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「ここ?」
10分ほど歩いて着いた場所は街のはずれの方にある廃ビルだった。人通りはほとんどなく、鳥の鳴き声すらしない。ビルは5階建てで意外と大きい。人の気配がするのは確認できる。
ニコア「ここみたいやで。オレも実際にこの場所来るのは初めてなんや。ほら、アキトが送ってくれた写真、多分これやろ。人の気配もぷんぷんするしな。」
そう言いながらニコアはスマホ画面を見せた。確かに、写真のものと全く同じ建物が目の前にあった。
ニコア「作戦会議とか、敵の情報とか整理する?」
僕は廃ビルを見つめながら言った。
「拉致されたウランの部下を救出して、あとは全員殺せばいいんでしょ?」
ニコアはうーんと唸ってから僕に言った。
ニコア「まあそうやな。」
「なら作戦会議なんて必要ないよ。」
僕はそう言って手袋をはめながら歩き出した。
ニコア「たしかに!ほな、頑張るかー。敵の方は任せたで。ピンチになったらいつでも言ってな!」
ニコアはニカニカと笑いながら僕の隣に来て、同じように手袋をはめた。
「逆にピンチになる方がおかしいでしょ笑」
ニコア「そやんな!」
ニコアが元気よく言った直後、2人は猛スピードで廃ビルへ走った。
ーバンッ!バンバンッ!ー
ビルに入った直後に僕たちの目的である敵が銃を撃ち始めてから約2分がたった。
いつまでも鳴り響くこの音は全てウランの銃から出ている音だった。
相手に銃を構え、撃つ暇さえ作らせない。
そんなウランはと言うと、
とってもニコニコ笑っていた。
「きゃはっ!」
ーバァァン!!ー
あー楽しい。ボスの命令通りに人を殺すよりか、下剋上を出してきた相手を殺す方がよっぽど楽しい、愉快だ。
次々と倒れていく名前も、顔すらもよく分からない人間。
ーカチッー
弾切れの音
「あれ、思った以上に使ってたんだ。」
僕があれれーと言いながら銃を観察している時、体をぶるぶる震わせている敵30人程度が一気に突撃してきた。
??「い、今だ…!」
「ちょっとちょっと、邪魔しないでよ。」
ーバコォォン!!!ー
僕は銃に目をやった状態で足を蹴り上げた。僕たちがいる3階から一気に下まで行ってしまったようだ。
「まぁいっか、不便だけどナイフあるし。」
僕はそう言って銃を目の前にいる残り25人程度いる中の1人の額に思いっきり投げた。
ーバタッー
静かに倒れたそいつを見て、逃げる者とこちらを強く見据える者と別れた。
1人が言った。
??「お、お前は何者だ…!」
僕はナイフを取り出してクルクル回しながら言った。
「赤いディナー、ボスの“ムスコ”。」
全「…!!!!」
まっすぐと敵を見据えているウランの目は、殺気と自身と期待に満ち溢れていた。
「ごめん、僕友達の様子見に行かなきゃだから、さっさと終わらせるね。」
ージャキッバキッグサッベチョッギズッバダッー
僕はそう言ってある者は心臓にナイフを差し、ある者は首を折り、ある者は床に叩きつけ、ある者は空へ吹っ飛び、ある者は窓から落ちた。
僕は血まみれのナイフを振り切り、「強い奴いないし、つまんねーのー」と言いながらニコアの元へ向かった。
「ニコアーどこー」
大声を上げながら歩くこと5分。どこの階にも誰もいなかった。外へ逃げたのだろうか、それとも捕まったのだろうか。いや、後者はありえない。
「…」
何か嫌な予感がした。人の気配が一気に消え失せたこの廃ビル。僕は後ろをゆっくりと振り向いた。
「!」
そこには、人がいた。刀を持った男。
どこかで、見たことがあるような気がした。
??「やぁ、ウランくん。僕のこと、覚えてくれているかな?」
