テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
💛💙
朝七時。仁人の家。
カーテンの隙間から差し込む光で、太智はゆっくり目を覚ました。
「……ん」
まだ眠そうなまま隣を見る。
そこには、静かに眠る仁人。
「……おる」
それだけで、なんだか少し安心する。
太智は小さく笑って、そっと布団から抜け出した。
「朝ごはん作ろ」
鼻歌まじりでキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて、卵を取り出して、フライパンを温める。
「今日はうまく焼けるやろ」
そう言った瞬間。
「太智」
後ろから、落ち着いた低い声。
振り返ると、寝ぐせのついた仁人が、いつも通り静かな顔で立っていた。
「起きたん?」
「匂いした」
「もうちょい寝とってもよかったのに」
「太智がいなかったから」
淡々とした言い方なのに、太智の手が一瞬止まる。
「……それ、普通に言うやつ?」
「事実だろ」
短くそう返して、仁人はキッチンへ歩いてくる。
距離は近いのに、必要以上には詰めない。
それがこの12年の距離感だった。
仁人は隣に立つと、何も言わず太智の頭を軽く見て。
「寝ぐせ」
「え、ほんま?」
「後ろ」
そう言って、指先で一瞬だけ髪を整える。
それだけ。
それだけなのに、太智は少しだけ嬉しくなる。
「……吉田さん、今日やさしない?」
「変わんなくない?」
「いや、なんか」
「気のせいだよ」
即答。
相変わらずの温度。
でも太智はそれが嫌いじゃない。
卵を割ろうとして、少し手元が狂う。
「あっ」
「太智」
「やってもた!」
小さく焦る太智を見て、仁人はため息をひとつ。
「料理は成長しないな」
「うるさいわ」
「貸せ」
かわそ🍼💙
1,113
134
27
#M!LK
はる☻
8,888
そう言って、フライパンを自然に受け取る。手際よく卵を返す動きは無駄がない。
「ほら」
「……すご」
「見てないで覚えろ」
「厳し」
そう言いながらも、太智は隣から離れない。その距離感が、もう当たり前になっていた。
「吉田さん」
「ん?」
「俺さ」
「うん」
「朝これ毎日やったら、ちょっと幸せやなって思った」
言った瞬間、太智は「あ」と小さく声を漏らす。
言うつもりなかった顔。
仁人は一瞬だけ手を止めた。
でもすぐに、いつも通りの声で返す。
「別にいいんじゃない」
「え」
「邪魔じゃなければ」
「邪魔ってなんやねん」
「うるさいからな、お前」
そう言いながらも、卵焼きはきれいに仕上がっている。太智は少しむくれて、それでも笑う。
「仁人さぁ、そういうとこやで」
「何がだ」
「優しいのバレへんようにしてるとこ」
「勘違いでしょ」
即否定。
でも、皿に盛る手は丁寧だった。
仁人が最近ハマってるオシャレな皿。
少しだけ静かになるキッチン。
太智は横目で仁人を見る。
昔からずっと一緒で、距離は近いのに、ベタベタはしない関係。それでも。
「……まあ」
仁人が小さく言う。
「朝くらいなら、悪くないかもな」
その一言に、太智は一瞬固まる。
「……今なんて?」
「聞こえなかったならいい」
「いや聞こえたけど!」
「ならそれでいい」
そう言って、仁人は味噌汁の鍋に視線を戻す。太智はしばらく黙って、それから小さく笑った。
「吉田さんさぁ」
「なんですか」
「それ、ずるいわ」
「何が」
「なんでもない」
そう言って、太智は卵焼きを一口食べる。
いつも通りの朝。
変わらない距離。
でも少しだけ、いつもよりあたたかい。
それが、ふたりのちょうどいい朝だった。
-———–
💙の吉田さん、じんちゃん、仁人って呼び名ころころ変わるの好きです。ちょっと距離があるような、でも1番近いような。
💛は別に外にアピールしないけど💙のこと1番知ってるのは俺でしょ、感がだいすき。
コメント
1件
読了しました〜!朝のキッチンの空気がほんとにそのまま見えてくるみたいでした。「太智がいなかったから」の淡々とした一言が刺さりましたね…。距離が近いのにベタベタしない、12年の関係性がちゃんと滲んでて。「朝くらいなら悪くないかもな」で太智くんが固まるシーン、こっちまで照れました。ラストの「いつもよりあたたかい」が沁みます。続きも楽しみにしてます🌷