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「デロルじいちゃん!その鳥ってなんっていう鳥?」純粋無垢な少年は聞いた。「これか。この鳥はイルマニアンバードといってな。これまで何年生きてきたか私にも分からない不死鳥なんじゃ。」「不死鳥!?死なないの??」「そうじゃ。この鳥は死を知らない。その上飼い主にとてつもないパワーを与えるんじゃ。」「パワー??」「あぁ。飼い主にはイルマニアンバードからとても強くなれる不思議な力をあたえられる。」少年は目を輝かせた。「ということはデロルじいちゃん!!その不思議なパワーを使えるの!?」「フォッフォッ。だが使おうと思ったことはいちどもないのぉ。」「勿体ないよ!!僕なら絶対色んなことやってみたくなるよ!!絶対にね!!」「そんな人には近づかないよ。イルマニアンバードを飼うということはイルマニアンバードに選ばれるということなんじゃ。精神的に大人であり、正義に満ち溢れ、勇猛果敢な人が必要条件なんじゃ。」「僕にもいつか飼える時がくるかな!!」少年はそう言うと少年の祖父はニコリと笑って「お前次第だ。」と言った。そういったことが…..あったっけ。
それから10年が経過した。
デロルじいちゃんが死んだ。
僕は状況が飲み込めず、墓の前でひたすら泣いた。「嘘だ!!デロルじいちゃん!!デロルじいちゃん!!」文通ではつい最近まで元気だと言っていたのに急な訃報だったため、僕は驚愕していた。「オーディンソン!やめなさい!!」母が墓で泣き崩れようとする僕を止めた。僕の名前はン・オーディンソン。15歳になったばかりの男だ。そしてここ、舞台はアジェントルダ。世界地図に乗らないほどの小さな島国。世界的な知名度は無いと言われている。服装は基本的には男は上半身裸、女は胸に布を巻き付けていて、両者下半身に各々の衣装を着ている。「じいちゃん…..うぅ…..デロルじいゃん…..」「いつまでも泣いてんじゃねぇ!!お前はお子様か!!」親戚のケローナおじさんから僕は喝を受けた。「僕はお子様なんかじゃない!!もう一人暮らしをしてる立派な大人だ!!」うぅ…..うぅ…..じいちゃん…..。」ほんと、情けないよね。いくら大好きなじいちゃんが死んだからといってここまで泣かれちゃじいちゃんも罪の意識を感じちゃうかも。じいちゃんの訃報を受けたのは、じいちゃんが死んでから3日後だった。僕は森の隅で一人暮らしをしているから情報が入るのに時間がかかった。その日は丁度、じいちゃんの墓の前で親戚の集まりがあったから僕も参加したんだ。そして、集まりも終わり解散しようとしたその時だった。「イルマニアンバードの件についてなんだけど!ひとついいかな!!」デロルじいちゃんの弟、チロルおじさんが声をあげた。僕はくるっと振り返った。「今、イルマニアンバードを飼育できる環境がある家はないだろう?だから、デロルの弟である僕が跡を継いで飼い主になろうと思うんだ。異論がある人はいないかな??」チロルおじさんはそう言って周囲の意見を求めた。親戚のみんなは「デロルじいさんの弟だから信頼できるだろ。」「この人ならイルマニアンバードに相応しいかもね。」とコソコソと話し始め、結論、チロルおじさんが新たな飼い主になることに決まったんだ。この決断が大きな過ちだったことを当時のみんなはまだ知らなかった。
それから1週間がたった頃、僕は鼻くそをほじりながら家の庭でくつろいでいた。そんな時、外から声が聞こえてきた。「オーディンソン!!オーディンソン!!」幼なじみの女友達、ロマンティカだ。僕はほじっていた鼻くそを外に投げ捨て、急いで手を洗った。「オーディンソン!この間の親戚の集まりは楽しかった??」「じいちゃんの墓の前で泣き崩れてたから楽しくは無かったかな…..。」「あら…..それは気の毒ね。でも文通の内容では元気そうだったけど意外とその…..ぽっくり逝ったわね。」「そうなんだよなぁ。」僕はそこがまだしっくりきてなかった。どうしてそんなに急に亡くなったのか。この1週間、その事ばかりが頭をよぎった。「それはそうとオーディンソン、近日始まるオークション大会に凄いものが出品されるのよ!!」