テラーノベル
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私達は、あてのない旅を続けていた。入国を済ませて街へ入ると、大きな神社が参拝客で賑わっていた。
新年の浮き足立った空気の中、私達も参拝していこうと手水舎へ寄った。
「つめたいね、おねえちゃん」
不意に袖を引かれた。そこには、今にも泣き出しそうな瞳をした少女が立っていた。
「お母さんが、いなくなっちゃったの……」
私は反射的にその小さな手を握った。驚くほど温かかった。ドクドクと脈打つその柔らかな熱は、命そのものの輝きだった。
「一緒に探そう。大丈夫、すぐ見つかるわ」
人混みをかき分け、彼女を連れて歩く。私の掌の中で、小さな命の熱がずっと主張している。それがなぜか、たまらなく痛かった。
「あ! お母さん!」
少女が声を弾ませる。視線の先には、必死な顔でこちらを探す夫婦の姿があった。
少女は私の手を離すと、弾かれたように駆け寄っていく。
「ありがとう! バイバイ!」
満面の笑みで家族に抱きしめられる背中を見送る。
ふと、自分の掌を見た。
さっきまでそこにあったはずの熱は、冬の寒風にさらされ、一瞬で冷え切ってしまった。
その瞬間、私の胸の奥に、重く冷たい澱(おり)のような感情が溢れ出した。
私は、愛する者をすべて失った。
彼らが老い、病み、土に還っていくのを、私はただこの若いままで見守ることしかできなかった。魔女となってしまった今、死ぬことさえ許されない残酷な時間が、永遠という名の牢獄のように続いている。
どれだけ誰かの手を握っても、結局は独り。この冷たさだけが、私の本当の居場所なのだ。
視界が歪み、頬を熱いものが伝った。それが自分の涙だと気づくのに、数秒かかった。
「……バカだな。冷えるだろ」
隣にいたカレンが、呆れたような、けれどひどく震える声で言った。
彼女は私の震える肩を、ぶっきらぼうに、強く抱きしめた。
「我慢しなくていいんだ。……俺の前でくらい、泣けよ」
厚いコート越しでも伝わってくる、カレンの体温。それは先ほどの少女の熱よりもずっと強く、私の凍てついた心の芯を、無理やり溶かしていくようだった。
その時、懐の水晶が淡く拍動するように光り出した。
魔力を込めると、空中にホログラムが浮かび上がる。「氷雪の魔女」アイラからだった。
『あけおめ! 元気にしてる? ……って、ちょっと。あんた、泣いてんの?』
画面越しのアイラが、見たこともないような慌てた顔で画面に詰め寄る。
「ええ……少しね。新年早々、見苦しいところを見せたわ」
『……バカ言わないでよ。あんたが泣いてると、こっちまで寒くなるじゃない。無理すんな。……あんたには、私らがいんでしょ』
通信が切れた後の静寂の中で、私は深く息を吐いた。
白く濁った吐息が、空に消えていく。
私は、もう一人じゃない。
不器用な腕の中で私を支えるカレンがいて、遠い空の下で私の涙を叱ってくれるアイラがいる。
魔女としての運命は、決して変わることはない。けれど、この温もりがある限り、私はまだ「心」を持ったまま歩き続けられる。
「……ありがとう、カレン」
「……ふん。鼻水ついても知らねーぞ」
私たちは繋いだ手を離さないまま、冬の光が差す方へと一歩を踏み出した。
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