最近、若井の様子がおかしい。
夜中にふらふら出掛けることが増えたし、妙に甘い香水の香りがするようにもなった。行先を聞いても「俺の自由でしょ」と突っぱねられてしまう。
元々僕は相手を信頼してるから、束縛とか浮気疑うとかしないタイプだと思ってたんだけど、流石にここまでバレバレだと浮気だと思わざるを得ないよね?
そう思って僕は一回カマをかけてみることに。
「…ねぇ、若井。なんか僕に隠してることとかない?」
レコーディングの休憩時間にこっそりそう聞いてみた。
「…!、何もない何もない!」
普段通りのガミースマイルで可愛らしく否定してたけど、僕は若井の表情が固まって視線が泳いだ瞬間を見逃さなかった。
「ふーん。なら良いけどね、」
その後のレコーディングは若井のことばかり考えてしまって中々集中できなかった。
帰り道、僕は若井の後をつけることにした。多分本人に聞いても教えてくれないだろうし。
「あ!ひろとこっちだよ〜♡」
「おー、遅い時間にごめんね?」
「ぜんぜん!早くホテル行こーよ!」
「んー、その前に一個連絡させて。」
「はいはーい、ほらほらいこいこ!」
「おっけー。」
若井がスマホをポッケにしまった瞬間、僕のスマホに通知が来た。
『ごめん元貴、今日帰り遅くなる』
若井からだった。
『了解ー、待ってるね』
そう返信すると、僕は家に戻った。
「ただいまー、元貴おきてるー?」
お酒の匂いと香水の匂いがぷんぷんする。あの女とヤったのかな。
「ん、おかえり若井。」
靴を脱がせてあげてソファに座らせると、僕も隣に腰掛けて若井を見つめる。
「ねぇ若井。浮気した?」
「…してない」
一言聞いただけでさっきまで真っ赤だった顔から血の気が引いていく。ほんと、顔に出やすくて可愛いな。
「…本当に?」
「…、」
詰めると若井が僕から距離を取ろうとソファの端へ逃げる。そんな姿を見て僕は思わず若井を押さえつけて押し倒した。
「…ね、言ってよ。」
「っ…」
「言えよ!」
次の瞬間、ぱちんという乾いた音が部屋中に響いた。
僕が若井の頬を叩いた音。
「え…、」
僕にこんなことされるなんて微塵も思ってなかったのか、混乱した様子で頬を抑えてる若井。それでも頑なに口を割らないから僕だってそろそろ堪忍袋の尾が切れそうだ。
「言えって!!」
今度は若井の胸ぐらを掴んでほぼゼロ距離まで顔を近づけた。
「ごめん…、元貴。」
僕を怖がってるのか、はたまた罪悪感からか若井は洗いざらい僕に話した。
最近運動仕事が忙しくて溜まってたから、1人でどうにかしてきたけど限界が来た。だから何人かの女の人とワンナイトしてたこと。
「あっそ。付き合った時は俺元貴しか見てないから、なんて言ってたのに。嘘だったんだ。」
「ちが…っ、」
「違くないだろ。」
反論しようとする若井の頬をもう1発殴って黙らせる。…なんか若井が下で泣いてるけどしょうがないよね。だって悪いの若井だし。
「…あーあ、残念。若井ってそんな軽い男だったんだね。もういいよ、別れよっか。」
若井の上からどいて、ソファから立ち上がる。水でも飲もうと思いキッチンへ向かおう、という時にくいっと服が掴まれる感覚がして後ろを振り向いた。
「別れんのは…やだ、ごめん、ごめん…俺が悪かったからぁ…、別れたくない…っ、」
僕の服の裾を掴んで泣きじゃくりながら必死に懇願する若井が居た。
「俺、許して貰えるならなんでもするから…、振らないで…。」
…元々別れる気なんてさらさらなかったし、もしここで別れるなんて言われてたから本当に若井にひどい事してた気がするけど…正直こんなに僕を必要としてくれる若井が愛おしくて堪らない。
「へぇ…じゃあ、何されても僕のこと好きで居てくれる?」
「…うん、元貴になら。」
「そっか。可愛いね。」
可愛い、って言われて照れていたのもつかの間、若井の表情は苦痛の色へと変わった。
なんでかって?僕が若井の手を思いっきり引き剥がして、床に突き飛ばしたからだよ。
「…、っ…」
歯を食いしばって痛みに耐えてる姿がクセになる。ライブとかメディアの前では結構クールぶってるけど、裏ではこんなに泣き虫で僕に依存してるなんてだーれも知らないんだろうな。
「…若井、ごめんね。痛かったよね。」
すぐ若井に駆け寄ってぶつけた箇所をさする。
「でもさ…、浮気された僕の方が何倍も心が痛いの、分かってくれるよね?」
「…これはさ、若井がもう二度とこういうことしないように、若井のためにしてる事なんだよ。ちょっと辛いかもしれないけど、お互い楽しく過ごすためには必要なことなんだ。」
「…うん、しょうがないよね…、俺、もうしないよ。こんなこと、」
「ほんと…!?やっぱ若井は聞き分けがいいね。ありがと!」
頭を優しくクシャクシャ撫でてやった後、
「次こんなことしたら…ホントに覚悟して?」
耳元でそう呟くと若井の体がピクリと震えた気がした。
「愛してるよ。」
「ぁ…、」
「返事は?」
「ぉ、俺も愛してる…、」
「うん、ありがと。」
優しく口付けを交わすと2人でベッドへと寝転がる。すぐ寝息を立て始めた若井の寝顔を眺めながら頭の中で考え事をする。
今日のところはちゃんと躾できたかな。…これから若井に変な虫がつかないように僕がきっちり見張っとかないとな。GPSは必須だし、スケジュールも共有しないと。連絡先もできるだけ消して貰わなきゃ。
もっと若井を僕に依存させるにはどうしたら良いんだろ?今からほんとに楽しみになってきた。
僕の可愛い可愛い若井。
さっきつけた頬の傷跡がほんのり赤くなっている。僕はそこを優しく撫でながら眠りについた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!