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探偵社に戻ると医務室の方が騒がしい。
芥川に何かあったのかと自然と無花果を入った袋を握り締める。
敦「なにか、あったんです、か…あれ?」
芥川「その声は…、人虎か…?」
寝台に居たのは、幼くなった芥川だった。
敦「何で、そんな小さく…?」
芥川「けほッ…、貴様の、せいだ、愚者め…」
咳を零しながら、僕を睨む。
確かに障害が発生するとは聞いていたが、此処まで特異な物とは。
大人びた喋り方をたどたどしく綴っている芥川の姿は不思議と加護欲がでる。
敦「あ、あの誰か説明を…」
太宰「どうやら、幼い頃の記憶だけを残すはずだったものが突然変異したようでね。」
芥川「…、体も弱く体力もない。此れでは任務も遂行できぬ…。」
芥川は何処か恨めしげに僕を一睨みすると、ぷいっと横を向いてしまう。
可愛すぎだろと思うが、未だその頬には相変わらず痛々しい薔薇が刻まれている。
敦「何だか行動まで子供になったみたいだな…。」
芥川「餓鬼は貴様だ、人虎ッ…!」
心外とでも言うような顔をされた、こっちが間違っているのかと思うほどだ。
率直な感想を述べたところ、言葉の端々に怒りを感じて、思わず話を逸らす。
敦「ほ、他に障害はないのか?」
芥川「…視界がぼやける、色は認識できるが…」
敦「そんなに…!?」
太宰「芥川君、聞いてないのだけど!?何でそんな大事な事を言わないの?」
芥川「大事な、事とは…?」
芥川「探偵社にもマフィアにも僕の目が見えぬ事など、大した事ではないのでは…」
太宰「…はーッ…、」
あまりにもの自己肯定感の低さに頭を抱える。
与謝野「芥川、アンタは自分をもっと大事にしな…」
国木田「そうだぞ。自身の健全を整えてこその理想なのだ。」
あの与謝野さんでも呆れ気味に諭している。
国木田さんも、国木田さんなりに主張しているようだ。
芥川「…承知、」
芥川はというと、何処か分かっていないような顔で頷く。
だが、この包帯無駄遣い装置がやらかしてしまった。
太宰「全く、そんなのだから敦くんに勝てないのだよ。」
太宰「やはり敦くんに乗り換えて良かっ、た…」
本人は悪気は無いのだと言うが、これはツンデレの度を越している。
太宰「は…?」
太宰さんが言い終わると同時に、芥川の大きな瞳から涙が零れ落ちていた。
次から次へと大粒の涙が溢れる。
本人も分かっていなかったのか、目を見開いて驚いた顔をしている。
芥川「すみ、ませぬ。此の様なつもり、は…」
一生懸命に涙を食い止めようと手で頬を覆う姿は可愛いが過ぎるな、等と
場違いなことを考える自分に嫌気が差すが、兎に角、芥川の涙を拭おうと手を伸ばす。
触れると芥川は驚いたように僕を見るも、振り払う余裕もないのか抵抗はしなかった。
ちら、と泣かせた本人に目線を送ると
太宰「私が殴っても蹴っても泣かなかった芥川君がボロ泣きしてるんだけどッ!!」
太宰「国木田君!一眼レフカメラ頂戴!」
国木田「変態にやるカメラはない!この唐変木!!」
太宰「独歩吟客で出せるでしょ!ほら、今こそ探偵社の総力を上げるべきだよ゙ッ゙」
国木田「いい加減にしろ!この包帯無駄遣い装置めがッ!!」
国木田さんに一刀両断されている上司に対してざまみろと思ってしまった事は秘密だ。
…、まぁ芥川の泣き顔が可愛いのは分かるが。
今も必死に嗚咽を抑え込んで、これ以上泣くまいとしている姿は尊い。
国木田さんに首を絞められているので太宰さんは芥川を見ることが出来ないようだ。
やっと解放されたのか芥川に駆け寄る。
太宰「…落ち着いたかい?」
芥川「だざいさ、んふ」
必死に答えようとする小さな口を塞いで、言葉を続ける。
太宰「ごめんね、泣かせたかった訳では無いのだよ。」
太宰「子供の姿だと感情が表に出やすいみたいだね。」
芥川「そう、なのですか…?」
それを聞くと芥川は不安げな声色で、おずおずと上目遣いで尋ねた。
太宰「ん゙ッッッ…」
それを間近で食らった太宰さんは膝から崩れ落ちた。
崩れ落ちさせた張本人は太宰さん太宰さんと必死に呼びかけている。
敦「芥川、太宰さんは大丈夫だから安静にしとけよ。」
芥川「…、」
今にも寝台からずれ落ちそうな太宰さんを抱えて、軽く頬を叩く。
敦「太宰さん、起きてください!まだ異能無効化試してないでしょう?」
太宰「んん〜…、あと5分だけ寝かせて…」
この人相変わらずいぎきたないなと苦労していると
国木田さんが手帳を太宰さんの頭に振りかざした。
太宰「いだッ… !ちょっと何するんだい!」
国木田「怠けてないで起きろ!」
芥川「太宰さ、…」
心配そうに太宰さんを見つめる姿に、国木田さんも手を止める。
国木田「…兎も角、芥川にかかっている異能に触れてみろ。」
太宰「あぁ、」
太宰さんは芥川の頰に手を置くと異能を発動した。
太宰「異能力 人間失格」
芥川「ん…、」
2人を中心として光が漏れる。
あまりの眩しさにに目を閉じた。
少しの期待を胸に太宰さんを見る。
その顔は、暗く沈んで辛そうな、表情に覆われていた。
芥川を見ると、ぱちぱちと可愛らしい効果音と共に瞬きをしている。
その頬には薔薇が刻まれたままだった。
太宰「やはり、ね…」
国木田「駄目か…、」
芥川「左様ですか…、では此れで失礼します。」
全員「は?」
太宰「何言っているんだい、君は探偵社にいたまえ。」
国木田「そんな状態のまま帰らす輩がいるか、茶でも飲め。」
芥川「…しかし、任務も書類も作成せねば…」
与謝野「それどころじゃないだろう?
敦を庇ってそうなったんなら治るまでうちにいな。」
やはりというか肩身が狭い。
僕も芥川に視線で訴えると、半ば諦めたような顔をして寝台に戻る。
太宰「もうマフィアには伝えてあるからね。
森さんから治るまで期限無しの休暇を与えると聞いたけど。」
太宰「明日には君の部下が見舞いに来るそうだ。樋口さんだったかな。」
芥川「樋口が、…」
国木田「もう子供は寝る時間だ。今日は此処で寝てもらうが…
敦には責任を持って明日からは社員寮で共に生活してもらうぞ。」
敦「え?」
芥川「僕は子供ではありませぬ…、国木田さん」
いやそこかよ、と思いつつ布団あったかなと記憶を漁る。
国木田「子供は睡眠を取らねばと支障がでる。もう寝ろ。」
芥川「…承知。」
やや納得いかぬとでも言うような顔をして眠りにつく。
布団に潜ったのを確認してから、僕たちは部屋を出た。