テラーノベル
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カレーに使う魔物肉は昨日と同じ、ホーンラビットの赤身肉だった。
昨日の味を踏まえてよりおいしく食べられるように、スパイスの種類や量を調整した。肉は血抜きをしっかりやって、その他の下処理も施した。
ユーリとしては、ターメリックのない現状ではそれなりの自信作である。
やがて鍋からスパイスの豊かな香りが漂ってくれば、周囲の人々は自然、鍋の周りに集まった。中にはしっかり自分用の皿を用意している者もいる。パンを持参している者までいた。
「よーし、出来上がりです! さあみなさん、並んで、並んで」
最後に味見をしたユーリが声を上げると、みなが並んだ。皿に盛ってもらい、口をつけている。
「おっ! 昨日より味がよくなってるな」
「これなら肉もだいぶいい感じだ」
人々の感想もなかなかの好感触である。
「おいしい、おいしい。パンにカレーをつけて食べると、とってもおいしい」
パンを持ってきていた女性が笑顔で食べている。周りから羨ましそうに見られて、「あげないから!」と言っていた。
ユーリがうなずく。
「やっぱりカレーには炭水化物が正義よね。私の故郷ではライスだったけど」
「ライス?」
ファルトが不思議そうにしている。
「お米という穀物で、小麦より粒が大きいの。カレーに混ぜて食べるととても合うのよ」
ユーリは久しく食べていない炊きたての白米を思い浮かべた。
カレーを作るとやはり、お米が恋しくなる。
「大きめの粒の小麦なら、スペルド小麦はどうでしょう。麦粥によく使われる種類です」
ナナがカレー皿とスプーンを持ちながら言った。ユーリは笑顔になる。
「そういう小麦があるのね!」
「はい。粒が大きすぎて小麦粉にするには向いていないですが、麦粥だとぷちぷちとした食感でおいしいですよ」
「それじゃあ、カレーに合うパンを探すのと一緒に、スペルド小麦を使ってみましょうか」
粒が大きい小麦で粥にできるくらいであれば、炊くのもいいだろう。
カレーに合うパンといえばナンだが、ナンであれば作るのも難しくない。カムロドゥヌムの町にはパン職人も複数いるので、彼らに相談してもいい。
「はーい!」
「楽しみです」
そんな話をしながらも、ユーリは試食の皿をどんどん盛っていった。ちゃっかり二杯目を食べようとした人は、ファルトとナナで追い払った。
「大盛況だね、ユーリ。こんなことなら僕ももっと早くから並べばよかった」
聞き覚えのある声にユーリが目を上げると、ユリウスが皿を持って立っていた。
彼の皿にカレーを盛ってやる。とろりとしたカレーが皿に広がる。
「はい、どうぞ」
「これがカレーか。変わった香りだね」
ユリウスはユーリの横に移動してカレーを食べ始めた。
「おぉ? 複雑な味がするね。けれどそれぞれの味がきちんとまとまっていて、一つの力強いハーモニーを奏でている。まるでスパイスの楽団だ。となると、ユーリは指揮者かな。可愛らしい指揮者だね」
(食レポまでキザったらしい言い方をしているわ)
ユーリは内心でちょっと呆れた。
「そして、これが魔物の肉か」
ユリウスがスプーンに肉片を乗せたので、ユーリは答えた。
「ええ。ホーンラビットの肉よ。部位はロース」
「ロース?」
「肩の部分ね」
「へえ、ユーリは何でも詳しいね。……さて、いただきます」
ユリウスは一瞬だけ間をおいた後、ぱくりと魔物肉を口に入れた。
ファルトやナナがそれとなく見守る中、ユリウスはしばし咀嚼して――カッと目を見開いた。
「こ、これは……! これがあの、硬くて臭いホーンラビットの肉!? スパイスの香りが臭みを消して、しっかりとカレーと調和している。それに硬さも改善されている。多少の噛みごたえはあるが、じゅうぶんに噛み千切れる程度のものだ。むしろ弾力が楽しい。繊維がぷりぷりとして、カレーを絡めて飲み込めばお腹まで温まる! ああ、おいしい!」
「すごい褒められた」
ユリウスの流れるような褒め言葉に、ファルトは喜ぶというよりも戸惑っている。
ユリウスはしっかりと味わいながらカレーを食べて、最後の一口を飲み込んでから言った。生真面目な顔である。
「ユーリ、それにそこの少年。この肉がこんなに美味しくなったのは、スパイスだけではないだろう。秘密を教えてくれないか?」
「魔物肉の柔らかさな。いいぜ、よく聞けよ、兄ちゃん。まず、魔物肉の部位を選んだんだ。ホーンラビットなら、もも肉は筋肉がすごく発達していて、一番硬かったから避けた」
ユリウスの質問にファルトが答えている。昨日、今日でユーリと試行錯誤した内容だ。
ユリウスはうなずいた。
「確かに。ホーンラビットは角を突き出して突進してくるが、その突進力は脚力に支えられている。太ももは発達しているだろう」