にこやかに笑う爽やかな王子様のような男性は僕にそう言った。せっかくなので僕も笑って返した。
「ごめんなんだけど、名前が思い出せないんだ。どこかで会った記憶はあるんだけどね。」
その次にその人は衝撃な事実を明かした。
??「そうだろうね。改めて自己紹介をするよ。僕は君の兄、コハク。」
「…!!!!!!」
コハク…?本当に、兄さんなのか…?だって兄は僕が殺してしまったはずだ。
でもサンゴが言っていることが本当なのだとしたら、兄は生きているということになる。
コハク「あれ、まだしっかり思い出せてない感じかな。うーん、何かいい方法…あ、じっとしてて。」
僕は僕の兄さんと名乗るコハクさんに言われるようにじっとしていた。この人からは殺意も感じ取れないし、闘う気もないみたい。
ーこつんー
「…ッ!」
コハクさんは僕のおでこに自分のおでこをこつんと当てた。
ーガチャリー
輝の鎖が取れた音がした。そしてまた僕の髪色は真っ黒に戻った。
思い出した…
突然目が熱くなり、視界が歪んだ。あぁ、涙か。
コハク「思い出した?」
僕は声も出ないくらい涙を流していたらしく、小さく頷いた。
僕はたまにとても幼い頃の記憶が蘇ってくる時がある。今まで幼児期の出来事をほんの一部分だけはっきりと記憶が蘇ってきたことが何度かあった。今回もそれと同じようだった。
まだ本当に僕が小さい頃、目の前にいた兄は僕のおでこに自分のおでこをこつんとさせ、「だいすきだよ」と言っていた記憶。
それから10分すぎたくらいだろうか。僕は当のとっくに泣き止み平常心を取り戻し、ニコアの安否確認を忘れて兄と話していた。
「…兄さんは讃州の致にいるんだよね。」
兄さんは一度僕を見た後、遠くにある何かを見つめながら静かに言った。
「うん…そうだよ。まさか輝があの赤いディナーに、しかもボスの義理の息子だとは思ってなかったけどね。」
僕は兄さんを見て、同じように遠くを見つめた。
「兄さんは今、…何をしたくてここにいるの?」
「…」
しばらく2人の間に沈黙が流れた。鳥の鳴き声も葉と葉が擦れ合う音すら聞こえない。ただの無音を聞いていた。
しばらくして兄さんは苦笑いをしながら言った。
「何がしたいんだろうね…。“殺す”っていう生まれた頃の僕たちとは全く無縁だったその言葉に、興味を持ったのかもしれない。でも多分、輝を守りたいと思ってこの世界に入り込んでしまったんだと思う。きっと、輝の方が僕よりも強いけどね。」
「じゃあ…人を殺す理由は?」
僕はまっすぐ兄さんを見た。僕を守るために、なら人を殺すなんてことはしなくてもいいはずだ。兄さんも、僕を見た。
「兄ちゃん…壊れちゃったんだ。輝を守るために、強くなるためにここへ来たのに、いつの間にか人を殺すことに慣れて、楽しむようになってしまった。今の僕は“弱肉強食”と言う言葉に執着しすぎてる。僕でも今の状態がどれほど最悪か、危険かなんて分かってる。でも、止められないんだよ。…今は、」
兄さんは不気味に笑った。
「今は…輝が欲しくてたまらないんだ。」
「…ッ!」
鳥肌が立った。兄さんの笑っているけど笑っていない表情。敵だと分かった以上、いくら兄さんでも攻撃体制をと僕が身構えようとしたその時。
ニコア「ウランー?ここにおるんか?」
ードンドン!ー
僕たちのいた部屋のドアがノックされた。そういえば鍵を閉めてしまったんだっけ。
兄さんは舌打ちをした。
「チッ。時間切れみたいだね。じゃあまたね、輝とウラン。」
「…」
兄さんは僕に微笑んで、壊れた窓から飛び降りた。
ーガチャン!ー
ニコアの馬鹿力で扉が開いた時にはもう僕はウランに戻っていた。