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俺がドアを開けると、見知った顔のあいつに出会った。
「あ、messiah」
「木更津?もうここまで来たのか。初心者にしてはやるな。褒めてやらんこともないぞ」
「優しいんだなお前」「100%褒めるとはいってないだろ?!」
「あ、そういえば普通にうれしいことあってさ。俺の名前が分かったんだ。星斗って言うらしい」
そう言うとあいつはあからさまにばつの悪そうな顔をした。
「……なんで知ってるんだお前」
「さっきまであの部屋にいたんだけど、そこのCDを見て分かったんだ」
「というかなんでここにいるんだ……??ここは最下層だから参加者は来れないよな……」
「えじゃあ俺参加者じゃない!?」「んなことないと思う」
「てことは俺もしかして極秘情報知っちゃった系……??」
「まあ……そうだな」
「消される?」
「そうだな」
「見逃してもらえませんかね……?」
「えっ……いや……」
前も思ったけど、messiahは意外とちょろい。
押せばいける気がする。
「あのCD、自分の名前の奴以外見てないからその……ネームドの皆様の情報は知らないし……」
「……いや、私はいいんだけどさ。初狩りは程々にしないといけないし。でも”あの人”が許してくれなさそう」
「あの人って?」
「meutrueさん。人間のネームドだと一番強いし、やっぱ憧れの先輩って感じ。まあ私が最強なんだけどな」
「秒で矛盾するのやめろよ……でもそんだけ強い奴に目つけられたらまずいってこと?」
「そうだな。激マズ。までも見逃してやらなくもなくもなくもないけど」
「それどっち???」
「ちゃんと数えろ!!見逃すって言ってんの!!でも他の!!ネームドに!!ばれないように!!なんとかしろー!!」
「あざす」「軽いな!!」
「てかmessiahは最下層で何してんの?」
「友達みたいなノリで聞いてくるなよ!!一応敵だぞ!!……最下層にはちょっと用事あってな」
「どんな用事?」
「『最下層で待ってマス!!』って言ってたきもい声のネームドいただろ?」
「そんなきもくなかったけど……。ambitionってやつ?」
「そ。こいつに用事ある」
「会ってくるの?おしゃべり?お菓子作り?ティーパーティー?」「女子会かよ!!」
「会って……どこまで言っていいんだこれ。まぁその……”もてあそばれに行ってくる”」
「なんそれ」
「あいつの気分によって私がどうなるかが変わるんだ。最強としては癪なんだが」
その時、スピーカーのようなものから急にノイズが入り、5秒後ほどに彼が話を始めた。
噂をすればなんとやら、その男はambitionである。
「こんにちはー!木更津サン!あ、安心して下さい。木更津サンにしか聞こえてないはずデスから。ちょっと質問なんデスけれど、messiahサンを知りマセンか?」
「え、messiahならここに」
「ちょ、おまマジで黙れ!」
「あ、ここにいたんデスか?まあ確かに同じ■■■……おっと、妨害が入ってしまいマシタ。あの人も怖いデスね、さながらストーカーデス。ところで、messiahサンは僕の遊び相手になってくれるのでは?」
「お前が”同化”してこようとしなけりゃ無限に遊んでやるよ」
「大丈夫デスよ!僕は貴方の味方デス。おどおどせずに素の貴方でいいんデスよ?」
このあたりで、messiahが耳打ちしてきた。
「”この先を道なりに進むと梯子が見えてくる。そこを登れば誰かと合流できる。一旦私が時間稼いどくから、なんとなく逃げとけ”」
「”ありがとう”」「”……別に”」
「ふーん……つまんないデスね。やっぱり遊び相手はもっとおかしな人の方がいいかもデス」
「へー私は普通の一般人ってことか?言っとくけど私最強プレイヤーだからな」
「時間稼ぎが露骨すぎマセン?二人とも本当に友達みたいデスね。まあ実際は■■デスけど。……ああ、本当にうっとおしいネームドがいたものデス。あの人が二人を救おうとするなら、僕一人を救ってくれてもよかったのに」
「そいつ誰?」
「meutrueサンに決まってマス。■■二人を救って救世主気取りデスか。僕の方がよっぽど深刻だと言うのに。
ね、僕を救ってくれる救世主サン?」
「……」
