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レジーナは言いたいことだけ言って、その場を逃げ出した。
(ああ、もう、失敗……!)
本当は、もっと上手に自分の気持を伝えるつもりだったのに。
考えていたのと全然違う。
緊張しすぎてテンパって、言わなくていいようなことで彼を責めて、挙げ句、捨て台詞のような告白。
クロードは驚きに固まっていた。
思い出し、レジーナの目にジワリと涙が浮かぶ。
(……私がクロードを好きなんて、全然、予想もしてなかったってことよね?)
もっとちゃんと伝えられていれば、彼も違う反応を見せてくれたのだろうか。
高ぶった感情が抑えきれない。
レジーナは泣き出す寸前で自室へ逃げ込もうとした。
不意に、名前を呼ばれる。
「……レジーナ?」
咄嗟に振り向く。視界に、リオネルの驚いた顔が映った。
「泣いているのか?」
「いいえ」
「何があった?」
「……何もないわ」
「何もないわけがないだろう? 君が涙するなど……」
リオネルが動揺を見せる。
レジーナは笑い出したい気分だった。
(私が泣くのがそんなにおかしい?)
この三年、レジーナはずっとリオネルに泣かされ続けた。
ただ、彼の前では泣かなかっただけ。
リオネルはそれに気付きもせず、目の前で起きた事象にだけ心囚われる。
滑稽だった。
「……なんであれ、あなたには関係ないわ」
レジーナは彼に背を向ける。
とにかく、今は一人になりたかった。
「レジーナ、待て!」
放っておいてくれれば良いものを。
行く手を阻まれ、レジーナは踵を返した。後を追ってくるリオネルを振り切るため、食堂に逃げ込む。
逃げ込んだ部屋。テーブルとイスが並ぶその場所には先客がいた。
レジーナは驚きに足を止める。
「……アロイス?」
その場にいたのは三人。
アロイスとエリカが対峙し、アロイスの横にフリッツが立つ。
三人の視線がレジーナを向いた。
いつもと違う雰囲気。
戸惑うレジーナに、リオネルが追いつき、疑問の声を上げた。
「エリカ? ……これは、一体どういう状況だ?」
リオネルの問いに、アロイスが口を開く。
「レジーナ、ちょうどいいところに来てくれた」
「私?」
「ああ。……今、改めて、エリカに階段から転落した際の話を聞いていた」
「えっ!?」
レジーナは思わずエリカを見た。
彼女は困り顔で、リオネルに視線で助けを求める。
彼はすぐさまエリカに駆け寄った。安心させるように、彼女の肩を抱き寄せる。それから、アロイスに鋭い視線を向けた。
「エリカに当時の記憶がないことは承知しているはずだ。なぜ、今更そんな話を?」
「確かめておきたいと思ってな。階段での事故、彼女は記憶がないと言っていたが――」
「まさか、エリカの言葉を疑うつもりか?」
「そうではない。時間が経って何か思い出したことがないか聞いていた。事故直後は記憶を失っていても、後で何か思い出すかもしれないだろう?」
アロイスの説明に、リオネルはエリカを見下ろす。
彼女は小さく頷いて返したが、その瞳は潤んだまま。
リオネルは不機嫌に告げる。
「しかし、それだけで、こんなにエリカが脅えるとは思えない。何かひどい言い方を――」
「違うの、リオネル!」
エリカがリオネルの服の袖を引く。必死に首を横に振った。
「ごめんなさい。私、何も思い出せないことが申し訳なくて。それで、どうしたらいいのか分からなくなってしまったの」
「……エリカ。君が自分を責める必要はない」
リオネルは彼女の髪に触れて慰める。
泣きそうだったエリカが困ったように笑う。
彼女の視線がレジーナ――その背後に向けられた。
その瞳に気色が浮かび――
「あれ、全員集合?」
「シリルくん!」
エリカの弾む声。
レジーナは背後に立つ男の気配に身震いする。
シリルはレジーナの横を通り過ぎ、エリカの隣に並んだ。
「英雄さんはいないの?」
周囲を見回すシリル。
その問いに、リオネルが答える。
「見ていないが、あの男に用があるのか?」
「ううん、無いよ。ただ、彼がいると色々と、ね?」
含みを持たせた言葉。
それに焦れたように、エリカが横から口を挟んだ。
「シリルくん! シリルくんなら、私が階段から落ちた時のこと、よく覚えているでしょう?」
「ん?」
「私、アロイスにあの時のことを聞かれているの。でも、全く思い出せなくて。シリルくんから、もう一度話してもらえない?」
「えー? まだ、そんなこと言い合ってたの?」
心底呆れたと言わんばかりの声。
エリカが苦笑する。
「ごめんなさい。確かに、今更なんだけど……」
エリカの視線がレジーナに向けられる。
「シリルくんは、レジーナ様が私を突き落とすのを見た、のよね?」
「ああ、うん」
シリルはいつも通りの穏やかな笑みで答えた。
「そんなの、嘘に決まってるじゃない」