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美猿王 十四歳
俺達を乗せ、走り出した馬がに空に向かって登り、そのまま空に浮いた状態で馬車は走り出す。
この馬も妖怪の類か、普通の馬は空に向かって走り出したりしないからな。
「凄いですよ、若。この馬、空を走ってますよ!!!いつもは地面しか走らないのに…」
丁が馬車に付いている窓の外の景色を見ながら、興奮気味に俺に話してきた。
「この馬車の馬、妖怪だぜ?」
「え!?この馬ですか?」
「普通の馬だったら、空を飛ぶ事が出来ねぇろ」
「確かに…」
この馬車の装飾もふかふかな椅子も座り心地も良いし、お茶が飲めるようにセットもされている。
小さなテーブルの上に茶器と工芸茶が入っているだろう宝石が装飾された箱の開け、中身を確認してみると種類はやはり工芸茶だった。
俺が工芸茶が好きと言う事は花果山の猿か、黎明隊の奴等しか知らない筈だ。
どこかで俺達の事を監視していて得た情報、そうとしか考えられない。
「あ!!!このお茶、若の好きなお茶ですよね?飲みますか?」
「あぁ」
「分かりました」
丁は手慣れた手付きで、工芸茶の用意をした。
コポポポポッ…。
茶葉をポットに入れてお湯を注ぐと、ゆっくりと茶葉が開き中から色鮮やかな花が顔を覗かせた。
見た目は甘そうに見えるが飲んでみると、苦味とお茶葉の味が口に広がり花の香りが鼻に届く。
好意的な意味で用意されたのか知らないが、用意されているのなら有り難く頂くだけだ。
「若、ご用意が出来ました」
黙って丁からお茶を受け取り、匂いを楽しみながら口に運ぶ。
花の甘く華やかな香りが口の中に広がり、下の上に苦味を落として行く。
「はぁ…、美味い」
「若は、本当に工芸茶がお好きですね」
「見た目と味が好きなんだ」
そう言って、今度は目を閉じながら工芸茶を口の中に流し味を堪能して行く。
花果山を出てたから一時間か二時間が経った頃、丁は窓の外の景色を見いながら溜め息混じりに言葉を吐いた。
「はぁぁ…、それにしても。まだまだ着きませんねぇ、走り出してから結構時間経ちましたよね」
鼠色の煙が馬車を包んでいるのが見え、この煙が普通の煙でない事が分かった。
窓から見えているこの景色は、花果山を出てから変わってなくないか?
同じ空が続いていたとしておかしくないが、鳥すらも飛んでいない。
ずっと窓の外を見ていなければ、気が付かなかったな。
この煙…、何か効果のある煙じゃねーのか?
ガラッ。
そう思いながら窓を開けて見ると、お香の匂い鼻を通って行く。
「若?どうかしましたか?窓なんか開けて…」
俺は上半身を乗り出し、馬車の屋根を見てみると灰色の煙が焚かれているのが見えた。
このお香…、どっかで見た事があるな…。
「危ないですよ、若!!何やってるんですか?!」
ガシッ!!
そう言って丁は慌てて俺の足を掴み、馬車の中に戻そうとしてきた。
「大丈夫だって。戻るから、さっさと足離せ」
「あ、はい」
丁が俺の足から手を離したのを確認してから、馬車の中に戻る。
「何してたんですか、若…。吹き飛ばされでもしたら、どうするんですか!?若は体が軽いんですから!!!」
「別に軽くねーわ、この馬車の周りにまとわり付いている煙が気になって、屋根を覗いたんだよ」
「煙ですか?これ雲じゃなかったんですか!?」
「普通の奴なら気付けねぇよ。それに、この煙はお香の煙だ」
「お香?」
このお香に何か意味がある筈だ。
だけど、それが分からない。
ガタガタッ!!!