「この期に及んで無視デスか?僕を無視しなかったからambition行きになってるんデスよね。一瞬僕のことを掘り返して、ついでに墓穴を掘って退場デスか?」
「……本当に失敗したと思ってる」
「ははは!!感想なんて聞いてないデスよ!!……ああー、やっぱり会って話しマセン?そっちの方が戦いながら話せるし、貴方も楽では?」
「あ、最後にもう一つ。僕は貴方の味方デス。唯一の、真の、一生の味方デスから」
通話は切れた。
messiahにとっては、これは地獄への片道切符。
ambitionには現在231個の人格、いや失敗作のネームドが同化されている。
ambitionには通常の能力と別に他者の人格を自身に宿らせる能力を所持している。
それにより、毎回失敗作のネームドがambitionに同化される。これを「ambition行き」と呼んでいる。
機密情報をしってしまったネームドもambitionに同化させられる。上によって。
ambition行きはかなり不安定要素が強く、彼の気分によっていつ同化させられるかが決定する。
基本、ambitionと永遠に回復する戦闘をして、体力的に限界を迎え、なんの反応も示さなくなったら同化するらしい。
同化すると、肉体から魂が抜けるみたいなもので、肉体を動かすことも出来ず、ただambitionの一部になる。
それも、じっくり、何年間もかけて。つまり、自我がゆっくりと消えていく。
精神的に拷問されるような感覚、とambition本人が語っている。
当然、今の彼にも失敗作たちが少なからず影響を与えているので、感覚も理解できるらしい。
ambitionについて触れちゃいけない理由は、機密情報すぎてまだ話せない。
「……本当に、やっぱりあいつ……大っ嫌いだ」
そう呟き、彼は地獄へと向かった。
*
「音端……?」
「起きすらもしない?」
「そう、です」
「あー……そんな怖がらなくていい」
音端が俺を庇って重傷を負い、俺も天神の変身が解けてしまってからしばらくしたころ。
俺は衣川(彼のネームド名はmeutrueらしいが、そう呼ぶべきなのか……?)に案内されて最下層の小さな部屋に来ている。
ここは彼の部屋らしい。というのも、ネームドにも参加者と同じように部屋が用意されているそうだ。
で、彼になんの説明もされないまま回復魔法だけかけられている。
しかも彼はナイフを俺に向けたまま「怖がらなくていい」とか言っている。本物のサイコパスだ。
ついでに鍵も閉められてるので逃げられない。怖いぃぃぃ……。
俺がもし天神に変身したままだったら、上手く攻撃してこの状況も切り抜けたのかな、とか思うともう泣きそう。
俺は今変身が解けてるので、変身前の俺……天竺極夜(てんじくきょくや)に戻ってるのだが、
変身前はガリガリの運動音痴・勉強音痴・手先不器用・戦闘もできなければ作戦も思いつかない、できることを考える方が難しいし、仕事も即クビの社会のごみで生きてる価値もない、おまけに今回は大戦犯をかまし、要らぬ犠牲を仲間に出し、敵に誘拐されては向かう勇気もない。身体も心も思考もぺらっぺら。できないがいっぱいあるのに毎回落ち込んで泣き出しては暴れ、でも手帳ほどでもないからただの怠慢と豆腐メンタルで、前科も普通にめっちゃあるし毎日犯罪ばっか。じゃあ死ねって言われても死ぬのはもったいないと考えてしまうような、俺より底辺な人を探す方が難しいような超ゴミ人間。
変身が解除された直後は、あの戦闘狂兎の感覚が多少残っていてかっこいい感じになってはいたのだが。
当然今の俺はゴミ。本気で死んだ方が社会貢献できる。
この状況になったのは100%俺が馬鹿でおろかな最悪な存在だからだ。
「今から色々説明する。後でこいつにも説明してくれ。……その前に」
そういって衣川はナイフをさらに俺に近づけた。
「な……なんでしょうか……ぁ……」
「あ、今のは別に、指さしちゃう癖があってその延長的なあれだから。別にお前が気に入らなくて刺そうとしてない」
「え、あ、あ、ご、ごめんなさ、」
「だから刺そうとしてないっての……あのな?俺、苗字呼びあんま好きじゃないから、名前なんて言うのかなーって聞いただけ」
「あ、極夜って言います」
「かっこよ。天神の10倍はかっこいい」
「そ、そうですか」
「んでなー……何から説明したらいいんだろ。なんか知りたいことある?」
その聞き方が一番困るんだよ!!ふざけないでくれ!!