「それで、肩ロースが一番硬さがマシだったから、使うことにした。それから、肩ロースをヨーグルトに漬け込んでおいた」
「ヨーグルトに? どうして?」
ファルトがユーリを見たので、答えることにする。
「ヨーグルトにはお肉を柔らかくする効果があるの」
肉は基本的に弱酸性。弱酸性は水分を逃がしやすい性質なので、さらに酸性かもしくは反対のアルカリ性に傾けてやると、保水力がアップして柔らかくなる。
「そういえば、昔、料理人にそんなレシピがあると聞いたことがある……」
ユリウスが考えながら言った。
「あら、ユピテル帝国にも同じようなレシピがあるのね。ヨーグルトの他にも、ワインでもいいと思うわ。他にはパイナップルとか」
「パイナップル。ユピテル帝国の首都に行ったときに見かけたよ。南国のフルーツだね」
と、ユリウスが言ったので、ユーリは意外さに目をまたたかせた。ユリウスは冒険者のはずだが、ずいぶん見識が広い。
案の定、ユリウス以外の人々は「パイナップル?」と不思議そうにしている。
「物知りなのね」
「ユーリほどじゃないさ。しかし、なるほど。ヨーグルトで下準備をして、これだけのスパイスを使ってカレーを作るのか。まさか魔物肉をおいしいと思う日が来るとは思わなかった」
「いいえ、まだまだよ。昼間も言ったけど、これは試作品なの。完成させるには、足りないものがある」
「これでまだ未完成なのか。足りないものとは?」
「黄色マンドラゴラ」
ユーリが言うと、ユリウスは目を見開いた。
「……! それで、採集の依頼を出そうとしていたんだね」
「ええ、そうなの」
ユーリはうなずいた。ユリウスは続ける。
「護衛を頼もうとしていたのは、どうしてだい?」
「私がこの目で、黄色マンドラゴラが生えているのを見てみたくて。私、魔物がいない国から来たのよ。だから本物の魔物を見たことがない。料理を作る以上、食材をちゃんと確かめたかった」
予算の問題で無理だけど……と、ユーリは呟いた。
ナナが言う。
「生えているところを見られなくても、新鮮なものを冒険者に採ってきてもらいましょう。それでじゅうぶんですよ」
「ん。そうね」
ユーリが残念そうにうなずいた、そのとき。
「いいや、諦めなくていい。ユーリの料理にかける情熱はしかと受け取ったよ。護衛代金は僕が肩代わりしよう。だから、一緒に魔の森まで行って黄色マンドラゴラを採ってこようじゃないか」
ユリウスが言った。ユーリは戸惑う。
「え? でも、護衛代金はかなりの高額よね。それにユリウス一人じゃ危ないでしょう。他の護衛の代金を払う余裕は、私にはないの」
「もちろん仲間を集めるけど、お金は心配しなくていい。彼らの分まで僕が持とう。僕はけっこうお金持ちなんだ」
カレーの皿を抱えてウィンク一つ。
ユーリは驚くやら呆れるやらで声が出ない。
そんな彼女に、ユリウスはいたずらっぽい笑みを向けた。
「その代わり、一つだけ条件を出させてくれ。――カレーが完成したら、一番に僕にごちそうすること」
「それは、もちろんだけど。そんなことでいいの?」
「いいとも。正直、僕は感動したよ。マズくて捨てるばかりだった魔物肉が、ちゃんとした料理になるなんて。カレーは冒険者たちの助けになる。硬い干し肉よりも、味気ない麦粥よりも、その場で狩れる魔物肉をカレーにして食べるほうがずっといい。おいしい料理は体力と気力を回復させてくれる。そうだろう?」
ユリウスが周りを見渡すと、冒険者たちが「そうだ、そうだ」と声を上げた。
「ほらね。みんな、ユーリとカレーに期待しているんだ。他ならぬきみが魔の森に行きたいと言うのなら、可能な限り協力するよ」
「……分かった。ありがとう。その代わり私も頑張るわ。携帯用のカレールウを作って、遠征先でもおいしく食べられるようにするから」
ユーリの言葉に、周囲はわっと沸き立った。ユリウスが笑顔で言う。
「よし、契約成立だ! 僕は三日後以降なら、いつでもいいよ。どうする?」
「私も仕事を調整するのに、三日程度かしら。片付けられるものは片付けて……そうだ、アウレリウス様にこの件を報告しないと」
「え」
するとユリウスは急に渋い顔になった。
「アウレリウスと知り合いなのかい……?」
羽海汐遠
11,195
ぬくみおんせん
21
#センチネルバース
かんな
976
#魔道具職人
こはる
208
コメント
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第25話読了!カレーの改良と試食会、大成功でよかったね。ユリウスの食レポがキザったらしくて笑ったけど、「スパイスの楽団」とか言っちゃうあたり、キャラ濃くて好き。護衛代肩代わり&ウィンクで「お金持ちなんだ」はズルいわー。でもカレーが冒険者の携行食になるって視点、地味に熱い。そして最後のアウレリウスさまの名前でユリウスの顔が曇るところ、続きが気になりすぎる🔥