そんな事を考えていると急に馬車が止まり、使いの二人組が馬車の扉を開けた。
コイツ等に聞いてみるか。
「おい、屋根に置いてあるお香は何だ?」
「あれは幻術を見せるお香であります。牛魔王様のお屋敷の場所がバレないようにしております」
「幻術のお香ねぇ、用意周到なこった」
「牛魔王様は沢山の妖から狙われておりますゆえ、敵襲に来られても困りますから」
その為にお香を焚きながら馬車を走らせていた訳か
頭が良いんだな、牛魔王は。
「美猿王様は、まだ牛魔王と盃を交わしていませんから、お香を焚かせていただきました」
「その後の理由はどうでもいい、気になっただけだから良い」
「では、ご案内致します」
俺と丁は馬車から降りてから、牛魔王の使いの二人組の後を追った。
馬車は屋敷から少し離れた距離に止められたので、暫く歩く事になり暗い山道を歩かされている。
森の中にも馬車に備えられていた幻覚を見せるお香は至る所に置かれ、屋敷への道なりにも警戒の意識があると読み取れた。
俺とは違うやり方で自分の城を守っていると言う訳か、こう言うやり方もあんのか…。
無駄に敵と戦う必要もないからな。
「「美猿王様、到着致しました」」
使いの者に声をかけられ視線を前に向けると、黒い龍の置物が門前に二体設置されていて、屋敷全体に巨大な黒龍が巻き付いている。
オレンジ色の光に照らされ、全体的に黒で統一された牛魔王の屋敷は幻想的な雰囲気が漂う。
黒龍の体を触れてみると、感触は冷たい石みたいに硬く作り物だと分かる。
「凄い屋敷ですね…。こんなの初めて見ました」
丁は牛魔王の屋敷を見ながら、唖然としていた。
俺達は山と自然に囲まれた環境に居た所為で、生で大きな屋敷を見た事がない。
「「御案内致します、中にお入り下さい」」
使いの者に屋敷の中の中に案内されると、高価な花瓶や家具、置物が廊下の至る所に飾られていた。
それに使用人らしき妖達が、慌ただしく料理也酒を広間と思われる部屋に急いで運んでいる。
「ギャハハハハ!!」
「もっとやれー!!!」
「おい!!!もっと酒を持って来い!!!」
広間の中から大勢の妖達が集まっているのだろう、話し声と妖気が扉から駄々漏れている。
牛魔王の宴の為に、わざわざ集まったのか。
「こちらが会場でございます」
「あぁ」
俺の返答を聞いた使いのニ人組が扉を叩くと、一気に騒ぎ声が止まった。
声が止んだ?
それに賑やかしかった空気が、一気に静まり返って行くのが分かる。
「「牛魔王様。美猿王様をお連れしました」」
「通してくれ」
低い声の男が返事をし、使いのニ人組は男の声を聞くと扉を開けた。
キィィィ…。
扉を開けると、数え切れない程の妖が俺と丁を見ていた。
警戒と殺気の籠った視線が一気に俺達に注がれ、その中でも威圧的な妖気を発している野郎が一人だけ居る。
豪華な玉座に偉そうに座っているこの男が、牛魔王なのだと悟った。
襟足の長いグリーンアッシュの髪に切長の赤い瞳、色白の肌に黒い龍の彫り物が体全体に入っていて、高価なアクセサリーを身にい、黒いファーコートを着ていて中は裸だった。
見た事のない服装の牛魔王は玉座から降り、俺の方に向かって歩いて来る。
カツカツカツ…。
牛魔王が歩き出すと、周りに群がっていた妖達が道を空け、真っ直ぐ歩けば俺に辿り着くようになった。
俺の前に来て牛魔王は足を止め、血のように真っ赤な瞳が俺を捉える。
目の前で牛魔王と言う男を、この目で見るまでは相手がどれだけ強いのか確認が出来なかったが…。
今まで出会ってきた妖達とも、動物達とも
ただ物静かに、ジッと俺の事を見下ろしながら口を開く。
「初めまして、美猿王。うちの者がご迷惑をかけませんでしたか?」
牛魔王は見た目とは裏腹に、腰の低い感じで声をかけてきた。
「ちゃんと案内して貰ったぜ、アンタが牛魔王で合ってんのか?」
「ちょ!!?若!!!」
グイッと、丁が俺の服を乱暴に引っ張り後ろに下がらせる。
「敬語を使って下さい!!一応、こっちは呼ばれた側なんですから!!」
「あ?敬語?」
「アハハハ!!気にしなくて良いよ。さ、こっちに来てくれ。皆んなを紹介するから」
牛魔王は笑いながら、俺に手招きをした。
「行くぞ、丁」
「は、はい…!!!」
俺達は、牛魔王の後に付いて行った。
歩いている途中、妖怪達の視線を集めている。
だが、どうして牛魔王が俺を呼んだのか分からない。
会った事もない奴を宴に呼ぶとか…。
皆んなに紹介?
牛魔王の仲間に、俺を紹介するのか?
よく、分かんねぇ奴。
「どうして、俺が美猿王を呼んだのか分からないって顔してるな」
「っ!?」
急に、牛魔王が振り返り不意に確信を突かれた。
「美猿王は素直だなー。いや、美猿王の噂を聞いてはどんな奴かなーって思ってさ」
「噂?俺のか?」
「知らないの?残虐王って呼ばれてるの」
「残虐王?」
牛魔王から話を聞くと、妖怪や自分達の山を支配しようとした者を残虐なやり方で、殺していると言う噂だ。
丁は黙って、牛魔王の話を聞いていた。
チラッと丁の顔見ると、俺の噂の事を知っているような顔をしている。
丁はあえて、俺に言わなかったのだろう。
噂とか作り話に興味がなかったら、話されても困る。
「可愛い顔してるのに、やり方が残虐過ぎてヤバイって凄いね」
「俺は俺の邪魔する奴を殺しただけだ」
「そう言う所が、俺と似てるなと思ってさ」
確か、にコイツからは俺と同じ匂いがする。
後を付いて行くと、さっきまで牛魔王が座っていた席に案内される。
そこにいた奴等は、今まで会った妖怪達とは違った。
「皆んなに紹介するよ」
トンッ。
牛魔王はそう言って、俺の肩に手を置いた。