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kaede🍁
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篝火

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四人での旅が始まると、阿部と深澤は自然と同じことを考えていた。
「まずは、めめと照のレベル上げだね。」
「うん。」
深澤も頷く。
目黒と岩本はまだレベル10。
無理はさせられない。
最初のうちは、阿部が後方から攻撃魔法を放ち、深澤が回復を担当する。
目黒と岩本は二人の後ろから様子を見ながら戦っていた。
最初はぎこちなかった連携も、戦闘を重ねるたびに噛み合っていく。
『レベルが15になりました。』
『レベルが20になりました。』
経験値を積むたびに、二人の動きは目に見えて変わっていった。
「はぁっ!」
目黒の剣が魔物を一刀両断にする。
「せいっ!」
岩本の拳が大きな魔物を吹き飛ばした。
「すごい……。」
阿部は思わず笑顔になる。
「もう前に出られるね。」
「うん。」
深澤も嬉しそうに頷いた。
やがて役割が逆転していく。
前衛には目黒と岩本。
後衛には阿部と深澤。
「めめ!」
「任せて!」
目黒が盾となり、魔物の攻撃を受け止める。
「照!」
「こっちは片付ける!」
岩本は素早い動きで敵陣へ飛び込み、次々と魔物を倒していく。
阿部は後方から魔法で援護する。
深澤は傷ついた二人へ迷いなく回復魔法を飛ばす。
四人の息はぴったりだった。
___________
次の街の城門が見えてきた頃。
目黒が笑顔で自分の冒険者証を見せる。
「見て。」
阿部も覗き込む。
「レベル45!?」
「照も。」
岩本も照れくさそうに笑う。
「同じ45。」
「えぇ!?」
阿部は慌てて自分の冒険者証を見る。
「……40。」
「あれ?」
深澤も苦笑しながら見せる。
「俺は50。」
「ふっか50!?」
阿部は目を丸くした。
「何で!?」
深澤は肩をすくめる。
「僧侶って回復するだけでも経験値入るみたい。」
阿部は自分の職業欄を見る。
『賢者』
説明文には小さく書かれていた。
『賢者は多くの魔法を扱える代わりに、経験値効率が低く、成長に時間を要する。』
「……。」
「今さら!?」
阿部は思わず叫んだ。
「もっと早く教えてよ!」
深澤が笑い出す。
「あべちゃん、今気付いたの?」
「気付かなかった!」
「レベル上がるから普通だと思ってた!」
目黒と岩本もつられて笑う。
ひとしきり笑ったあと。
目黒が真剣な表情で阿部を見る。
「今までありがとう。」
「俺たちを守ってくれて。」
岩本も静かに頷いた。
「ここからは違う。」
「これからは俺たちが前に立つ。」
目黒は剣を軽く掲げる。
「あべちゃんと。」
「ふっか。」
「二人は俺たちが守るから。」
岩本も拳を握る。
「安心して後ろにいて。」
阿部と深澤は顔を見合わせた。
そして同時に笑ってしまう。
「結局。」
阿部が苦笑する。
「この世界でも守られる側なんだ。」
「本当だね。」
深澤も肩を揺らして笑う。
前には頼もしい戦士と武道家。
後ろには賢者と僧侶。
四人は新しい街へ向かって歩き出す。
守る者と守られる者。
その役割は変わっても、四人が仲間であることだけは変わらなかった。
___________
四人で旅を始めてからというもの、道中で苦戦することはほとんどなかった。
目黒が最前線で剣を振るい。
岩本が素早く敵陣へ飛び込み。
阿部が後方から強力な攻撃魔法を放ち。
深澤が傷ついた仲間を回復する。
