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#公安
あーむ
185
バルカ共和国クーダン 首都の路地裏。
焼け付くような日差しを遮る薄暗いカフェの片隅で、黒須駿は手元のタブレットに視線を落としながら、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……遅い」
約束の時間はとっくに過ぎている。いくらカモフラージュのためとはいえ、丸菱商事の「しがない会社員」を演じるあの男は、時折こちらの神経を逆撫でするほどその役に没頭する。
「お待たせしました、黒須さん!」
バルカの民族衣装を着た男が、両手に地元の甘い菓子を抱えて小走りでやってきた。情けないほどにペコペコと頭を下げながら席につくその男――乃木憂助を見て、黒須は小さくため息をついた。
「乃木さん、遅れすぎです。公安の野崎の目が光ってるんですよ? あまり間抜けな真似をしてると、本当にただの商社マンだと思われて切り捨てられますよ」
「すみません、道中でどうしても気になる果物屋があって……。あ、これ、そこの名物なんです。食べます?」
差し出された緑色の怪しげな果物を、黒須は冷ややかな目で見つめる。だが、乃木がその果物をテーブルに置く瞬間、その指先がわずかに変則的なリズムで机を叩いた。
――『監視あり。10時方向、建物の2階』――
黒須の目が、一瞬で別班の「鋭い鷹」のそれに変わる。表情は退屈なビジネスパートナーのまま、画面のタブレットをスクロールさせた。
「……味の好みが合いませんね。それより乃木さん、例のエネルギー開発の件ですが」
「ええ、現地企業との交渉は順調です。ただ、少し『ノイズ』が多くて」
乃木は気弱そうな笑みを浮かべたまま、スプーンでチャイを混ぜる。その瞳の奥には、先ほどまでの気弱な商社マンの影は一切なかった。
「黒須さん、次のチェスの手、打てますか?」
「当たり前でしょう。俺を誰だと思ってるんですか」
黒須は不敵に笑うと、ジャケットの内側にそっと手を伸ばした。
バルカの熱い風が、二人の間を通り抜けていく。別班としての本当の任務が、今ここから始まる。
(終)
コメント
2件
やりますねぇ
読み終わりました…! 冒頭の「苦虫を噛み潰したような顔」からもう、空気感がすごく伝わってきました。 カフェでのんびりした会話をしつつ、指先の合図で裏のやり取りをする二人の緊張感がたまらないですね…。 黒須さんの「俺を誰だと思ってるんですか」の台詞、めちゃくちゃかっこよかったです🖤 VIVANTちゃんの世界観、しっかり生きてます…続きがすごく気になります🌙