💙🎸×💛🎹 ※喫煙、同棲、付き合ってます
💛🎹視点
天気のいい昼下がりのこと。自然に目が覚めるまでぐっすり寝た後、美味しいご飯を食べて今に至る。つい最近まで忙しくて家を片付けられて居なかった。いくら若井と同棲してるとはいえ、同じメンバーだしスケジュールもほぼ一緒だ。暇な今、家中を掃除しようという話になった。
「涼ちゃーん!これ捨てちゃっていいの?」
「え、ダメダメ!なんか捨てるの勿体ないよ!」
「勿体ないって…。断捨離だよ断捨離!どんどん物増えていくだけだから!」
「あぁ〜!!!僕のスタンプ……。」
若井の手に握られていたのは、昔水族館で買った小さなスタンプ。なんだか捨てるのが勿体なくて今日まで取っておいたが、今目の前で無慈悲にも捨てられてしまった。僕と違って若井は、悩むことなく物を捨てられるみたいだ。
「ちょっと俺あっち片付けてくる。あ、そこの服とかもう要らなそうなのあったらまとめておいて。」
そこ、と指をさされたのは、普段からあまり使っていないクローゼット。この家にクローゼットはふたつあるのだが、こっちは昔の服や着なくなった服が入っている。
早速クローゼットを開け、まあまあなスペースがある空間をざっと見回してみる。今とは系統が違う服が沢山あって見るだけでも面白い。昔着ていた記憶のある服や、色褪せたズボン。それぞれを手に取って思い出を辿っていく。
そんなことを繰り返していると、見覚えのない服が目に付いた。恐らく若井の服だろうか。手に取ってデザインや質を確認してみるが、今でも全然着られそうだ。着てみてもらおう、なんて考えが過ぎり、ハンガーから服を取った時、軽い音と共に何かが床に落ちた。
「……ライター?」
銀色のフォルムにお洒落なデザインの塊が床に転がっていた。何となくお店で目をすることがある見た目に、困惑した声が出る。まさかと思い、洋服のポケットに手を入れてみる。直ぐに指先に触れた軽い何かを掴み、視界に映す。
「煙草…吸ってたんだ。」
緑と黒がベースの箱に、お洒落なフォントで「Marlboro」と印刷されている。煙草を吸っていたなんて話は聞いたこともなかったし、ずっと一緒に居たのに知らなかった。自分の知らない過去の若井に、なんだか胸がザワつく。
「涼ちゃん?」
突然後ろから掛けられた声に肩が跳ねる。床に落ちたままのライターを慌てて拾おうとするが、僕の指先が触れるよりも早く、若井が拾い上げてしまう。
「なんでライター?うちにこんなんあったっけ?」
手に取ったライターに首を傾げ、疑問を持った若井の視線が、僕の手に握られたタバコに落とされる。
「え、?涼ちゃんブラメン吸うの……?」
「違うよ!?若井の服整理してたらポケットから出てきて……」
ブラメン、という単語はイマイチ分からないが、何かあらぬ誤解をされていることは分かる。
「あー………、ごめん、入れっぱなしだったね。」
違う、そんな言葉を求めているんじゃないのに。
「…なんで言ってくれなかったの?」
「なんでって…。もう吸ってないし…。」
「……。」
そう言い、バツが悪そうに視線を逸らす若井に、何も言葉が出てこなかった。いや、言いたいことは沢山あるが、1度口を開いてしまえば止まらない気がして。
「なんで涼ちゃん……」
泣いてるの?
そう言われ、はっ、とする。いつの間にか流れていた涙が、手に握られていた服に零れ落ちていた。慌てて服の袖で涙を拭おうとすると、優しい手つきで制止される。
「ダメだよ、目赤くなっちゃう。」
「…ごめ、っ、…若井の服…」
「着ないからここ置いておいたんでしょ。」
宥めるように、優しく背中を撫でてくれる手のひらが温かくて、涙がとめどなく溢れる。
「…涼ちゃん。」
そう呟いた若井が、僕の手にあった煙草の箱を手に取る。
「俺さ、煙草吸ってたって知られたら涼ちゃんに嫌われるかなって。」
「嫌わないよ……!!煙草はあんまり好きじゃないかもだけど…その…」
若井から発せられた、弱々しい言葉を否定しようと口を開いたが、なんだか恥ずかしくて言葉が詰まる。
「……どんな若井も好き、だから…?」
絞り出した言葉に顔が熱くなる。
「…俺もどんな涼ちゃんでも好きだよ。今の泣き虫の涼ちゃんも。」
「一言余計…!」
いつの間にか心のモヤは晴れていた。凄く綺麗な光が差し込んで、勝手に落ち込んでいた自分が馬鹿みたいだ。
「久しぶりに1本だけ吸ってみようかな。」
そう言った若井が、慣れた手つきで箱を揺らし、まるで自我があるかのように箱から出てきた煙草を咥える。いつもとは違う雰囲気に釘付けになっていると、嫌?と言うような目線が向けられる。
「…いいよ。若井の全部知りたいから。」
向けられた瞳が照れくさそうに逸らされ、煙草に添えられた手のひらの奥で、ライターが点く音がした。様になるな、なんて考えていると、煙を吐き出した若井の表情が辛そうに歪められていた。
「…こんな不味かったっけ。」
煙草特有の香りが部屋に漂う。何だか僕らの家じゃないみたいで少しだけ落ち着かない。
「窓開けてくるね、火消しちゃいなよ。」
手に握られていた服をハンガーにかけ直し、窓を開けに行こうと若井に背を向けた時、強く腕を引かれた。
「、?どうしたの、っ!?」
思わず振り向くのと同時に、口の中が苦味でいっぱいになる。キスされてる、と気づいた時には、既に顔が離されていた。
「ん゛ッ……けほっ、けほ…っ、……うぅ…めっちゃ苦い……。」
凄く煙ったくて、身体が拒絶するように咳が出る。何事も無かったかのように窓を開けに行く若井の背中を睨みつければ、ふと振り向いた瞳とかち合う。
「俺と同じ味。」
「……ばか!」
苦いし苦しいし、いい事なんてひとつもないのに。それなのに、君からの煙草は少しだけ甘かった。
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