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鷹槻れん

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仮に晴永の手が空いていようと、掛かってきた電話を真っ先に受けて要件を見極めるのは秘書の役目である。瑠璃香は迷わず受話器を取った。
「はい、社長補佐室、秘書の小笹でございます」
相手は、このあと十四時から晴永との打ち合わせを予定している三葉商事の担当者だった。
「はい。……十五時から、ですか?」
先方の都合で、打ち合わせの開始時間を一時間遅らせることは出来ないかという相談だった。
「少々お待ちいただけますでしょうか。確認いたします」
そう断って保留にすると、瑠璃香は晴永へ顔を向けた。
「新沼社長補佐」
「ん?」
「三葉商事さんからです。十四時からのお打ち合わせを、十五時からに変更出来ないかとのことですが、いかがいたしましょう?」
「十五時?」
晴永が予定を確認する。
「ああ、大丈夫だ。変更してもらってくれ」
「承知しました」
瑠璃香はすぐに電話へ戻った。
「お待たせいたしました。十五時からで問題ございません。では、本日は十五時よりお待ちしております。――はい。よろしくお願いいたします」
通話を終えたところで、
「ただ……」
晴永が予定表を見ながら眉を寄せた。
「そうなると、その後の予定に支障が出るな」
「営業部との打ち合わせですね?」
「ああ」
「お任せください」
すぐに答えると、晴永が顔を上げる。
「そちらも含めて、本日の予定がすべて滞りなく進むよう調整いたします」
「出来そうか?」
「はい。営業部との打ち合わせは社内でのことですし、まずは開始時間をずらせないか確認してみます」
「分かった。頼む」
「承知しました」
晴永の了承を得て、瑠璃香はすぐに営業部長へ内線をつないだ。
事情を説明し、庭戸部長の都合を確認すると、幸い今からなら時間が取れそうだという。即座に晴永へ確認を取ったが、元々三葉商事との会合を予定していた時間帯だ。空いた枠へ営業部との打ち合わせを入れることに、晴永も異存はなかった。
そのおかげで以後のスケジュールには一切影響を与えずに予定を調整することができて、瑠璃香は内心ホッと胸を撫でおろす。
「庭戸部長がこちらへ上がっていらっしゃるそうなので、お出迎えに行ってまいります」
エレベーターがこのフロアに着いた際、晴永が待つ社長補佐室へ滞りなく案内できるようにすると告げた瑠璃香へ、晴永が優しい笑みを向ける。
「ありがとう、小笹さんが来てくれて、本当に良かった」
心底嬉しそうに言われて、瑠璃香の胸がトクンと弾む。
「こ、これくらいは。……専属秘書ですから」
少し照れながら答えると、晴永は一瞬瞳を見開いてから、フッと微笑んだ。
「ホント、頼もしいな」
「!」
その一言に、瑠璃香は思わず頬を緩ませそうになる。
けれど、今から庭戸部長を迎えに行かなければならない、と自分に言い聞かせて、必死に耐えた。
「ありがとうございます」
どうにか秘書らしく返すと、一礼して社長補佐室を出る。
(やった……!)
扉の外に出たと同時にグッと拳を握った。心の中では、思いきりガッツポーズをしている。
研修を受けている間は、ずっと不安だった。
自分に本当に秘書なんて大役が務まるのだろうか。
晴永の足を引っ張ったりしないだろうか。
けれど、実際にやってみれば、研修で身につけたことだけではなく、これまで晴永の部下として働いてきた時間のすべてが、今の仕事に繋がっているのを実感できて――。
それが分かっただけでも、随分と気持ちが楽になった。
コメント
2件
るりかちゃん、さすが٩(ˊᗜˋ*)و はるながさんにも認められて嬉しいね!
瑠璃香の仕事ぶり、丁寧に描かれてて安心した。時間変更の対応も手際よくて、読んでて気持ちいい。それ以上に、晴永の「来てくれて良かった」で扉の外で拳を握る瑠璃香が可愛くて……研修中の不安から、部下として積み重ねた時間が今に生きてるって気づく流れがじんときた。隣にいる理由、ちゃんと積み上がってるね。次も楽しみにしてる🔥