今分からん事なんて無限にあるわ!!マジでコミュ症ゴミ人間にその聞き方しないでくれ……
「え、えと、俺は、何してたらいいんですか」
「あー!そっかその話しとけばよかった。んーと、詳しくは聞かないで欲しいんだけどな、ちょっと事情があって。
その……お前たちは、今死んでることになってる。というか、俺に殺された判定になってる」
「え、あ、なんで?ですか」
「なんでっていうのも……俺の能力で物事を隠せるんだ。それを応用した。詳しくはあんま言えない」
「え、いやその、なんで死んでないといけないんですか」
「それを聞かないでほしかったなー。まあでも、俺にとって大切な人が2人いて、そいつらを助けるために俺は……悪役にならないといけない。そんな感じ」
「あ、は、はい」「悪いなーほんと。詳しくは言えない事ばっかで」
「じゃ、じゃあ俺と音端は今、死んでる人として生活しなきゃなんですか?」
「その通り。呑み込み早くて助かるぜ。で、今は俺が近くにいるから、お前たちを隠せてる。だから今は叫び散らかしても走り回っても気づかれることはない。ただーー」
「もう少ししたらネームドの集まりがあって、そこに俺は行かないといけない。そしたら、お前たちを隠すのは難しくなる。そこで、なるべく静かにここに待っててほしい」
「そ、それだけ?」「おん。簡単だろ?」
「音端にも伝えといてな」
「で、でも僕本当にゴミなんでその……や、やらかしちゃうかも……」
「平気平気。俺もそこまで遠くには行かないし、それに一応協力者もいる。……じゃあそろそろ行ってくる」
「え、あ、あ、やばい、かも」
「意外となんとかなると思うけどなー。じゃあ行ってくるわ、あ、あと」
衣川はポケットから鍵を取り出し、あからさまに俺の前に落とした。
「逃げるなら今のうちに。じゃあな」
衣川はどうやら自身を隠す間壁をすり抜けるのもできるらしく、軽々と壁を通り抜けて出て行ってしまった。
一旦鍵を拾ってみるが、割とガチでどうすればいいんだろうか。
あいつの言い方的に出てってもいいよって言いたいっぽいのだが、
俺は前述した通りの社会における最底辺なので、おそらく外にのこのこと出て行ってもボコボコにされて帰ってくる。
でも……音端も、俺は天神じゃないわけだし、それが知られたらハイパーショックだと思うのだ。
だからと言って鍵を俺が使って出て行ってもやらかすし、音端が可哀そう。
どうすればいい?こう考えている時間が無駄か。
じゃあもう出ていくか。珍しく早く決まった。
というのも何もできない無能で、しかも天神は……実質俺のせいで死んだ。
これ以上俺のせいで誰かが死なないで欲しい。
俺は鍵穴に鍵を入れた。手が震えているのは武者震いだと信じている。
相変わらずの不器用さで、右に回し左に回し、やっとの思いでガチャ、という解錠音が聞こえた。
そっとドアに手をかける。その時。
「主様……?」
「え、あ」
音端の声が背後から聞こえた。
「……誰、ですか?」