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魔術師を殺せるのは妖術師のみ。 他の術師に助けを求めた所で、最後に俺の攻撃が入らなければ、魔術師は死なない。
それを知っても尚、助けを求めてしまうのは人間の性。どうしようも出来ない反射的な行動である。
「………一般人を巻き込まないように転移したのは良いが、俺一人じゃやっぱキツいか…?」
つかぬ間の休息。 遡行前と同じで、妖力と体力を回復することが出来る唯一の時間。
その間に持っていた携帯端末で仲間の術師、晃弘やその他の術師に救難信号を送る。こんな山奥で送れているかどうか不安だが、恐らく大丈夫だろう。
「………二度目の挑戦。今度は死なない様にしねェとな」
遡行する前にも感じた背筋が凍える程の殺気、やはりコレはただの偽・魔術師如きが発せる雰囲気では無い。
俺は急いで創造系統偽・魔術師と距離を取――― らず、動ける程度の妖力を体全体に回し、黒鶫を振る。
地面に倒れていた創造系統偽・魔術師は急いで体を起こし、再び聖剣を手にし、俺の黒鶫を正面から受ける。
「僕の方も少しくらい休ませて欲しかったですね…!!」
「あァ…?微量な魔力しか使ってない奴が何言ってンだ、休みなんて必要ねェだろ」
遡行前は戦闘に夢中で気づかなかった事。 創造系統偽・魔術師は『創造』の時だけしか魔力を回していない。
道理で魔力切れを起こさずに大技を連発出来る訳だ。
「……また千里眼、ですか?」
「い〜や?コイツに千里眼は関係無い、俺が戦いの中で導き出した回答だ。何せ『鑑定』にも妖力を使うからな、なるべく控えてンだ」
嘘、遡行前で得た知識をそのまま口にしただけだ。
それより今は、聖剣の斬撃を躱せる程度まで妖力を回復させなくてはならない。その為に意味の無い会話で、時間を稼ぐ。
「お前の『聖剣』は一本だけか?その一本をぶった斬ったらもう二度と作り出せねェのか?」
「………本当なら答えたくない事ですが、時間稼ぎをご所望の様なので答えましょう」
「『聖剣』は一度破壊されれば二度と作り出せません。例えば僕の魔力が幾ら有り余っていたとしても」
この野郎、俺の思考を読んだ上に聖剣の解説をするまでの余裕がある。意図的に煽っているのか、無意識的な煽りなのか。
だがその余裕が命取りになる事を、俺は自分の身を以て知っている。
「そォかよ、そりゃご丁寧にどうも。なら『聖剣』をぶっ壊せば俺の勝ちって事だなァ!?」
余裕にお喋りをしている創造系統偽・魔術師の 隙をついて、片腕で振った黒鶫が空を斬る。
その行動は創造系統偽・魔術師に攻撃するモノでは無く、空間転移をする為のモノでも無い。
「『聖剣』を受けない方法は、あの時に知ってるからな!! 」
初めて創造系統偽・魔術師が聖剣を放った瞬間。”あの時”俺は自分の妖術では無く、外部の力を使って斬撃を防いだ。
それを利用して、もう一度反撃の機会を得る。
その為に 神器である黒鶫を『無銘・永訣』と『太刀 鑢』へと分離させた。
『……貴様、我の神器を勝手に使って勝手に放棄するとは、どこまで我を馬鹿にすれば気が済むのだ!!体の主導権を手に入れたら必ず―――
俺と狂刀神が入れ替わっている時だけしか外れない『無銘・永訣』の鞘が解放される。
……現時点でその条件を満たせていないこの体で、何故か使える究極の技。
「その神器、やはり―――『聖剣』!!」
想定外の行動だったのだろう。 創造系統偽・魔術師は聖剣を抜き、俺は永訣を使う。ただそれだけの事を。
一度防いでいるなら、俺が再び永訣を使う事を危惧しておくべきだったのだ。
「相手より優位に立っているからと言って慢心のし過ぎたなァ!! 」
永訣から放たれた漆黒の霧は、俺と創造系統偽・魔術師を包み込み、周囲を 黒洞々たる景色へと変貌させる。
満点の青空を変え、創造系統偽・魔術師の視界を奪う。 この霧の中で動ける者はこの俺一人。
無造作に放たれる聖剣は永訣が全て無効化、俺はこの霧の中をただゆったりと歩き続け、創造系統偽・魔術師へと歩み寄る。
「……どこだ、何処に居る!!こんな卑怯な手を使うとは…!!騎士としての誇りは無いのか!!」
「 “卑怯” だァ!?俺は騎士じゃねェし、 戦いに卑怯もクソもあるかってンだよ!!勝てば良いのさ勝てば!!」
なんとも外道な台詞なのだろうか。
人としてどうかと思う発言すぎると自分でも思う。―――厳密に言うと妖術師だから人間じゃないけれど。
