私
にはわからないわ。
わたしたちにはわからない。
わたしたちだって知りたくないもの。
あなたはどうすれば幸せになれると思う? もうおしまいなのよ。
それでも続けるしかないんだろ。
それしか方法はないのだから。
わたしたちができることなんて何もないじゃない。
その通りだよ。
でも、それがわかっていても、何かせずにはいられないんだ。
あなたはいつまでこの悪夢につきあうつもり? どうせあと一年の命なんでしょう。
それで十分じゃないかしら。
そうだとしても、最後までつきあってみるさ。
そう。勝手になさい。
ぼくには関係ないことだよ。
えっ!? ちょっと待って。なんのことかなぁ~? そっか、もう忘れたんだ。つまんないなー。わたしはずっとおぼえてるわよ。あなたがはじめてキスしてくれたときのことだって──。
きみってほんとうにしつこいよね。
ぼくのことを好きになった理由なんて、くだらないものばっかりじゃないか。
それこそ、その辺に転がってるような理由でしかないのかもしれないけど……。
「あんたなんてもう知らないわ!」
「俺だっておまえのことなんざ知らねぇよ!!」
別れ話を切り出したのはどちらからだったのか、もうよくわからない。けれど、きっかけは些細なことだったと思う。本当にくだらない理由なのだ。お互いに仕事が忙しく、会う時間がなかなか作れない中でようやくできた二人で過ごす時間に、相手の仕事への愚痴が出たことがきっかけだったように記憶している。
それからは売り言葉に買い言葉でどんどんヒートアップしていき、最後にはお互いの顔を見るだけで腹が立ち、言い合いを始めてしまった。
「なんであんたみたいな女がいるんだ!」「こっちこそ願い下げだよ!」
この二人はもうだめかもしれない。別れるしかないのかしら。
その瞬間、部屋中にある物が飛び交いだした。テーブルの上に乗っていた食器類はもちろんのこと、椅子やソファーまで宙に浮かび始めたのだ。まるで二人の喧嘩を止めるかのように。
「ちょっと待って! 二人とも落ち着いて!」
わたしの声なんて聞こえていないみたい。二人が怒鳴り合っているせいで物が浮いているだけじゃないわ。床だって揺れているもの。このままだと家が壊れてしまいそうだ。
「お願いだから仲良くしてよー!!」
必死に叫ぶけれど、声は届かない。それでもなんとか止めようと試みるも無駄に終わる。
ついに家全体がぐらつき出した。これではいつ崩れてもおかしくはない。それにしてもこんなにも激しい喧嘩をする二人を見たことがない。それだけお互いに本音をぶつけ合ったということなのかな。
でもこれ以上暴れられると本当にまずいわ。ここは冷静になってもらうために、みんなで説得してみましょう。
わたしたちにはどうすることもできないわ。彼を止めることはできない。彼の声を聞くことも、止めることもできないもの。彼を理解できる人はいない。たとえ理解できたとしても、止められるかどうかはわからないけれど。
もうすぐ、すべて終わるから。だから、もう少しだけ待っていてちょうだい。
ねえ、教えてくれる? あなたには何が見えるの? どんなものがみえるの? その答えはどこにあるの? あなたの目に見えるものを教えてほしいの。
わたしたちが求めているのは真実じゃない。真実なんてどこにもないんだから。
でも、あなたは見つけることができるかもしれない。この暗闇のなかで。
この世に存在するすべてのものに意味はない。それが真理だよ。
無意味なものはすべて滅び去らなければならない。それこそが世界の救済になるはずだ。
こんなにも美しい世界を滅ぼそうとしないでほしい。お願いだ。
この世界は偽物なんです。本当はもっと素晴らしいところなんですよ。
この世界で生きていかなくてはいけないなら、せめて幸せになりたいと思うでしょう? どうしたら幸福になれるのかしら。どうやったら自分の望む姿になれるのか
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