テラーノベル
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大大大遅刻ですがメリークリスマスです!🌲
白くて輝いた綺麗な雪がロスサントス全体を覆う頃、この街は冬のイベントで大いに盛り上がっていた。
ツリーを眺めて楽しむ救急隊、プレゼント交換ではしゃぐ市民市民。今日という特別な雰囲気を味うため街を巡回する警察官に、豪華なご馳走を食べて祝うギャング。
そんな中、ピンクのパーカーを着た彼らも例外ではなく、アジトで盛大なパーティーを開催していた。
「おいそれ俺のチキンやぞ牢王蓮!!!」
「いやいや…俺がマークしてたチキンだが??」
「んだとォ?!やんのかお前〜!!」
「やれるもんならやってみろ???!!」
大きなチキンをメインディッシュに、ローストビーフやピザ、ビーフシチューなど、豪華な食べ物がずらりと並んでいる。その机を囲む彼らの間では小さな戦争が勃発しているが、そんな騒ぎを気にも留めずに1人黙々と食べ進めているのが空架ぐち逸であった。親睦を深めるのに良いだろうと、レダーが呼んだのだ。
忙しなく食べ続けるぐち逸に気付き、レダーは盛り上がり続けるメンバーの輪を抜け、飲みかけのビールを片手に彼の隣へと腰をおろした。
「よく食べるねぇぐち逸」
「レダーさん。まぁ…最近はまともな食事がとれていなかったので」
「またそれ〜?俺のホットドッグ食べに来れば良いのに。サービスするよ?」
「いえ、貴方だとなにかとケチをつけられるので」
「ンだと〜〜〜?????」
話しかけている間も食べる手は止まらない。ヒョイ、パク。ヒョイ、パクと次々に食べ物を口に運んでいく様子を見るに、相当腹を空かせていたのだろう。
じぃっとその姿を観察していると、小さな口でモグモグと食べ続ける様子がなんだかハムスターのように見えてきて、知らず知らずのうちに口角が緩んだ。それに気づいたのか、レダーと視線が合った瞬間さっきまで食事に夢中だった瞳がじとりと影を落としす。
「……なにかおかしいことでも」
「うは、いやぁ、お前がこんなに食ってんの初めて見たかもって」
「はぁ…そうですか」
「うん。もっと食べて良いよ」
「それはどうも」
食べている速さは人一倍早いはずなのに、一口が小さいせいかそこまでの量を食べているようには見えない。それでも三大欲求のサの字もなさそうなあの空架ぐち逸が、ここまで料理を美味しそうに頬張っている光景はなかなかに面白いものだった。新種の生き物を発見したかのように、レダーはすっかりぐち逸に釘付けになる。
「ん゛くっ、けほっ、けほっ」
「あっ、詰まっちゃった?そんなに急いで食べるからだよ。」
食べたチキンがパサついた部位だったのか、ガチンっと一瞬固まったかと思えば、激しくむせて胸を叩き始める。その仕草さえ妙に面白い。こいつはなんでこんなに面白いんだ?
「はい、飲み物」
「どうもっ、けほけほっ」
一緒に持ってきていた飲みかけのビールを差し出すと、ぐいっと一気に飲み干した。と思ったその瞬間、ギュルンっと音が鳴りそうな勢いで、こちらに顔を向けた。
「ワオ、豪快。ぐち逸酒強いの?」
「ちょっこれっ、び、びっ?」
「ン?ビールだけど。いけなかった?」
俺はあまり酔わないから、いつも度数がちょっと高いやつを飲んでいる。コレを渡すのはちょっとまずかったかもしれないと一瞬思ったが、まぁいいか、今のぐち逸面白いし。ですぐに完結した。
有無を言わせないつもりで投げた問いの答えをウキウキ待っていると、なんだか様子がおかしいことに気づく。
「…ぐち逸?」
トントン、と軽く肩を叩いたその瞬間。
床にぺたりと座っていたぐち逸が、そのまま後ろにばたりと倒れた。座った状態とは言え、人が倒れる音はそれなりに大きい。さっきまで賑やかだった場はしんと静まり返り、嫌な視線がコチラへ集まる。
え?死んだ?これだけで?俺は遂に力の加減もできなくなくなったのか?