「『聖剣』!!」
攻撃は通らないのに、それでも創造系統偽・魔術師は聖剣を振り続ける。
攻撃は通らない、と言っても物理的な攻撃は無効化出来ず、下手に近づいてそのままの聖剣で斬られたら元も子もない。
「……っワープで逃げる気ですか!?」
確かに、空間転移でここから移動して仲間を連れて来る事も可能だ。 しかしそれには莫大な妖力を要する。
『複製』はこれまでの妖術の中で一番妖力を消費し、使用可能時間があまりにも長い。
そして空間転移の連発はソレを加味した上で、神器の特性である『能力の安定化』で補っていた。
故に、黒鶫として、本物の神器としての役割を失ったこの刀は『能力の安定化』を失っている。……… 次に『複製』が使用できるまで、ざっと二時間。
「………空間転移はまだ使えねェ。永訣の霧が消えるまでに策を考えるしか方法は無いな……」
猶予は無い。 今ここで結論を導き出し、行動に移さなければならない。
周囲の霧が段々濃くなって行き、創造系統偽・魔術師は完全に俺の姿を見失い、聖剣を振る事すらしなくなった。
―――諦めたのか、それとも俺と同じく作戦を練っているのか。
どちらにせよ好機。 身を守る行為を辞めた創造系統偽・魔術師を今ここで斬る。
「……ならば諸共、『創造』」
もう遅い、二度目の判断ミス。
聖剣を連発している時に戦えば結末は変わったに違いない。だが俺の慢心がその結末を否定した。
そしてこれから起きる惨劇を、俺はただ何も出来ずに見る。
「―――『湖の乙女よ』
その白い輝きを放つ剣は、かの有名な騎士王が選定の岩から引き抜いた、もしくは湖の乙女から手渡され受け取ったとされている伝説の剣。
激しく放たれる光は永訣の霧を払い除け、邪悪を伐つ為に躍動する。
「―――『導き給え』!!」
木々も空気も虫も動物も建物も空も地面も人も海も意識も夢も希望も何もかも全てが、蒸発する。
世界がそれを許した様に、ソレは止まること無く輝き続ける。ただの一度も光を絶やさず。
創造系統偽・魔術師の創り出した剣が、例え本物の聖剣出なくとも関係ない。その威力は十分に凄まじく、どの術師も適わぬ程の力を見せた。
「………まさか切り札を魅せる事になるとは思いませんでした。これ程までに僕を混乱させたあなたに敬意を」
創造系統偽・魔術師の声は届かない。 既に焼け死んでいる訳でも無く、耳が聞こえなくなった訳でも無い。
―――もう、居なかった。この世に、この地球に妖術師の姿は無かったのだ。
『湖の乙女よ、導き給え』は妖術師を存在ごと消し去り、何事も無かったかの様に輝きを失う。
「………自滅技ではありますが…楽しかったですよ妖術師。またあの世で会える事を楽しみにし―――
体は消え、聴覚器官すら消失した俺は、 既に聞こえなくなったはずの声を認識し、意識が覚醒する。
空間転移してから二度目の遡行。
原因は明らかなる慢心……では無く、圧倒的初見殺し。初めてであの攻撃を防げる者は誰もいないし、 いるはずがない。
まさにチート級の技。自らを犠牲にした最後の一本槍、いや一本剣と言った所だろう。
攻撃無効化が付与された霧さえも蒸発させる程の光量と熱量は、ほんの少し触れるだけで何もかもが消える斬撃となる。
対抗策は何も無し、永訣の霧が効かない以上、これまでの足掻きが全て無意味と化した。
思考が止まらない。
死んだはずの、既に失ったはずの思考は回り続けている。 恐らく死しても尚、 溢れ続ける妖力が巡っているからだろう。
………間もなく”遡行”が起きる。
この意識だけの何も無い空間、千里眼が進化した時の空間と似た、身体と言う情報の別の何処かで俺は只管に考え続ける。
恐らく”遡行”地点は変わらず固定だろう。
未だに”遡行”の回帰地点となる基準や条件が全く分からず、調べようがない。ただ過去に戻るのを待つのみ。
何もかもが消え去った土地、俺の生まれ育った建物でさえも崩壊した場所で、 勝負を勝ち取った偽・魔術師が一人。
「………自滅技ではありますが…楽しかったですよ妖術師。またあの世で会える事を楽しみにしています、ほんの一瞬だけ…ですけどね」
その創造系統偽・魔術師も間もなく消える。 指先から紙が燃える様に、少しづつ体が崩壊して行く。
「………僕はただやっと本気を出せる術師を見つけて、ついつい本気を出してしまっただけです。……まさか自滅技を使うまで追い込まれるとは思いませんでしたが」
妖術師は魔術師を殺す為に、魔術師は戦いを楽しむ為に。
