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「敵襲ー!!」
「な、なんだぁ!?」
夕暮れ時を迎えて、茜色に染まる自警団の詰め所。
普段ならば僅かな夜警の隊員を残して日中よりも静まり返っているのだろうが、今日は違う。
俺という侵入者により、大混乱を来していた。
「貴様、何者だ!? ここが自警団の本拠地と知ってのことか!」
「街の人間を守るどころか、誘拐するような自警団だろう」
「な――…」
建物の外に裏路地で見かけた馬車と同じ、自警団の紋章が刻まれた馬車が数台停まっていることは確認済だ。
後は、カレンとレジナルドがどこに居るか。
「馬車で攫ってきた子供達はどこだ」
「攫ってきた、だと? 何を――……」
俺が胸倉を掴んだ隊員は、眉間に皺を寄せて声を荒らげた。
だが、その背後に居た隊員が、ハッと息を飲む音が聞こえた。
「お前は知っているのか?」
捕まえていた男を解放し、今ほど反応を示した男の喉元に剣を突きつける。
自警団は国や街に属する兵士では無い。また領主に使える兵士、騎士とも違う。
街の有志により編成された、自衛の為の組織だ。
団内で訓練は受けていても、幼い頃から鍛錬に打ち込んできた騎士や、常に命がけの冒険者とは比べるべくも無い。
「ひぃ、た、助け……」
怯える男の視線が、ちらりと地下への階段に向けられる。
俺は男を突き飛ばすようにして放り出し、地下に続く階段へと走った。
詰め所の地下はじめっとして薄暗く、長く伸びた石床の通路の両脇には鉄格子が嵌められた牢獄が並んでいた。
街に盗賊やならず者が現れたり、酔っ払いが暴れたりした際には賑わうのだろう地下牢は、今は静まり返っている。
俺は階段を降りた先の壁に掛けられていた鍵束を手に取り、牢内を一つ一つ確認するように通路を歩いた。
「カレン!!」
「――お父さん!」
一番奥の牢屋に目指す相手を見つけ、駆け寄る。
可哀想にカレンとレジナルドは縄で縛られ、寒暗い地下牢に閉じ込められていた。
鍵束から牢屋に合う鍵を探そうと闇雲に鍵を差し込むが、鍵が開くよりも先に階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
「おいおい、自警団の詰め所なら一番安全だったんじゃねぇのか?」
「まさか乗り込んでくる馬鹿が居るとは思わないだろう」
足音から、六、七人は居るだろうか。
牢に合う鍵を探す手を止めて、腰に提げた剣をすらりと抜き放つ。
「ようやくご対面だなぁ。てめぇには、随分と世話になったようだ」
「お前は誰だ?」
男達の先頭に立つ柄の悪い男に、声を掛ける。
どう見ても、自警団の隊員とは思えない。むしろ、こいつは取り締まられる側だ。
「お前は誰だと来たか。ケッ、澄ました顔しやがって」
「お、おい、ここには他の団員達も居るんだ。早くこいつをどうにかして貰わないと……」
「わーかってるっての。ったく、団長さんには迷惑は掛けねぇよ」
なるほど。柄の悪い男の背後から現れた小太りな男が、自警団の団長らしい。
他の団員達に知られたくないところを見ると、腐っているのはこの男一人と見るべきか。いや、自警団の馬車を使って誘拐に及んでいる以上は、ある程度は団長の指示に従っているのかもしれない。
「街を守るはずの自警団が、嘆かわしい話だ」
「本当にな。でもよ、ある程度の金を渡して見逃してもらう代わりに、俺達はこの街では殺しなんかはやりはしねぇ。持ちつ持たれつって関係も有るわけよ」
柄の悪い男が笑いながら言った。
デインズ家からの追っ手に攫われたかとも考えたが、どうやら違うらしい。
「お前は――…アレイゴの街に居た盗賊団の親玉か?」
「ご名答。うちの部下が随分と世話になったようだなぁ」
アレイゴの街――あの祭りで賑わっていた街に現れた、人攫いの一味。
祭りの混雑に乗じて子供を攫っていた強盗団が、わざわざ復讐の為に俺を追ってきたと言うことか。
「くだらん」
「何!?」
俺の言葉に、首領が顔を顰める。
その背後に居る男達も、それぞれに武器を構えていた。
「予想していた中で、一番の小物だ」
「貴様――!」
貴族から追っ手が掛かることに比べたら、強盗団に目を付けられたくらい、何ということも無い。
念の為に対策も取っておいたが、そこまでする必要は無かったか……と思いながらも、剣を構える。
カレンとレジナルドの居る牢の鍵を見つけられなかったのは、むしろ幸いだった。
二人には、こいつらが片付くまで牢に居て貰った方が安全だ。
「少し待っていろ」
「はい!」
後方、牢の中で成り行きを見守る二人に声を掛ければ、カレンの力強い声が返ってきた。
怯えること無く、ちゃんと事態を飲み込んでいる。
賢くて、勇気のある子だ。
「なめやがって――…そいつを殺せ!」
首領の指示で、手下らしき男達が迫ってくる。
だが、ここは狭い地下牢。檻に囲まれた通路は狭く、武器を構えた状態で並んで歩くことは出来ない。
「ハッ!」
先頭に立つ男の大振りな剣を躱し、バランスを崩した所に剣を薙ぐ。
ドサリと倒れた男を乗り越えるようにして、次の男が剣を繰り出してくる。だが、中途半端な姿勢では剣筋も安定しない。
甲高い音を立てて剣先を弾けば、両腕が弾かれて急所――喉元ががら空きだ。
「ぐわっっ」
二人目が倒れ、狭い通路に大の大人二人の身体が積み重なる。
こいつらが倒れれば倒れるだけ足場は悪くなる。狭い通路での戦闘は複数人で囲むことも出来ず、各個撃破の的ともなりやすい。
「師匠、すっげぇ……」
興奮したような声は、レジナルドの物だ。
最初はカレンよりも怯えた表情をしていたが、すっかり恐怖も薄れたらしい。
「おい、お前の部下も呼んでこい!」
部下達が次々と倒れる様子を見て、首領が自警団の団長に声を掛ける。
「し、しかし、私の部下は……」
「理由なんてどうとでも付けられるだろう、さっさとしろ!」
二人が言い合う間にも、最後の一人が通路に倒れ伏した。
小山の向こうを睨み据えれば首領が剣を構え、怯えた表情の団長が階段を駆け上がろうとし――その足が、凍り付いたように制止した。
「街の治安を守る立場にある者が、なんと情けない……」
「な、なんだお前は!?」
ゆっくりと階段を降りてきた男に、首領が声を荒らげる。
しかし、その背後から騎士達が姿を現したのを見れば、凶悪な表情は驚愕に塗り替えられた。
「強盗団も、自警団の団長も、全員捕縛せよ!」
「はっっ」
先頭に立つ男の指示で、騎士達が一斉に首領と自警団団長を取り囲む。
「り、領主様……」
「君達自警団のことは頼りにしていたのだが、残念だ。どの程度の団員が関わっているか、徹底的に調査するとしよう」
男の言葉に、自警団の団長がガクリと膝を付く。
俺はようやく一息ついて、男に声を掛けた。
「ご足労いただき、有難うございます」
「なぁに、他ならぬ英雄殿の頼みとあらば当然だ。なぁ、炎風のアストリーよ」
揶揄うような領主――ルーシャン・フランシス伯爵の言葉に、つい苦い表情が浮かぶのだった。
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千椛