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「……優しくない。あんたに売れてもらわないと、私のプライドが許さないだけ」
強がってみせるけれど、握ったタオルに込めた手が震えていた。
光が眠りにつくまで、私はその枕元を離れなかった。
夜が更けるにつれ、光は熱に浮かされたようにうなされ始めた。
「……栞……」
不意に、熱に溶けたような声で私の名前を呼ばれてドキッとした。
「……ごめん。……俺のせいで、あんたの仕事、めちゃくちゃに……」
光は夢の中でも、私のことを心配していた。
私は思わず、横たわる光の熱い手を、両手でぎゅっと握り締めた。
「……バカ。私のことなんていいのよ。あんたは、あんたの夢だけ見てればいいんだから」
光の手は、いつもの力強さが嘘のように頼りなかった。
ブランド品を纏っていた頃の私なら、こんなボロアパートの一室で、売れない芸人の手を握って泣くなんて、滑稽だと笑っていただろう。
でも今は、この温もりこそが、私の世界の全てだった。