確かに、この戦いに意味は無かった。 創造系統偽・魔術師は妖術師にあまり興味を示さず、妖術師は争い事を避けていた。
出会った頃の過去に戻ったとしても、この二人が戦闘になる確率は限りなく低く、すれ違って終わる筈だったのだ。
妖術師は運が悪かった。
別の偽・魔術師『氷使い』を連れていたのが間違いだった。史上最悪の選択肢を選んだ。
『氷使い』の一言、そして妖術師の行動が “創造系統偽・魔術師と戦う” と言う未来を導き出してしまった。
その結果がコレだ。
創造系統偽・魔術師と妖術師の肉体は消え、その存在ごと抹消された。
ただ残されたのは創造系統偽・魔術師の『エクスカリバー』のみ―――
「―――Confirmation of the disappearance of the sorcerer.
As a result of the calculation, the failure of the sorcerer cleanup plan is confirmed as of the present time.」
「The most important person needs to be revived to get the magician cleanup plan back on track.
Confirmation of the identification number of the sorcerer : Utugi Yuma. Permission to resuscitate, ―――approved.」
「At the same time, the creation system false/magician is allowed to be resuscitated, ―――approved.
Re-constructed the body and performed the resuscitation.」
「Until executed, …3…2…1, confirming the resuscitation of the sorcerer and the creation lineage false/magician. 」
「Summons both reconstructed bodies.」
「どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!なんで……再起動は僕だけの筈なのに、何故あなたが…!!」
消える寸前まで俺と創造系統偽・魔術師が立っていた地面に、再び二人の術師が姿を現す。
それは紛うことなく、肉体は亡び、存在が蒸発した妖術師と大技を放った代償に消滅した魔術師であった。
理解が追いつかない、俺は死んだはずだった。そのまま遡行して次の戦いに望むはずだった。なのに―――、
あぁ、そう言う事か。
「………は、ははははは、ははははは!!」
笑いが止まらないとはこの事だったのか。
魔術師自らの手で屠った妖術師がまさか、自身の能力によって生き返るとは、想定していなかったのだろう。
「はぁ〜……本当に滑稽だな、魔術師サンよ」
―――肉体の再構築。
創造系統偽・魔術師の持つ『創造』は、聖剣のような “特異な物質” を魔力で再構築させ、武器として扱う事が出来る。
彼はそれを生かし、自身の身体を “一つの物質” として認識し、死後に肉体の再生を 実行させた。
実質的な蘇生概念。歴代様々な術師が “死の克服” を目指し、肉体の蘇生を計ったが叶わなかった理想。
それを創造系統偽・魔術師は自身の特性を理解し、成し得たのだ。
「………再構築する際の条件は “消滅する一時間前の姿” だろ?」
戦闘で魔力を浪費した肉体より、万全の状態で魔力も有り余っている肉体を創造系統偽・魔術師は選んだ。
……まさかその選択が仇となるとは。
「一時間前と言えば、俺が一度目の空間転移を使った直後…だな。その時なら妖力に問題無し、武器も黒鶫のままで『鑑定』を使っても良い程の余裕があるって訳だ」
「………そんな、いや、そうじゃない!!千里眼の鑑定能力なんてどうでも良いんだ!!――― どうして、妖術師まで蘇生されたんだ!?」
「………はっ、そんなの俺も知らねェよ!!ご自慢の『創造』様に聞いてみたらどうだァ!?」
足元の影が広がり、創造系統偽・魔術師と周囲の木々を覆う。
