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“――アンタがいかに無能かって事を、皆の前で恥をかかせてあげるよ☆”
ノクティスが再度、玉座へと腰を降ろした瞬間をユーリは見逃さなかった。
『今だ!』
それは誰にも気付かれない程の、小さな反抗の瞬間。
「いけないな、ユーリ」
突如ノクティスが咎める様な、それでも穏やかな口調で口を開いていた。
“ーーっ!?”
「君は直属なのだから、あまり妙な事を考えてはいけない。他の者に示しがつかないだろう?」
「えっ?」
突然なるノクティスの言葉が意味に、誰もが理解出来ず沈黙する。
心を見透かされたかの様に、固まって動けないユーリ。
“ーーっ!?”
その時、彼女は確かに見た。玉座に居座っていた筈のノクティスが、何時の間にか目の前に移動し、自らに向けて剣を振り切っていた瞬間を。
『なっ……何で?』
声は出せない。
何故ならユーリの頭と身体を繋ぐ首は、既に離れていたのだから。
その頭はゆっくりと地へ墜ちていく。
人はその頭が身体から切り離されても、数秒は意識が保っていられる。脳へはまだ、血液が循環している為だ。
ユーリは突っ立ったままの、頭の無い己の身体を地面から見上げていた。
“――嘘だ、そんな……”
首の断面からは、一拍子遅れて鮮血が吹き上がっている。
『いっーーいやあぁぁぁ!!』
それは声にならない叫び。
突然執行された、公然での処刑。
冥王へ反旗の思想を抱く事。それだけで“死”に値する行為である事を、ユーリは身を以て知る事となった。
やがて、その意識は完全に闇へとーー
…
***
「あああああぁぁぁぁぁ!!」
突然のユーリの叫び声に、一同唖然と皆目。
「どうしたユーリ? いきなり……」
「王の御前ですよ?」
その突然の悲鳴にルヅキとハルが、呆けた様に突っ立ったままの彼女へ、耳打ちする様に声を掛けた。
「えっ!?」
その声にユーリは、我に還ったかの様に辺りを伺う。
「嘘……」
何も変わる事は無い光景。
「首が……あるっ!?」
“どういう……事?”
変わらず有る自らの首を擦りながら、ユーリは恐る恐る玉座を見上げる。
玉座にはノクティスが頬杖を突いたまま居座り、その穏やかだが底知れぬ瞳で自身を見据えていた。
「はっ!」
“――ま……まさか? 心を読んだうえ、殺気だけでボクを?”
「くっ!」
その事実を知った時、ユーリは糸の切れた人形の様に膝から崩れ落ち、踞るのであった。
その状況を見たルヅキとハルも、事の顛末の意味に気付く。
『まさか!?』
それは王への反目。そして制裁。
「申し訳ありませんノクティス様!!」
ルヅキが即座にノクティスに向かって頭を下げ、懇願の声を上げる。
ユーリを守るかの様に、ハルも左腕を彼女の前に添え、頭を下げていた。
「ユーリの非は筆頭である私の責。どうか私に免じて、ユーリの無礼をお許しください!」
それはなりふり構わぬ必死の懇願。
一同の空気に緊張が走る。
「どうか……どうかお許しを!」
ルヅキの懇願を前に、ノクティスは変わらず頬杖を突いたまま、眼下を見下ろしていた。
「何の事かな?」
ノクティスは頬杖を突いたまま、何事も無かったかの様に受け答える。
惚けているのか。その変わらぬ表情から、真意を伺い知る事は出来ない。
「何も無かった。そうだろうユーリ?」
そう。何も起きなかった。
ただ、ユーリだけは痛感していた。事の重大さと恐ろしさを。
「はっ……はい!」
踞る彼女のその声は震えていた。
この三年の間、すっかり忘れていただけなのかも知れない。改めて思い知らされていた。
“――ボクは……馬鹿だ。あれが冥王様だった事……。強い、とてつもなく強過ぎる事を!”
冥王のその底知れぬ強さと恐ろしさに。次元の違う、至高の存在である事を。
「それでいい。君達は本当に物分かりが良くて、私は嬉しいよ」
寛大とも取れるノクティスの裁定に、ルヅキはホッと一息をつく。ユーリが赦されて無事だった事に。
もし万が一、ユーリの処刑が本決まりともなるとするなら、ルヅキは自分の首と引き換えにでも彼女の命を庇うつもりであった。
『良かった……』
ルヅキはユーリの震える身体、その頭に手を添える。
その瞬間、まるで安心したかの様にその震えは止まり、ユーリは潤んだ瞳で訴えかける様にルヅキを見上げたのだった。
“ありがとう、そしてごめんね”ーーと。
ノクティスは再度立ち上がり、天を仰ぐ様に両手を伸ばし、恍惚の笑みを浮かべる。
「狂座の戦士達よ、刻は再び巡り始めた」
その教祖の如き崇高な声の言霊に、一同は一斉に深く頭を下げ、平伏した。
「手始めにまず、日本の中核となる江戸を落とし、我々の存在を再度知らしめる」
いよいよ狂座が、本格的に動き出そうとしていた。
ノクティスはその戦略を述べていく。
「そしてこの世界の本来の在るべき姿を、地上に這いずる者達へ思い知らさねばならない」
そこでノクティスは“ただし”と加える。
「あっさりと終わらせてはいけないよ? それでは“つまらない”からね。刻は悠久に続く事を忘れぬ様……」
意味深なノクティスの台詞。
「ハハッ!!」
それに同調するかの様に一同が一斉に声を揃え、それが王の間に反響する様に木霊した。
「エルドアーク宮殿を現世へ」
ノクティスのその一言により、一同から一斉に歓声が沸き起こる。
“全ては冥王様の意思の下に”
狂座は再び、現世へと巡り始める。
「さあ、愉しい退屈凌ぎの再開だ」
ノクティスの表情が、星に狂いし妖しく笑う。
それはまるで、この時を待っていたかの様に。
“悠久に続く退屈凌ぎ”
現在(いま)、全てが狂い始めようとしていた。