誰か一人が無理をすることもなく、四人の役割は自然と噛み合っていた。
連携は日に日に洗練され、街の人々からも「あの四人なら安心だ」と噂されるほどになっていた。
そして――。
「見えてきた。」
岩本が遠くを指差す。
黒い雲に包まれた巨大な城。
魔王城だった。
「あっという間だったね。」
阿部がぽつりと呟く。
「本当に。」
深澤も頷く。
四人は城のふもとにある小さな宿へ泊まることにした。
___________
夜。
目黒と岩本は翌日の戦いに備えて早めに眠ってしまった。
阿部と深澤だけが宿の食堂で温かいお茶を飲んでいた。
窓の外には魔王城が見える。
静かな夜だった。
深澤がぽつりと口を開く。
「ねぇ、あべちゃん。」
「うん?」
「魔王を倒したらさ。」
「俺たち……元の世界へ戻るのかな。」
阿部は湯気の立つカップを見つめた。
「どうなんだろう。」
「天使、何も説明してくれなかったもんね。」
「だよね。」
二人は苦笑する。
「あの天使なら、『終わったから帰っていいよ』くらいの軽さで送り返しそう。」
「ありそう。」
二人は思わず笑った。
でも、その笑顔はすぐに少しだけ寂しそうなものへ変わる。
阿部が静かに言う。
「帰れたら嬉しい。」
「でも。」
「この世界のめめと照に会えなくなるのは、ちょっと寂しいかな。」
深澤もゆっくり頷いた。
「俺も。」
この世界の2人は、優しくて、頼もしくて。
いつの間にか大切な仲間になっていた。
「帰る方法が分からない頃は不安だったのに。」
阿部は苦笑する。
「今は帰れるかもしれないって思うと、それはそれで複雑。」
「ほんとだね。」
二人はしばらく黙ったまま、魔王城を見つめていた。
___________
翌朝。
「よし。」
目黒が剣を抜く。
「行こう。」
岩本も拳を合わせる。
「終わらせよう。」
四人は魔王城へ足を踏み入れた。
城内には強そうな魔物が何体もいたが。
阿部の魔法で一掃される。
「俺たちも負けてられない。」
目黒と岩本が次々と敵を倒していく。
深澤は最後尾から仲間を支え続けた。
そして。
玉座の間。
黒いマントをまとった魔王が立ち上がる。
「よく来たな、人間ども。」
「世界は我のもの――」
最後まで言い終わる前に。
「行くよ!」
目黒が一直線に駆け出した。
「はぁぁっ!」
岩本が横から飛び込む。
阿部の雷が魔王を直撃する。
深澤の補助魔法が三人を包む。
魔王は大きくよろめいた。
「ぐっ……!」
目黒の剣が閃く。
岩本の拳が炸裂する。
阿部の魔法が追撃する。
数分後。
魔王は膝をついた。
「ば……馬鹿な……。」
「こんなに……強いパーティーとは……。」
最後の言葉を残し、魔王は光となって消えていく。
静寂が訪れた。
四人は顔を見合わせた。
そして最初に口を開いたのは深澤だった。
「……。」
「正直。」
「魔王、あんまり強くなかったね。」
一瞬の沈黙のあと。
「確かに。」
阿部が思わず吹き出す。
目黒も苦笑しながら剣を納めた。
「道中の中ボスの方が苦戦したかも。」
岩本も腕を組みながら笑う。
「レベルを上げすぎたな。」
四人の笑い声が、静かになった魔王城に響いた。
しかしその直後。
魔王が消えた場所から、眩しい白い光がゆっくりと広がり始めた――。
___________
眩しい光が包み込む。
「……。」
阿部は思わず目を閉じた。
身体がふわりと浮くような、不思議な感覚。
遠くで、あの天使の声が聞こえた気がした。
「お疲れさま。」
「クリアおめでとう。」
「じゃあ、帰すね。」
相変わらず軽い口調だった。
「え、ちょっ――」
阿部が何か言おうとした瞬間、意識が遠のいていく。
___________
「……さん。」
「阿部さん。」
