テラーノベル
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11
橘靖竜
レジーナは言いたいことだけ言って、その場を逃げ出した。
(ああ、もう、失敗……!)
本当は、もっと上手に自分の気持を伝えるつもりだったのに。
考えていたのと全然違う。
緊張しすぎてテンパって、言わなくていいようなことで彼を責めて、挙げ句、捨て台詞のような告白。
クロードは驚きに固まっていた。
思い出し、レジーナの目にジワリと涙が浮かぶ。
(……私がクロードを好きなんて、全然、予想もしてなかったってことよね?)
もっとちゃんと伝えられていれば、彼も違う反応を見せてくれたのだろうか。
高ぶった感情が抑えきれない。
レジーナは泣き出す寸前で自室へ逃げ込もうとした。
不意に、名前を呼ばれる。
「……レジーナ?」
咄嗟に振り向く。視界に、リオネルの驚いた顔が映った。
「泣いているのか?」
「いいえ」
「何があった?」
「……何もないわ」
「何もないわけがないだろう? 君が涙するなど……」
リオネルが動揺を見せる。
レジーナは笑い出したい気分だった。
(私が泣くのがそんなにおかしい?)
この三年、レジーナはずっとリオネルに泣かされ続けた。
ただ、彼の前では泣かなかっただけ。
リオネルはそれに気付きもせず、目の前で起きた事象にだけ心囚われる。
滑稽だった。
「……なんであれ、あなたには関係ないわ」
レジーナは彼に背を向ける。
とにかく、今は一人になりたかった。
「レジーナ、待て!」
放っておいてくれれば良いものを。
行く手を阻まれ、レジーナは踵を返した。後を追ってくるリオネルを振り切るため、食堂に逃げ込む。
逃げ込んだ部屋。テーブルとイスが並ぶその場所には先客がいた。
レジーナは驚きに足を止める。
「……アロイス?」
その場にいたのは三人。
アロイスとエリカが対峙し、アロイスの横にフリッツが立つ。
三人の視線がレジーナを向いた。
いつもと違う雰囲気。
戸惑うレジーナに、リオネルが追いつき、疑問の声を上げた。
「エリカ? ……これは、一体どういう状況だ?」
リオネルの問いに、アロイスが口を開く。
「レジーナ、ちょうどいいところに来てくれた」
「私?」
「ああ。……今、改めて、エリカに階段から転落した際の話を聞いていた」
「えっ!?」
レジーナは思わずエリカを見た。
彼女は困り顔で、リオネルに視線で助けを求める。
彼はすぐさまエリカに駆け寄った。安心させるように、彼女の肩を抱き寄せる。それから、アロイスに鋭い視線を向けた。
「エリカに当時の記憶がないことは承知しているはずだ。なぜ、今更そんな話を?」
「確かめておきたいと思ってな。階段での事故、彼女は記憶がないと言っていたが――」
「まさか、エリカの言葉を疑うつもりか?」
「そうではない。時間が経って何か思い出したことがないか聞いていた。事故直後は記憶を失っていても、後で何か思い出すかもしれないだろう?」
アロイスの説明に、リオネルはエリカを見下ろす。
彼女は小さく頷いて返したが、その瞳は潤んだまま。
リオネルは不機嫌に告げる。
「しかし、それだけで、こんなにエリカが脅えるとは思えない。何かひどい言い方を――」
「違うの、リオネル!」
エリカがリオネルの服の袖を引く。必死に首を横に振った。
「ごめんなさい。私、何も思い出せないことが申し訳なくて。それで、どうしたらいいのか分からなくなってしまったの」
「……エリカ。君が自分を責める必要はない」
リオネルは彼女の髪に触れて慰める。
泣きそうだったエリカが困ったように笑う。
彼女の視線がレジーナ――その背後に向けられた。
その瞳に気色が浮かび――
「あれ、全員集合?」
「シリルくん!」
エリカの弾む声。
レジーナは背後に立つ男の気配に身震いする。
シリルはレジーナの横を通り過ぎ、エリカの隣に並んだ。
「英雄さんはいないの?」
周囲を見回すシリル。
その問いに、リオネルが答える。
「見ていないが、あの男に用があるのか?」
「ううん、無いよ。ただ、彼がいると色々と、ね?」
含みを持たせた言葉。
それに焦れたように、エリカが横から口を挟んだ。
「シリルくん! シリルくんなら、私が階段から落ちた時のこと、よく覚えているでしょう?」
「ん?」
「私、アロイスにあの時のことを聞かれているの。でも、全く思い出せなくて。シリルくんから、もう一度話してもらえない?」
「えー? まだ、そんなこと言い合ってたの?」
心底呆れたと言わんばかりの声。
エリカが苦笑する。
「ごめんなさい。確かに、今更なんだけど……」
エリカの視線がレジーナに向けられる。
「シリルくんは、レジーナ様が私を突き落とすのを見た、のよね?」
「ああ、うん」
シリルはいつも通りの穏やかな笑みで答えた。
「そんなの、嘘に決まってるじゃない」
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