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六月の雨は、昔からふたりの間にだけ静かに落ちていた。
詩はよく、制服の袖をぎゅっと握りしめて登校してくる。
その手元には、言葉では言えない“何か”を隠していることくらい、律にはずっとわかっていた。
気づいていながらも、踏み込む勇気が出なかった。
幼い頃からずっと隣にいたのに、なにもできないまま時間だけが過ぎていく。
六月の空は低く、詩の表情もそれに引きずられるように曇り続けていた。
そしてある放課後。
濡れた窓をなぞるように見つめていた詩の横顔は、
まるで今にも壊れてしまいそうなほど弱っていて、律の胸がきゅっと縮む。
ある日の放課後、2人きりの教室。
雨音だけがふたりの間を流れ続ける。
もう、見ているだけなんてできない。
何年も幼なじみとして寄り添ってきたからこそ、詩が限界に近いことは、誰よりも律が知っていた。
「……ねぇ、詩。」
律はそっと詩の手を取る。
「…誰もいないところに、一緒に逃げよう。」
その言葉は、六月の雨よりも静かで、
でも確かに、ふたりを別の未来へ連れ出すための一歩だった。