戸惑った創造系統偽・魔術師は急いで影から離れようと試みるが、もう既に遅い。両脚をガッチリと影から伸びた手が掴み、逃がさないと叫んでいる。
「『黒影・深層領域』」
伸びた影は上半身までを包み、完全に身動きが取れない状況まで追い込む。
『聖剣』も『湖の乙女よ、導き給え』も使わせない。
……だが、創造系統偽・魔術師は俺の予想を遥かに超えて対抗してくる。ならば 慢心は無し、そして何もさせずに高火力で策を潰す。
「―――『創造』!!」
来る。手足を縛られても尚、 攻撃を続けるその心意気。創造系統偽・魔術師は『偽・魔術師』に収まる器では無い。
遡行有りとは言え、何度も妖術師を殺し、土地一つを消滅させている。これは完全に純粋な 『魔術師』の領域だ。
そして、創造系統偽・魔術師の『創造』は微量な魔力しか消費しない。 『聖剣』や『湖の乙女よ、導き給え』を扱う際にも魔力を消費する事は無い。
一瞬で相手を消し炭に出来る力があり、尚且つ妖力切れを起こさない方法。そんなの、ひとつしかない。
「―――『疑似創造』!!」
俺は沙夜乃同様、創造系統偽・魔術師の切り札を『複製』した。
しかし、複製したとは言え、空間転移とは違い完全的な複製では無い。性能も少し落ち、構築出来るのは創造系統偽・魔術師が作り出した武器のみ。
―――それで十分だ。既に創造系統偽・魔術師は俺の目の前で創って いる。
そしてそれを理解した彼は、俺が動く前に仕留めるつもりだろう。ならば、速さ勝負だ。
「『湖の乙女よ、―――!!」
「『選定の剣よ、―――!!」
宇宙から地球に小さく明るい光が見えるほどの輝きを放つ二本の剣。
―――片方は剣を授けた湖の乙女に懇願する様に、もう片方は模倣した剣に願う様に、その光は、
「「――― 導き給え』!!」」
「………『疑似創造』は偽物。お前の本物とは違い、代償を払う必要も無い。 ―――この勝負、俺の勝ちだ」
俺の生まれ育った街諸共、俺と創造系統偽・魔術師は『エクスカリバー』によって焼き払った。
俺は最初に使用していた『黒影・深層領域』で自身を覆い、創造系統偽・魔術師は俺の『エクスカリバー』を正面から受け止めた。
勿論、俺の妖術如きで防げるはずもなく。現に両腕と右半身が持っていかれ、立っているのもやっとの状態だ。
「………そう、ですか。でも…僕はこの後に再………構築されるでしょう。それが僕に許された……能力なの…ですから………」
下半身を失い、全身が黒く焼け焦げた状態になった創造系統偽・魔術師。
確かに、今までの流れ通りなら『創造』の力によって肉体は再構築され、実質的な蘇生として再び現れるだろう。―――だが、
「無駄だ、お前の『湖の乙女よ、導き給え』より俺の『選定の剣よ、導き給え』の方が寸秒早かった」
「大技の代償による消滅は、俺の『選定の剣よ、導き給え』によって打ち消された」
そうだ、創造系統偽・魔術師はもうすぐ死ぬ。 魔術師と同等の実力を持つ彼は、複製した俺の攻撃によって簡単に死ぬ。
―――ダメだ。俺は妖術師であり、魔術師を殺す存在。
これまで偽・魔術師は躊躇いもなく殺してきた。どんなに命乞いをしようが、どんなに懇願されようが構わず殺してきた。
けれど………俺は、
「………クソ、誰のせいでこうなったんだ俺は」
創造系統偽・魔術師を仲間にする。
既に偽・魔術師である『氷使い』を仲間にしている俺は到底許されるはずがない、だがここまで来てしまったのなら、やるしかない。
「これも全て、あなたの計算の内ですか?惣一郎さん」
あの男はこれを読んだ上で、氷使いを仲間にさせて創造系統偽・魔術師と戦わせた。
そんな事が本当に可能なら、それはもう未来視に近しいだろう。
「………で、だ。お前には選択肢が二つある」
「一つ、俺の傘下に加わって魔術師を殺す為に『善良な偽・魔術師』として戦うか。二つ、このまま死を選び『邪悪な偽・魔術師』として死ぬか」
そして俺は、戦う前に言おうとして遮られた言葉を口にする。
「………俺と協力して、京都の魔術師を殺すのを手伝ってくれ」
最初から、この創造系統偽・魔術師は『京都の魔術師』を殺すために動いていた。 そこに氷使いと、妖術師である俺と出会ってしまったが故に、戦わざるを得なかった。
だが今はもう、戦う理由が無い。そして、二つ目を選ぶ理由も、無い。
「………これはまた……一本取られましたね」
創造系統偽・魔術師はフッと笑い、俺と協力関係を結ぶ事を表明し、長いようで短かった激闘は俺の輝きと戦略勝ちで 終結した。