「………え?え?えっ?先生?」
「ぐっさァーーん!??!?!!」
「レダーさん?!何したんですか!!!」
硬直して内心めちゃくちゃテンパっている俺をよそに、一部始終を見ていたトピオ、音鳴、ジョシュアが一斉に大声を上げる。
「いやっ、いや!やってないやってない!俺肩叩いただけだって!!」
「その肩叩きどんだけ強いねん!ぐっさん!!!まだコイツに殺されたらアカンで!!!」
凄い勢いで駆け寄ってきた音鳴が倒れているぐち逸を無理やり抱き起こし、肩を激しく揺さぶる。ぐち逸よりもコイツの方が大丈夫なのか?とは思ったが、彼も彼でだいぶ泥酔しているし、なにより素面の状態でもここで口を挟むと面倒臭い。結局、音鳴の一歩後ろで見守ることにした。
「ぐっさん!ぐっさァーん!!!」
まるで生涯のほとんどを共にしてきた親友を目の前で殺されたかのようなリアクションだ。本来だったら感動するシーンのはずなのに、今はなぜだか頭痛で涙が出てきそうだ。
顔を顰めながら2人を見守っていると、ワンワン泣き喚く音鳴に抱えられたぐち逸が「ふ」と小さな声にもならない吐息を漏らした。
それに気づいた音鳴が動きをピタリと止める。周囲で見ていたメンバーたちも静まり返った。その沈黙の中、耐えかねたかのように彼の体がきゅっと縮まる。
「ふっ……………ははは!!!あははははっ!!!!」
「………えっ?」
「あははっ!!けほけほっ、んふ、ふふふっ!」
ぐち逸が笑った。驚いた。ビクってなった。
さっきまでギャーギャーと騒いでいた音鳴も、大声で笑うぐち逸を目の前にキョトンと硬直している。俺を含めた他のメンバーも皆同じ反応だった。誰一人として状況を理解できておらず、ただ呆然と、その場で見守るしかなかった。
「んふふっ、なんでそんな…くくっ、っあはは!!マヌケ顔!!!」
「ぐち逸、お前もしかして…」
笑い上戸!!!!
ここにきてやっとわかってきた。彼とは酒を口にして話したことがなかったから知らなかった。ぐち逸は酒にめっぽう弱くて、笑い上戸。本当に面白い奴だな、なんだコイツ。
まだ頭上にハテナマークを浮かべている音鳴を軽く退かし、ぐち逸の頬をペチペチ叩く。するとまたきゃふきゃふと幸せそうに笑いながら俺の頬を叩き返してきた。ここまでくると俺の好奇心は抑えられない。意外と柔らかい頬をびよーんと伸ばしたり挟んでしわくちゃにしたりして遊ぶ。
「んははっ!ふふ、レダーさん?ふふふっ、ひひ、やめ、あははっ!!」
「んはは、面白い?っふふ笑、可愛いやつだな」
ぐち逸がこんなに笑ってるのマジで新鮮だな、もっと普段から笑えば良いのに。
酒の力を借りて好き放題いじっていると、その様子をまじまじと眺めていたメンバーたちが目を輝かせて飛びついてきた。特にトピオが。
「先生ぇっ!!俺もっ!俺もやりたいです!」
「アカン、俺もやる!面白すぎるぐっさん!」
「皆んなで変顔したらどうなるんですかねこれ」
わらわらと集まってきたギャング一同を前にしても、ぐち逸は全く怯えることなく楽しそうに笑い続けている。そんな彼がどこか幼く見えて、小さい頃はこんな感じだったのかな、という想像がふと頭をよぎった。
変顔で笑わせたり、頬をつねったり、どうでもいいトークで盛り上げたり。それぞれが好きなやり方でぐち逸を笑顔にさせる。そのうち彼の笑顔が徐々に他のメンバーに伝染していったのか、より一層パーティーが盛り上がり始めた。そしてかれこれ一時間程経った頃。遂に力尽きたのか、ぐち逸はそのままぐっすりと眠ってしまった
「赤ちゃん……」
「エケチェンだ」
「エケチェン。」
誰かがそう呟くたびに、くすくすと笑いが漏れる。輪の中心で小さく丸まって眠るぐち逸は、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かだった。呼吸は穏やかで、胸がゆっくり上下している。
見ているだけで、自然と口元が緩む。さっきまであれだけ笑ってあれだけ騒いでいたのに、電池が切れたみたいに眠りに落ちるのが早すぎる。
「……マジで赤ちゃんじゃん」
「保護対象ですね」
「起こしたら怒られそう」
「『なんですか?』って不機嫌そ〜な声でね」
小声でそんなことを言い合うメンバーを横目に、俺はぐち逸の前にしゃがみ込んだ。
近くで見るとまつ毛がやけに長い。酔いのせいなのか、普段は真っ白な頬もほんのり赤くて綺麗だった。こうみると彼もかなり童顔で、29歳にしては若々しい顔立ちをしている。
「ぐち逸〜」
呼びかけても反応はない。はふ、と小さく口を動かしただけで、また眠りの底に沈んでいく。
「俺ぐち逸寝かせてくるわ」
そう言って腕を差し入れると、意外なほど素直に体を預けてきた。
軽い。そして、あったかい。
「布団いりますか?」
「写真撮っといて〜」
「圧で起こすなよ」
好き勝手言う声を背に、ぐち逸を抱えたままその場を離れる。廊下に出るとさっきまでの喧騒が遠くなり、静けさが戻ってきた。腕の中でぐち逸が小さく身じろぎする。
「……レダーさん……」
寝言なのか、無意識なのか。
その一言に、胸の奥がきゅっと縮んだ。
「はいはい、ここにいるよ」
小さくそう返して、歩調を落とす。起こさないように、揺らさないように。慎重にベッドに寝かせて毛布をかけてやると、ぐち逸は安心したみたいに寝息を立てた。その顔をしばらく眺めてから、目にかかった髪の毛をすくって耳にかけ直す。
「…ほんと可愛いやつ」
独り言のように呟いて、電気を消してから静かにドアを閉める。笑顔という最高のクリスマスプレゼントを貰えた気がした。
コメント
1件
めちゃめちゃ可愛いお話ですね🥰 読んでいてほっこりしました、! お酒を飲むと笑い上戸の設定最高です!!😭✨