アジェントルダでは毎年、大広場でオークションの大会が開かれるんだ。安いものが取引されたり、最高額1億$で取引されることもある大きな1つの祭りみたいなもんだね。「オークション大会??そういや僕行ったことないな。何が出品されるの?」「鳥なんだけど」「鳥?」「不死鳥なんだって!!」「不死鳥!?!?」僕は一瞬悪い想像をした。「いや、まさかね…..。チロルおじさんに限ってそんなクレイジーな事はしないだろう…..」「チロルおじさんって?」「あぁ、僕の親戚のおじさんだよ。」「確か情報によると、出品者はチロルって人だったわよ。これ、まだ未公開の情報だからここだけの秘密ね。」チロルおじさんはクレイジーだった。「嘘でしょ!?」僕は思わず声を出した。「どうしたの?顔が青いわよ。」「嘘だ…..。その情報!何かの間違いじゃない??だってチロルおじさんだよ!?そんな…..そんなはずは…..。」ロマンティカはブツブツ唱えている僕を見て心配そうにしていた。そして僕は思い切ってロマンティカにイルマニアンバードの話をした。「その話、本当ならまずいんじゃないの!?だって一族に伝わる重要文化財みたいなもんでしょ!?それを売りに出すなんて…..」「どうしよう!!もう今頃オークション会場の小屋か何かに入れられてるのかな!!関係者以外立ち入り禁止の立ってる看板の奥に!!」僕は何より悔しかった。じいちゃんが守り抜いてきた不死鳥の伝説を金に変えられてしまう事に。「いいえ、まだ商品は出品者の自宅にあるはずよ。オークション大会は3日後だから。しかも生き物は当日に持ってくるって決まってるの。」「そ…..そうなの?てことはつまり…..」「チロルって奴の家にまだ居るはずよ!」僕は瞳を濡らした。「その不安は安心の涙?それとも不安の涙?」ロマンティカは僕に心境を訪ねてきた。「グスッ…..どっちもだよ!!」「全くすぐ泣いちゃうんだから。子供ね。」「子供なもんか!!絶対にイルマニアンバードを取り返してみせるからね!!」そして僕らは作戦を立てた。最初に、チロルの家を特定するために僕は実家に帰り、母からチロルの家を聞き出した。母からチロルの家までの地図を貰った僕は、ロマンティカの元へ戻った。「地図、手に入れたよ!」「よし、後はどうやって不死鳥を取り返すかだけね。」「僕、思いついんたんだけど…….」「何?」「深夜に忍び込もうって作戦なんだけど。」「それ、本当に上手くいくの??」「あぁ。チロルおじさんは毎晩寝る時に風通しを良くするために家の扉を開けっ放しにして寝るらしいんだ。」「不用心ね。侵入してくださいって言ってるようなもんだわ。」「そう。だから深夜3時頃にチロルおじさんの家に忍び込んでイルマニアンバードを取り返そう!」「わかったわ。私がチロルってやつの様子を見てるからオーディンソンが鳥を連れ戻してね。それにオーディンソン。そんな奴におじさんなんて呼ぶ必要ないわ。呼び捨てでいいわよ呼び捨てで。」「わ、分かったよ。チロル…….でいいんだね?」僕はいつもとイレギュラーな時に対応が出来ないことを知った。
深夜3時。僕とロマンティカは地図をたどって、何とかチロルの家にたどり着いた。「とうとう来たわね。とてつもない悪の雰囲気を感じるわ。」「いや、気のせいだと思うよ。」「いい?オーディンソン。ハンドサインの確認をするわよ。私が右手をふったら問題ないってサインよ。左手をふったら急いでミッションを遂行してってサイン。で、両手をふったら1回静かにその場で止まってサインだからね?それで、もしその場から私が走っていなくなっていたら…….」「退散って意味だね?」「よく分かってるじゃない。それじゃぁ実行するわよ??」そして僕とロマンティカはチロルの家の扉の前まで来た。「よし、開いてるわね。作戦決行よ。」僕とロマンティカは静かに家の中に侵入した。チロルは、家の扉のすぐ近くにベッドをおいて爆睡していた。ロマンティカは右手をふった。僕は鳥を探すために2階へ上がった。1階から2階まで筒抜けだったため、ロマンティカのハンドサインは見えていた。2階へ上がり左側の部屋に入ると、そこには針金で羽と羽を縛られていた鳥がいた。よく見ると、僕が幼い頃にデロルじいちゃんの家で見た不死鳥、イルマニアンバードだった。