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束の間の、デートと呼ぶには短すぎる時間。
それでも二人には十分すぎるほど幸せな時間を過ごして、事務所へ戻った。
今度のライブの打ち合わせに、スタッフとメンバーが全員そろい、資料を広げながらセットリストの確認が進んでいた。
「じゃあ次、この立ち位置なんだけど」
モニターにはステージ図面。
勇斗は腕を組みながら真剣な顔で聞いている。
誰よりも細かくメモを取り、少しでも曖昧な点があれば、その場で確認する。
グループを良くすることになるなら、一切妥協しない。
それがいつもの勇斗だった。
「ここなんですけど、」
スタッフが図面を示す。
柔太朗も資料へ目を落とし、順を追って確認していた。
…あれ。
ここ、どう動くんだろ。
一瞬だけ迷って、考えるより先に隣を見た。
「勇斗、」
呼んでから、息が止まる。
しまった。
考える前に、口が動いていた。
ほんの一拍だけ、空気が止まる。
仁人が資料から顔を上げて、隣で全く同じ動きをした太智と目を見合わせた。
舜太なんて、口を開けたまま固まっている。
「……え?」
誰にも届かないくらい小さな声。
柔太朗だけが青ざめる。
違う。
違う違う。
間違えて出ちゃっただけ。
別に意味なんて——
「ちが、あの…」
「ん?」
勇斗は何事もなかったように振り向いた。
「あ、そこ分かんなかった?」
資料を覗き込みながら、ごく自然に椅子を少し寄せる。
「ここな。このあと一回下手にはけて、次で柔太朗と舜太だけセンターに戻る」
「あ……なるほど」
「動線、分かりづらいよな」
説明が終わると、勇斗はすぐスタッフへ向き直る。
「すみません、ここ一回通して確認できます?」
空気はあっという間に仕事へ戻っていく。
誰ももう何も言わない。
打ち合わせはそのまま続いた。
⸻
やっと休憩に入る。
資料を閉じていると、舜太が隣へ滑り込んできた。
「なあ」
「…なに」
「さっきさ、」
嫌な予感しかしない。
「呼んだよな?」
「…………」
「はやちゃんのこと、呼び捨てしたよな?」
「…………」
「なぁなぁ、」
「…………」
返事ができない。
耳だけが熱い。
舜太はその横顔を見て、吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「へぇ」
にやっと笑って、それ以上は何も言わずに席を立つ。
柔太朗もまた、何も言えずにいた。
ただ、テーブルの上の指先だけが、ぎゅっと握り込まれていた。
廊下では仁人と太智が待っていた。
舜太はほとんどスキップみたいにして二人の間に入り、頷き合った。
太智が小さく笑う。
「聞き間違いやないよな」
仁人は資料を確認しながら一言、
「…さあな」
とだけ答えた。否定も肯定もしない。
けれど、その口元は少しだけ笑っていた。
コメント
1件
あおいです、更新お待ちしてました🌷 呼んだ瞬間の息の止まり方、めちゃくちゃ伝わってきました……!「しまった」って思う柔太朗くんの気持ちと、それに気づかないふりをして自然にフォローする勇斗くんの距離感、すごく好きです。メンバーみんな気づいてるのに空気を壊さない大人な感じも、このグループの関係性がよく出てていいなあ…。続き、気になります。