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夕陽が射し込む喫茶桜のリビング。
西陽を受けて金に染まるカーテンの隙間から
時也の護符がまだ一枚
ふわりと床に落ちた。
「仕方ないでしょ!?
時也さんは〝異世界〟から来たのよ!?
しかも、機械文明どころか──
〝き〟の字すら無い時代の!」
レイチェルが机を叩きながら叫んだ。
その声には呆れと弁護とが混ざっていた。
「ねぇ、知ってる?
車の代わりに〝牛〟が引くのよ!?
荷車!マジでモーモー鳴くやつ!
あれが〝最新式〟の時代なんだから!」
一瞬の静寂のあと。
「⋯⋯レイチェル?
キミが時也に精神的トドメを刺したねぇ?」
アラインがコーヒーカップを置きながら
しれっと言い放つ。
口元は笑っていたが
視線はどこか真顔だった。
「異世界の文明は知らんが
この世界で例えたら
どの時代から来たんだよ⋯⋯
マジで原始人じゃんか」
ソーレンが肩をすくめると
まるで遠い祖先を哀れむように呟いた。
「とりあえず、いじめない!
時也さんは機械文明を
たった数年で学んだんだから
それだけでも凄いのよ!?
レジとタブレットがまだ無理なのは
仕方ないけど!」
「⋯⋯もういいです⋯⋯
早く、アリアさんを探しに
行かせてください。
僕⋯⋯もう、気が狂いそうです⋯⋯」
ソファの隅で、護符を手に座っていた時也が
低く静かにそう訴えた。
その声音はあまりにも切実で
場の空気を凍らせるほどだった。
その様子に慌ててレイチェルが言葉を繋ぐ。
「わ、わ!
ねえ!桜の花びらになって空間移動する術
あるじゃない!?
あれって、今使えないの!?」
「あれは⋯⋯アリアさんご自身が
〝危険だ〟と感じた時にのみ
自動で発動する術式でして⋯⋯」
「アイツの危険認識
だいぶバグってんだよな⋯⋯」
ソーレンがぼやき
アラインもそれに頷いたその瞬間だった。
「⋯⋯いや──」
不意に、時也が顔を上げた。
その鳶色の瞳に閃光が宿る。
「⋯⋯今しがた
青龍がアリアさんを視認したようです!
結節点さえあれば──
お迎えに行けます!」
その瞬間
彼の身体が桜の花弁と共に
ふわりと崩れはじめる。
一片一片が光を纏いながら
開け放たれた窓から飛び出していく。
夕陽の中へ、風に舞うように──
「⋯⋯あいつ、マジで文明スルーして
アリアんとこ行きやがったな⋯⋯」
ソーレンがぽつりと呟いた。
顔をやや上げ、窓の外に目を向けている。
「国境とか超えてるだろ?
俺が重力操作で連れてこうと
待ってた意味、 完全にねぇわ⋯⋯」
「文明より〝神速〟ってやつだねぇ?」
アラインが肩を竦めながら
くすくすと笑う。
「でもね!
青龍にGPSで居場所を教えたの
私だからね!?
あれがなきゃ無理だったんだから!」
レイチェルが胸を張ると
ソーレンが苦笑いしながら言葉を継いだ。
「⋯⋯つまり、現代技術と陰陽術
組み合わせたら⋯⋯マジでやべぇんだな」
「そう。
〝人知〟と〝術〟が交わったら
どんな化学反応が起きるか⋯⋯
科学者が聞いたら、卒倒するレベルだよ」
アラインが意味ありげに目を細め
深く頷く。
「だからこそ⋯⋯
時也には一生
機械音痴でいてもらわないとね?
世界の安寧ためにも」
その皮肉にレイチェルが
無言でクッションを投げつけ
アラインは綺麗な回避姿勢で
それをひらりと避けた。
「おっとっと。
現代機器より
こういう〝物理〟の方が怖いねぇ⋯⋯」