僕はよしきた!と思い、イルマニアンバードの針金を解いた。羽をずっと縛られていたせいか羽をばさばさとさせていた。「さぁ、イルマニアンバード。僕の右腕においで。」僕は右腕をのばし、側へ持ってきた。しかし、イルマニアンバードはそこから離れるように逃げていった。それから何度もイルマニアンバードを追いかけたが僕に近づく気配は一切なく、それどころか僕を避けるように家中を飛んで行った。ロマンティカは何をしてるんだ!と思っていたのだろう。あまりにも僕が慌てふためいてドコドコと走り回っていたため、何度も両手をふっていた。後で聞いた話しだけど、「オーディンソン!!静かにして!!起きちゃうわ!!!」と小声で何度も囁いていたらしい。そして、ついにチロルが目を閉じたまま唸り始めたので、ロマンティカはその場から走って逃げた。僕はもう少しでイルマニアンバードを捕まえられそうだったが、諦めて撤退した。その時、ほんの微かにチロルと目が合った気がした僕だったが、まさかなと思いながらその場を去った。
僕とロマンティカはすぐ近くにあった公園のベンチに座った。「なんでだよ!なんでイルマニアンバードは僕から逃げたんだ!!」僕は悔しくて思わず声を出した。ロマンティカは僕の肩を撫でた。「どうして…….どうして…….!!」「きっと何か理由があるはずよ。でないと逃げたりなんてしないわ。」僕は考えた。でも何も思いつかなかった。「ダメだ!ちきしょう!!なんで…….」身体を反らし、空を見つめた。すると、幼い頃におじいちゃんが言ってたことを思い出した。『 イルマニアンバードを飼うということはイルマニアンバードに選ばれるということなんじゃ。精神的に大人であり、正義に満ち溢れ、勇猛果敢な人が必要条件なんじゃ。』正義をもって、勇猛果敢にチロルの家に向かったんだ。足りなかったものは…….ひとつだ。「僕はまだ、子供だったんだ。」この時初めて僕は実感したんだ。自分が「子供」だったということを。するとロマンティカは僕に対して静かに「オーディンソン、自分が子供だと自覚した瞬間、人は大人になるのよ。私はそう思ってる。」と言った。僕は反らしていた身体を元に戻し、空を見上げていた瞳を正面にやった。「大人に…….なるか…。」そう呟くと僕はロマンティカの方を向いた。「ロマンティカ、僕はまた明日チロルの家に行く。」「また夜に侵入するの?」「いや、今度は正々堂々と日が照ってる時に訪ねる。だから僕はここで今日は寝る。ロマンティカ、君を巻き込む訳にはいかない。帰るんだ。」ロマンティカはそう言われると首を振った。「夜だけでも付き合ってあげるわよ。私もここで寝る。」僕は驚いた。ロマンティカなら素直に聞き入れて帰るかと思ってたからだ。「ならロマンティカはベンチでねなよ…!」「私は地面で寝ます。」「なら僕も地面で寝る!!」僕とロマンティカは地面で寝そべってお互いに顔を合わせて笑った。「いつぶりかしら、こんな気持ちになったの」「小さい頃、よくこうやって寝転がって話してたよね」「オーディンソン、いつもおじいちゃんの話してたわよね」「おじいちゃんは僕の憧れだったからね。死んでしまった今も尚…生前に語ってくれた言葉から勇気を貰っているから…。」「例えばどんな言葉??」「勇気の延長線上に行動がなければ何も起こらない……とか」「格好のいい綺麗事ね。」「なんだよ、当時の僕には結構響いたんだぞ!」「うふふふ」「はははは」そうやって何時までも何時までもだべっていたらいつの間にか眠ってしまっていた。
翌朝…「ロマンティカ、僕は行くよ。」僕は覚悟を決めた。ロマンティカは頷いた。そして、チロルの家の戸を叩いた。しばらくすると、髪の毛が逆立っている状態のチロルが出てきた。「おおこれはこれは。オーディンソン君ではないか。さぁ、入った入った。」僕は不気味に歓迎されながら家の中に入った。チロルはコーヒーを入れながら聞いてきた。「一体なんの用で態々ここまで来てくれたんだい?」「イルマニアンバードの……ことに関して来ました……。」僕は辿々しながらも勇気を振り絞って要件を伝えた。「あぁ!!そうか!イルマニアンバードが心配で来てくれたのか!!」チロルは適当なことをぬかした。「心配をしに来たんじゃない!!