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――接続は、誰の許可も取らない
それは、
正式な会議でも、
決裁文書でもなかった。
本部内の
共有フォルダに置かれた、
ただの作業メモ。
タイトルは無難だった。
> 「健全性指標再整理に向けた
用語棚卸し(途中)」
誰が書いたのかも、
いつからあるのかも、
曖昧なファイル。
その中に、
花子が“提出した言葉”があった。
彼女自身は、
もう使わないと決めた言葉。
使った瞬間から、
自分の手を離れると
わかっていた言葉。
引用符もなく、
発言者名も付かないまま、
箇条書きの一行として。
> ・「意味を与えないことが、
結果として人を安定させる場合がある」
それは、
花子が
“使う気のない言葉”として
差し出したものだった。
そのメモを読んでいたのは、
月影ではない。
佐伯でもない。
本部の、
分析担当でも、
運用責任者でもない。
中間の人間だった。
判断権も、
発言権も、
ただの業務として
文章を整理する役。
彼は、
別の資料を
同時に開いていた。
赤も黄もついていない、
例のログ群。
「特記事項なし」が
並ぶ行。
彼は、
二つを
並べてしまった。
ただそれだけだった。
> 「意味を与えないことが、
結果として人を安定させる場合がある」
> 「評価入力:未記入
満足度:測定不能
行動変動:なし」
彼は、
違和感を
覚えなかった。
むしろ、
上野文
6,372
145
臣桜
263
臣桜
47,938
説明が付いた気がした。
(ああ、
これか)
(“意味を与えない”
状態)
(だから、
評価が生まれない)
その瞬間、
花子の言葉は
仮説になった。
本人の意図とは
まったく別の場所で。
さらに悪いことに、
その仮説は
攻撃的ではなかった。
排除のための
言葉でもなかった。
理解のための言葉
として使えそうだった。
だが、
本部は知っている。
理解できるものは、
必ず
管理対象になる。
メモの末尾に、
誰かが
そっと追記する。
> 「※意味付与を回避した状態が
一時的に安定を生む可能性あり
→持続性は未検証」
「未検証」
それは、
危険指定の
一歩手前の言葉。
同じ時間、
別の階層で。
月影は、
例のログを
再び開いていた。
彼は、
まだ知らない。
花子の言葉が、
このログの
“説明候補”として
置かれ始めていることを。
ただ、
画面の隅に
小さな変化があった。
「特記事項なし」の下に、
薄く、
自動生成の注釈。
> 「安定要因:
外部意味付与の欠如(仮)」
月影は、
その行を見て、
初めて
はっきりと息を止めた。
(……誰の言葉だ)
(これは、
誰が置いた)
その夜、
花子は
自分の提出した文書を
読み返していない。
もう、
使わないと
決めているから。
だが、
言葉は
待ってはくれない。
花子の言葉は、
まだ
何も壊していない。
けれど、
壊す理由を探す側に
ヒントを与え始めている。
それが、
最初の兆しだった。