テラーノベル
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漫画作成は順調に進んだ。人数が増えたお陰で、細部にまで手書きトーンを書き込めるようになり、絵のクオリティが上がった。
「イソトマが仕上げをすると、絵の雰囲気が変わるなぁ。見やすくなるし、見栄えもする」
ノアルが本気で感心している。
「ベタやトーンは大事なんだよ」
ペンを持って、ちょっと格好良いポーズをとってみた。
「俺たちもイソトマのお陰で技術が上がったからね。今日頑張れば、完成じゃない?」
セインが広げた原稿を眺める。
「全員で一か所くらいずつ頑張れば、終わりですね」
原稿に重なる勢いで顔を寄せながら、アルエが細かい点を打つ。その隣でディルクが細かい部分のベタを入れている。本気度高めの姿勢だ。
二人とも、最近はホワイトを使う頻度が減った。
(立派なアシスタントに育ってくれた)
感動しながら、イソトマはセインとノアルに目を向けた。
「二人も頑張って」
イソトマに励まされて、セインとノアルが引いた顔をした。
「アルエとディルクと同じだけの技術、俺たちには無理だぜ」
「何事も慣れだよ。やってみないと慣れないから」
ノアルにペンを持たせる。
ブツブツ言いながらも、そのまま描き始めた。
「そういえば、イソトマ。ルシアンから当日の話、聞いてる?」
「当日?」
セインの声掛けに、イソトマは首を傾げた。
「売り子にはルシアン様の御学友が入るので、イソトマ様は売り場に出ないようにとは、聞いています」
アルエが受けた、ルシアンからの指示だ。
だから、当日のイソトマとアルエは裏方の在庫管理だ。
「イソトマが売り場に出たら、大騒ぎになるからな」
ノアルが呆れ顔をしている。
確かに、婚約者の浮気を漫画にしただけでなく、手売りまでしていたら大事だ。
(僕のルシリリは最高だけど、そういう問題じゃないもんな)
「売り場は他に任せて、イソトマはそれぞれと学園祭を回るんだよ」
「それぞれって?」
「俺とノアルとルシアン、それにリリーとも」
「え……? どゆこと?」
セインの説明がわからな過ぎて震える。
「イソトマの本命が一人に絞れないようにしたいらしいよ」
「そのために、色んな人とデートするの? あんまり……その、嫌だな」
セインが言うのも作戦の一つなんだろうが、気分が良くない。
「イソトマを守るための方法だよ。ルシアンやリリーとも仲がいいってところを見せておけば、同情はされても悪評は集まらないだろ」
言い聞かせるように言われると、納得せざるを得ない。
セインを困らせるわけにもいかない。
「デートなんて大袈裟に考えず、友達と学園祭を回るくらいの気持ちで良いぜ。イソトマが気を付けるのはレイヴンの目だ」
「レイヴンの、目?」
ノアルが頷いた。
「アスランズ魔術学園の学園祭には、毎年必ずレイヴン商団のキャラバンが入る。レイヴンはイソトマの誘拐に一度は失敗している。当日は、絶対に一人になるなよ」
つまり、レイヴン商団はまだイソトマの誘拐を諦めていない。ノアルはそう言いたいのだろう。
ノアルの言葉は、ルシアンの言葉だ。ルシアンの根拠は、リリーだ。
リリーはルシアンの指示でレイヴン商団のスパイに入っている。
ゾクリと背中に寒気が走った。
「わかった」
「当日も、俺が護衛に付きますので」
ベタを塗りながら、ディルクが返事する。
「頼むぜ、ディルク」
ノアルに向かい、ディルクが頷く。
「だけど、ディルクだけで足りるかな。リリーには二人揃って誘拐されっちゃっただろ」
セインが明らかに煽るような言い方をした。
「魔法のランプを使われたので、イソトマを守るため、あえて捕まりました。どんな手段で来ようと、問題ありません」
ディルクが手を止めてセインに向き合った。
「そうだと良いけどね。お前が危険人物にならないことを祈るよ」
セインらしい、ねちっとした言い回しだ。
「ディルクは問題ないだろ。信頼しているぜ」
ノアルが爽やかに笑う。
セインとノアルでは温度差があるらしい。
アルエがイソトマの袖を引っ張った。
「これで完了かと思います。確認をお願いします」
セインとノアルと話している間に、アルエが原稿を終わらせてくれたらしい。なんて優秀なアシスタントだろうか。
「ありがとう、アルエ。持つべきものは友だね」
感動しながら原稿を確認する。
「うん、大体大丈夫だね。あとは、ここの縁取りだけして……」
最後のページに、補強の線を引いていく。
「うん、完成だ!」
アルエと二人で描き始めた漫画が、ついに完成した。
「ついに……」
「ついに……できたよ」
イソトマはアルエと抱き合った。
「長かったけど、形になりましたね」
「アルエの原作のお陰だよ。いずれは小説とセットで頒布したいね」
「じゃぁ、そうしようか」
セインが当然のようにアルエとイソトマの会話に割って入った。
「俺が漫画の印刷担当だから。アルエの小説とイソトマの漫画、一冊にして刷ってあげるよ」
「マジで!」
イソトマの背筋がピンと伸びた。
「え……え……アルエ、いい?」
「いいも何も、イソトマ様こそ、良いんですか?」
「僕は嬉しいよ! アルエの原作あってこそだもん」
「はわわ……じゃぁ、じゃぁ、是非お願いします」
イソトマとアルエは、漫画と小説の原稿をセインに託した。
「確かに預かったよ。本になるの、楽しみにしていてね」
今日ほどセインが頼もしく見えた日はなかった。
「やった……やった。初の本が」
「合同本ができるよ!」
イソトマはアルエと手を握り合って小躍りした。
コメント
1件
うわあああ完成おめでとうございますー!!😭🎉✨ イソトマとアルエが抱き合って小躍りするところ、こっちまで涙出そうになりました…! セインの「本にして刷ってあげる」の頼もしさも最高だし、ノアルのレイヴン警戒もゾクッとして物語に引き込まれました。合同本、めっちゃ読みたいです…!!