶測は後でも遅くない。まずは、何らかの手を打たないと!」
「そうですね! 今はそれどころじゃありません!! 急いで向かいましょう!」
「ホシノ先輩には私が連絡します! 皆さん、出動を!」
次々と教室を飛び出していく生徒たち。その中に、柴大将の安否を心から心配するセリカの姿があった。
「ど、どうなっちゃったのよ!! 大将……。無事でいて……!」
〈……先生、行こう。後から来たヒースクリフたちが心配だ〉
“巻き込まれている可能性があるもんね……ついていくよ!”
ひとまず生徒達と一緒に向かいたかったが、囚人達の安否が心配だ。生徒達に死体を見つけられたら困ってしまうので、私たちは彼女より先に目的地へ辿り着くことになった。
〈……よし。どうやら、みんなの姿は見えないな。無事に先に着いたようだが……〉
“彼女たちを置いてきてしまうのは少し心苦しいが……これも、生徒たちを危険に晒さないためだ”
私たちは、先日修理したばかりのオフロード車を飛ばし、何とか生徒たちより先に現場へと辿り着いた。途中、生徒たちに「抜け駆けだ」と詰め寄られる場面もあったが、そこは先生が何とか言い訳をして丸め込んでくれた。
しかし、いざこの現場に到着したものの、その状況は、想像を遥かに超えて凄惨なものだった。
辺り一面には、爆風によって舞い上がった砂塵が立ち込め、視界がうまく確保できない。それに加え、あちこちで炎が燃え盛る音、放置された車のアラーム、そして、鼻を突く火薬のきつい匂いが充満しており、立っているだけで気分が悪くなってくる。
“えっと……ロージャ! ヒースクリフ! いるかー!”
先生が、砂塵の向こうに向かって大声で叫ぶ。
〈死んでいたらどうするんだ! ……待っていろ、今、時間を……!〉
私は、最悪の事態を想定し、反射的に自らの能力を発動させようとした。だが、その前に、砂塵の中から、聞き慣れた声が返ってきた。
「……だ、ダンテ……? 先生……?」
砂塵の中から、か細い声が返ってきた。声のした方へ駆け寄ると、そこにいたのは、おびただしい量の血に塗れながらも、かろうじて四肢を繋ぎ止めているロージャだった。その服は破れ、体中が痛々しい傷で覆われている。
“ロージャ! 大丈夫か!?”
先生が駆け寄り、彼女の肩を支える。
「あはは……。見ての通り、ボロボロよ……。でも、まだ、生きてる……。それより、ヒースが……!」
ロージャは、震える指で瓦礫の山を指さした。彼女に案内されるようにして、その場所へ向かう。そこには、信じがたい光景が広がっていた。建物の巨大な瓦礫の下敷きになり、完全に絶命している、ヒースクリフの姿が。
〈……やっぱりか〉
ボロボロのロージャを発見した時から、こうなることは予測していた。瓦礫の山。その下には、無残に押し潰されたヒースクリフの姿があった。
“……まさか、ここで時間を巻き戻すつもりか?”
〈悪いけど、ここは使うしかない……〉
“そうじゃない……。仮に巻き戻せたとして、彼は再び息絶えるのも時間の問題だ。ていうか、君の蘇生能力は苦痛を伴うんだろ?”
〈……別に、何万回も回していたら、こんな苦痛も慣れてしまうが?〉
“……はぁ。やっぱり君たちはおかしいよ……”
先生が心底呆れたように溜息をつく。私が何を言っても、彼には理解できないだろう。だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「ねぇ……ダンテ……。私だけ、時間を巻き戻せないの?」
隣で支えられていたロージャが、荒い息の中、私にそう頼み込んできた。
〈……いや、時間を巻き戻すのには、全ての囚人の肉体を巻き戻してしまう。だから、そんな繊細なことは……〉
「んんん!もう!さっさと時間巻き戻して!」
〈……ちなみに策は?〉
「私がこの瓦礫をぶっ飛ばす。で、いい?」
〈は? いけんの?〉
「さあ……? でも、成長してるから、これぐらいなら……」
その根拠のない自信。だが、今はそれに賭けるしかない。
〈……もう分かった。時間を巻き戻す。ロージャ、どうにかしてね〉
「いいよっ!ダンテ!」
ロージャの力強い返事を聞き、私は、いつも通り、時計の針を巻き戻した。精神の海に沈む、あの忌わしい門の前に立ち、囚人たちの腕を、現実へと力強く引き上げる。
〈……!?〉
何だ、これは……!? 今までに感じたことのない、凄まじい痛みだ。以前、囚人の誰かが、吹き飛ばされて柱に刺さった時に感じた痛みぐらいのものだと思っていたが、それとは比べ物にならない。あるいは、先ほどの爆発そのものの衝撃が、囚人たちの死を通じて、私に流れ込んできているのか……。耐えろ。耐えるんだ。理由は分からないが、ここで意識を手放してはいけない。そんな強烈な予感がした。
……よし。なんとか、耐えきったか……。私が激痛に耐えている、まさにその時。
「えいっ!」
ドギャン!
……思っていたよりも、彼女の力は遥かに強かったようだ。
全快したロージャが、その巨大な斧を振り下ろすと、ヒースクリフを押し潰していたはずの巨大な瓦礫は、一瞬にして粉々に砕け散り、その破片は砂塵となって舞い落ちていく。
「……思ってたよりも、力が強すぎたみたい……。ヒース!! 起きて!!」
「……あ? なん――なんだこれは!!?」
ロージャに叩き起こされたヒースクリフは、早速悪態をつこうとしたが、目の前に広がる惨状にそれどころではなくなったのか、即座にその場から飛び退き、安全な場所へと退避した。
“……君たちって、たしか生徒たちのことを『とんでもない力を持っている』とか言っていたような気がするけれど、実際、君たちの方がよっぽどおかしくないかな?”
〈そんなことを、今更聞かれても……〉
先生の、心底呆れたような、それでいて妙に感心したような声に、私はどう返したものかと困惑するしかなかった。
「おい、時計ヅラ。一体、何がどうなってやがるんだ?」
ようやく状況を飲み込めたのか、ヒースクリフがこちらにやってきて、ぶっきらぼうに尋ねてくる。
〈ああ、それはだな……〉
私は、彼が死んでから今に至るまでの経緯を、手短に説明した。
「……なるほどな。じゃあ、さっさとあいつらに会いに行くか」
「あいつらって、アビドスの子たちのこと?」
“そうそう。今頃、すごく心配していると思うからね。さっさと合流しようか”
先生の言葉を合図に、私たちは、まだ燻る煙と瓦礫の中を、仲間たちが待つ場所へと歩き出した。
今の一連の出来事で、新たな謎見つけることができた。私がいなかった頃からか、私がみんなの前に現れた時の頃からだかか……タイミングが分からないが、私の周りで変化が起きているらしい。しかしその原因はわからない……今は後にして、ファウストに聞いてみようか。