………………
「…ひ、引越し屋は?」
「ダメに決まってる」
「稼がないと生きていけない」
「俺がいるだろ」
カフェのバイトを辞めさせられて、居酒屋のバイトはそれ以上にダメだと叱られた。
それなら単発の引越し屋くらいやらないと、友達と飲みに行くお金もない。
「お前の友達って真莉だろ?」
「…他にもいるもん。大学の同期の子とか」
「女子大生は合コンしかしないから付き合う必要はない」
なんというか決めつけ?うちの親より厳しい響って私のなんなん?
「…俺はお前の恋人、そして婚約者だよな?なんもできね-けど」
「…なんもできねーって…?」
「キスもハグも逃げ回る!」
眉間にシワを寄せた響が、鋭い視線を向ける。
えーっと…話がすり変わってる気がするんだけど…。
「今後のためにハッキリさせておくぞ?俺はお前の恋人。間違いないな?」
確かに、告白された。
そしてここに住むことを承諾した。
それはお父さんの会社を救う交換条件だったけど…あれ?
付き合うって言ったっけ?
でもキスされたし、それに…。
「…そう、だと思う」
「ハッキリしねぇな。恋人じゃなかったら、毎日たまっていくこのムラムラを我慢してる意味がわからん。セフレで発散するぞ」
怪しい単語に素直に驚いて、ストレートに聞いてしまった。
「…響って、セフレがいるの?」
「…気になる?」
気になる…のかな。なんとなく胸がざわつくような気がする。
ぼんやり考えている隙に一歩近づかれ…
「…捕まえた」
後ろから不意に抱きつかれ、変な悲鳴を上げてしまった…
「悲鳴とか…俺は痴漢か?」
文句を言いながら…グイっと力を込められ…ひたすら焦る。
「あぁ…甘い匂い…クラクラするわ」
ムラムラ…じゃなくてよかった…と思ってしまう。
「あの、響が私の恋人だとしたら、セフレとは会わないの?」
抱きしめた腕を緩めて、正面を向かされる。
「…結構気にしてんな?」
妖しい微笑に…「そうかも…」と答えたのは、なんの考えもなかったからで。
「気づいてる?それって好きってことだぞ?」
両腕を掴まれて、角度をつけて近づいてきた響の顔が近づいてきて、反応を確かめるようにゆっくり唇を合わせた。
それから…啄むように何度も合わされ、そのうち、恥ずかしくなって響の胸を押した。
「やだ…もう終わり」
言った瞬間に噛みつかれるようなキスに変わって…やっと離された時はもう…唇が腫れてるんじゃないかと思うくらい。
「…とにかく、バイトは減らすけど少しはやるから!」
それだけ言って慌てて響から離れて、なぜか脱衣室に行った。
ここは唯一鍵がかかる場所。
置かれた椅子に座って少し落ち着くことにする。
バイトの話をしてたのに、なんであんなキスをすることになった?
鏡に映る自分が見たことないほどトロン…とした目をしてるのが恥ずかしい。
「…響が、あんなキスするから!」
………………
結局、今までやっていたカフェのバイトにもう一度応募して…採用が決まった。
ただ違うのは…
過保護な彼氏がいる…って皆の認識。
そして…
「新人だろ。まずは掃除から」
私が辞めていたわずかな間に入ったらしいバイトの男子、栗生川玲が怖いってこと。
「…し、新人っていうか、ちょっとの間辞めてただけだもん」
でもハッキリ言えなくて今日も掃除中心。
整った顔立ちで紺色の髪、大学3年だという玲は、涼しい目元の泣きぼくろが色っぽいと噂のイケメンでだ。
バイト仲間の女子たちはヒャンヒャン言ってるけど…私は至って平常心。
だって…響に真莉ちゃん。
周りにイケメンが2人もいて、目が慣れてる…。
「よかった…!すぐに後輩が入ってきて!掃除とかダルかったんだよな〜」
なぜかバイト終わりの時間が重なって…自然と一緒に駅まで歩くことになる。
「なぁ、腹減んね?」
「は?減ったけど家帰って食べれば?」
「どっか寄ってかね?」
「寄ってかね。…これから帰って、夕飯作るんだから」
響にはあんなこと言ったけど、バイトが激減したらほんとに響に頼ることになるかもだし…その分家事をしてお返ししようと思っていた。
「…へぇ。俺にも食べさせてよ」
嫌だ…って言ってるのに、なんだかんだ着いてくる玲。
…しかも確か年下だよね?
ちょっと…というか、かなり馴れ馴れしいんですけど?
「…もうほんとに帰りなよ!ここから先はちょっとマズイ」
一応響って御曹司だし、住まいがバレたらまずくない?
それに…私が出入りしているのをたくさんの人に知られても困る…よね?
「え…!いいじゃん!どんなとこに住んでるんだよ?教えろよぉ〜!」
突然両腕を掴まれて前後にフルフル揺すられる。
「あわ…!だから、ダメだって…
ひゃ…っ!」
玲の奴…どさくさに紛れてお腹をくすぐってきた。
やられたらやり返す精神に火がついて、私もお腹をくすぐってやると、玲も体をよじって笑ってる…!
「琴音…なにしてんだ?」
大人男性の冷たい声が落ちてきて、ヒヤッと背筋が寒くなった…
「…ひ、響?」
夜とはいえ、まだ早い時間なのに、なんでいるの?しかも車じゃないし、スーツでもない…
「公衆の面前で、なに下半身をまさぐりあってるんだ?…と聞いている」
「まさぐりあってないっ!」
慌てて否定したのに、後ろで玲が「…まさぐり合う…!?ウケる!」と爆笑してる。
問答無用で、響に捕獲されたのは、言うまでもない。
…………
「あの人は、バイト仲間の人で…勝手についてきちゃって…」
言い訳めいたことを言ったのは、響が急に何も喋らなくなったからで…。
怖い顔してソファに座って何か考え込んでる。
…知らない人をマンション近くまで連れてきた罰でも…考えてるのかな…
「…あの、ごめんなさ…」
「あいつの名前は?お前とはどういう関係だ?」
謝罪の言葉を遮られ、思わず怖い顔の響を見た。
彫りの深い目が、睨むように私を見てる…
眉間にシワを寄せて、立体的な唇はキリッと引き締まって…あ、前髪が落ちてる…スーツのときみたいに上がってない分、目力が増してるなぁ…
「…見惚れてないで、答えろ」
「…は、はい。えっと栗生川玲という名前で大学3年。カフェのバイトくんです…」
コメント
2件
第三のイケメン登場😍💕💕 かなり馴れ馴れしく 手強そう.... ↓でも、私もやっぱり響かな~❤️ 俺様で少々強引 だけれど、一途で可愛いところもあり最高👍️💕
‧˚₊*̥(* ⁰̷̴͈꒨⁰̷̴͈)‧˚₊*̥ イケメン3人目登場 やっぱり響だよね〜俺様加減がサイコー✨