肩を優しく揺すられる。
「ん……。」
ゆっくり目を開けると、見慣れた天井があった。
「あれ……?」
車が揺れている。
目の前にはテレビ局のスタッフ。
窓の外には高速道路の景色。
「ロケバス……?」
ぼんやりと呟く。
隣を見ると、深澤も同じタイミングで目を覚ましていた。
「ふぁ……。」
「寝ちゃってた。」
深澤は大きく伸びをする。
スタッフが笑いながら声を掛ける。
「お二人とも、ぐっすりでしたね。」
「長時間の移動ですから。」
「目的地まで、もう少しですよ。」
「あ、ありがとうございます。」
阿部は慌てて姿勢を正した。
スタッフが前の席へ戻ると、阿部はそっと深澤を見る。
「……。」
「……。」
目が合う。
二人とも同じことを考えていた。
「ふっか。」
「うん。」
「夢。」
「見た?」
深澤は静かに頷いた。
「見た。」
「魔王討伐。」
阿部は思わず笑ってしまう。
「やっぱり。」
「同じ夢だったんだ。」
深澤も笑う。
「賢者の阿部ちゃん。」
「僧侶の俺。」
「戦士のめめ。」
「武道家の照。」
「あの天使。」
二人は同時に吹き出した。
「適当だったよね。」
「めちゃくちゃ適当。」
「名前まで勝手に決められたし。」
「俺なんて『色々柔らかそうだからふっか』だった。」
「俺は『女の子だからあべちゃんね』だったもん。」
笑いが止まらない。
しばらく笑ったあと、阿部が窓の外を眺めながら呟く。
「でもさ。」
「うん?」
「思ってたより、平和だったね。」
深澤も苦笑する。
「そうなんだよ。」
「もっと苦戦すると思ってた。」
「魔王も。」
阿部が肩をすくめる。
「あんまり強くなかった。」
「途中の中ボスの方が手強かった気がする。」
「レベル上げすぎたね。」
「完全に。」
二人はまた笑い合った。
阿部は少しだけ残念そうな表情を浮かべる。
「せっかくだったら。」
「もう少しスリルがある旅でもよかったかも。」
深澤も頷いた。
「最後くらい、魔王らしく大技とか使ってほしかった。」
「ね。」
「拍子抜けだった。」
二人が笑っていると、前の席からスタッフが振り返る。
「何か面白い夢でも見たんですか?」
阿部と深澤は顔を見合わせる。
そして声を揃えた。
「ちょっと、長い夢を。」
「すごく不思議な夢でした。」
ロケバスは目的地へ向かって静かに走り続ける。
窓の外を流れる景色を眺めながら、阿部はふと思う。
あの世界は、本当に夢だったのだろうか。
その答えは分からない。
けれど、どこか懐かしい気持ちだけは、いつまでも心の中に残り続けていた。
コメント
1件
ああ、読了しました。この第3話、いいですね。全体的にすごく「ほっこり」というか、読後感が清々しい。 最初のレベル上げパートで、阿部と深澤が後ろから見守ってたのが、だんだん役割逆転して「今度は俺たちが守る」って言う目黒と岩本の成長描写、すごく自然で胸に来ました。あと、レベル差がついてるのに阿部が「今さら!?」って叫ぶところ、思わず笑っちゃいました。 そして何より、現実に戻ってからのロケバスでの会話。「魔王、あんまり強くなかったね」って言い合う感じ、ゲームのノーマルモードで適当にレベル上げてたらラスボスが拍子抜けだった、みたいな感覚がリアルで。途中の中ボスの方が強かった説、あるあるすぎる。 あ、でも個人的に一番好きだったのは、夜の食堂で「帰れたら嬉しい。でも、この世界のめめと照に会えなくなるのは寂しい」って阿部が言うシーン。夢オチと割り切らずに、あの世界の絆をちゃんと肯定してる感じがして、じんわり来ました。 「ノーマルモード」ってタイトルも、魔王があっさり倒せたことと、別れが淡々と進む感じ、両方に効いてて洒落てますね。