奇病に悩む人は少なくない。生まれ持ったものに価値を、差別用語を付けられ、周りからは普通じゃない目で見られる。でも、私たちにとってこの病気は私たちの個性で、私というものを形作る、一つのパズルのピースなんだ。
知ってほしい、差別をしないでほしい、価値をつけないでほしい。
どうか聞いてください、私たちの叫びを。どうか見てください、私たちのこの個性を。
人魚病。私の病はそう呼ばれている。水につかると足が人魚のように変わる病気。私はこの病気を憎んだ。発覚したのはまだ赤ん坊だったころ。お風呂に入れようと私を取り上げてくれた看護師さんが桶に入ったお湯に私の体を付けた時。足に鱗が次々と現れて人魚の足になったらしい。
母親はそんな私を見てただ一言。
「気持ち悪い」
祖母は怒りを抑え、毅然とした表情で私を抱き上げた。その手は震えていたけれど、目には決意が宿っていた。
「そんなことを言うなら、私が育てます! あなたたちにはこの子を育てる資格はありません!」
母親は何も言えず、ただ呆然とするばかりだった。
祖母の家は古く、木造で冬は冷え込むけれど、心はいつも温かかった。毎晩、祖母は私に温かいミルクを作ってくれて、静かな声で昔話を聞かせてくれた。
「あなたは特別な子よ。誰にもその価値を否定させない」
でも――。
ドン!
車の急ブレーキ音が町中に響く。振り向いた私はその光景に絶句した。
「おばあちゃん……?」
突っ込んできたトラックに祖母ははねられた。病院に行く途中の出来事だった。
その後、私はこの出来事がトラウマになって、しばらく病院に入院することになった。病院の先生や看護師さんは皆よくしてくれた。ここが奇病専門医だからというのもあって私を変な目で見てくる人は誰もいなかった。
そんな私が唯一好きな事。それは歌うこと。
歌は好きだ。人魚病の特性上、歌声はとてもきれいだと言われてきた。たとえ病気がそうさせているとわかっていても、ほめられることがうれしくて私は歌い続けてきた。病院の裏庭にある小さな丘で毎日歌って、祖母が亡くなった悲しみを紛らわせてきた。そんな時だった。
「ねぇ、バンドやろうよ!」
そう声をかけてきた少女に出会ったのは。
その少女は私と同じ病室の子だった。確か名前は藤宮二葉といったか。毎日のように花を吐いてとても苦しそうにしていたのをよく覚えている。そんな子がなぜ私と一緒にバンドをやろうなどと……?
「隣座っていい?」
いつの間にか彼女は私の隣に来ていた。
「どうぞ。」
「やった! お邪魔します!」
くせっ毛の明るい茶髪に赤いカチューシャをつけた女の子。私と同年代に見えるのは気のせいだろうか。
「ところでバンドやるってなんで?」
「だって、君すごくきれいな歌声しているんだもん! 私がギターを弾くから君はボーカルを担当してほしいなって!」
この子はギターが弾けるのか。少し意外だ。
「あ、自己紹介がまだだったね、私は藤宮二葉!」
「海宮星歌。」
「よろしくね、星歌ちゃん!」
初対面だというのに彼女は警戒心というものはないのか。
「で、どうして私なの? ほかにも歌が得意な人なんていっぱいいるだろうし、私に頼まなくても……」
「星歌ちゃんじゃなきゃダメなの! こんなに歌が上手な人初めて見たからさ!」
二葉はなぜ急にバンドをやろうと言ってきたのかを話してくれた。なんでもこの病院のお楽しみ会でギターを弾くことになったらしい。せっかくなら曲を書いて誰かに歌ってもらおうとは考えたのだが、自分はことあるごとに花を吐くためなかなかうまく歌えない。そこで同室である私に声をかけてきたというのだ。
「仕方ないなぁ、いいよ。」
その言葉に二葉の顔がパッと明るくなる。きっとこの子との交流はこれきりだろう。そのお楽しみ会とやらが終わればもう関わることもない。そう思っていたのだが……
「ねぇ、私も仲間に入れて?」
そうして新たな仲間が加わり、私たちのバンド活動は、ただの一度きりのお楽しみ会のためだけではなくなっていった。
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