お前がイルマニアンバードをオークションに売りに出そうとしてるのを阻止しに来たんだ!!」更に勇気を振り絞り、僕はそう言ってのけた。「ははははははは!!」チロルは大きな声で笑った。そして、身を乗り出して拳を握り僕に近寄った。「誰から聞いたんだ?」チロルの予測不能な行動に僕はビビりながら「それは言えない。その話は本当なんだな。」と言った。「昨日の夜だったなぁ!物音がするもんだから目を覚ましたら男の人と目が合ったんだ。お前にそっくりのな!!」チロルは僕の頬をつねった。「それもこれも全て夢ではなかったんだなぁ!イルマニアンバードの羽の針金も取れていたのは偶然ではなかったのかぁ!!また捕まえて針金を付けるのに苦労したよ!!」「僕はこれらの行動に全く罪悪感はない。デロルの意志を金に変えようとするようなお前なんかに罪の意識を覚えてたまるか!」いつの間にか恐れの意識は消えていた。そこにあるのはただチロルを許さないという感情のみだった。「デロルの後にじいちゃんを付けなくなったんだな。大人になったなオーディンソン。デロルの最期の言葉…聞いておけばよかったな。」「最期の言葉!?どういうことだ!!」まさかと思った。「そうだ。デロルが死んだのは俺が殺したからだ。」「嘘だーーー!!!」身体の神経が逆だったのが分かった。僕は頭の中が真っ赤になり、チロルがデロルじいちゃんを殺している映像が浮かび上がった。すると、チロルは机の下から斧を出し、僕の頭目掛けて振り下ろそうとした。家の外、ロマンティカはまだ帰っていなかった。会話を全て聞いていたのだ。そして、僕の嘘だという声で事態は大変なことになっていると察した。僕を守ろうとするためチロルの家に侵入したロマンティカ。自分の力で今出来ることはイルマニアンバードを解放してやることだと確信した。今の僕なら、イルマニアンバードの飼い主になれるかもしれないと直感で感じたかららしい。僕は振り下ろされた斧から頭を守るために椅子で防御した。「チッ!クソが!!その椅子いくらすると思ってんだ!!」チロルの攻撃はヒートアップしていった。狙うところを頭だけでなく、脇腹や脚にまで斧を振り下ろし始めた。ロマンティカは2階に到達し、イルマニアンバードを見つけた。「待ってて。今解いてあげるから。」針金でグルグルに巻かれている羽を解いてあげるロマンティカ。すると、ついにその針金を解き終えたのだった。「お願い、オーディンソンを助けて。」ロマンティカはそう言うとイルマニアンバードを部屋から出した。チロルはイルマニアンバードが部屋から飛び出したことに気づいた様で、 しまったと思ったのか 腕を大きく広げて「さぁ、伝説の不死鳥よ我が力となるがいい!!」 と大声で叫んだ。イルマニアンバードはそんなチロルを無視した。そして僕の方に飛んできて、僕の肩にとまった。 膨大なエネルギーが体中を駆け巡っていくのを実感した。「これが…….イルマニアンバードの不思議な力…….!」チロルの顔は真っ青になった。「こんなはずじゃ…こんなはずじゃ無かったのに!!」チロルは血迷ったのか斧をもう一度僕に振り下ろした。僕はその様子がスローに見えたので、斧を右手で抑えて、握力で柄の部分を握りつぶした。「きっと、デロルは不意をつかれて殺されてしまったのか。いや、デロルはチロルを信用していたから防がなかったんだ。」僕はそう結論づけた。
その後僕はチロルに出頭させ、真っ青になったチロルは警察に殺害の罪で逮捕された。イルマニアンバードは僕の身体から離れる様子はなく、完全に僕が新しい飼い主になった。 僕の母さんと父さんはその事を知ると、即刻僕の家に来て事態を尋ねてきた。全て話すと母さんと父さんは喜び、一族の救世主だと言ってくれた。そして、僕の飼い主記念にお祝いをしてくれた。もちろん、ロマンティカも呼んだ。ロマンティカは母さんから僕の将来のお嫁さんだと言われ、顔を真っ赤にしていた。お祝いはそうして終わったのであった。夜、僕とロマンティカは夜空を見上げながら地面に座り込んでいた。ロマンティカは尋ねた。「不思議な力手に入れたじゃん?何かに使おうと思ってるの?」僕は少し考えて、こう答えた。「いや、使おうとは思わないね。」デロルじいちゃんの気持ちを理解できた瞬間だった。