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「あれ?仕事には影響出ないんじゃなかったっけ?」
透子にはそんな風に言ってたのは、本当はただの強がりで。
いつでもかっこいい男でいたかっただけ。
余裕あると見せかけて透子の気を引きたかっただけ。
ずっと片想いしていた憧れの人の前で本当は余裕なんて一ミリもない。
ただあなたに釣り合うように頑張ってただけ。
なのに面白がってオレの顔を覗き込んでくる透子。
オレがこんなに今不安で心配なのに、当の透子はなんか余裕なのがちょっと悔しくて。
勢いよく透子の手を引っ張って自分の身体の中へと抱き寄せる。
「もう透子とすれ違うのホントにこれ以上嫌だし、透子にもこれ以上悲しい想いしてほしくない」
だけど、それ以上にこれ以上透子を傷つけたくない大事にしたいというオレの想い。
「オレ、ホントは透子の前では全然余裕なんてないから」
今までは強がってカッコつけて認めたくなかった言葉を初めて口にする。
「そんな心配しなくて大丈夫。悲しい想いなんてしてないから」
だけど透子はそう言ってオレの両腕をギュッと掴んで笑って安心させてくれる。
「栞さんからは樹が真剣に私のこと想ってくれてたって教えてもらっただけ」
「ホントに?」
「ホントに。逆に私は栞さんからそれ聞いて嬉しかったよ?」
そっか・・・。
よかった・・・。
透子が不安になってなくて。
「どしたの?急に。そんな弱気な姿、樹らしくないね」
いつでも強気だったのはただ透子の気を引きたかったから。
透子の中でどんなカタチでもオレという存在を刻み付けたかったから。
年下だから頼りないだとか、相手として考えられないとか、そんな理由で片付けられたくなかったから。
どうしても透子に一人の男として意識してほしかった。
「透子に気持ち伝えるまではね。そりゃ振り向いてほしくて必死だったから」
透子の前で見せてたオレはすべて振り向かせたくて必死だった姿。
「でも今は違うの?」
「今は・・透子失いたくないだけ。今は透子の気持ち繋ぎ止めるのに必死・・・」
だけど、今はそんなのどうでもいい。
透子の前でカッコつけたいだとか、頼られたいだとか、大人に見られたいとか、そんなのもう全部意味なくて。
透子を繋ぎ止める為なら、カッコよくなくたって、頼りなくったって、子供だっていい。
ホントのオレはただ透子を好きなカッコよくもない余裕もない、ただのたいしたことない男。
「もう可愛いな~! 樹のこと好きな気持ち大きくなるだけだから安心しなさい!」
だけど、透子は明るくそう言いながらオレの首に腕を回してしがみついてくる。
「ホントに?」
だけどすっかり自信が無くなってしまったオレはそれでも安心したくて確認してしまう。
こんな時に年下で子供すぎるオレを痛感する。
だからもっと確かめさせて。
透子の気持ち。
透子がオレを好きだともっと実感させて。
そしてオレは抱き付いてきた透子の腰をグッと引き寄せ、もっと透子の顔も身体も近づけて目の前まで抱き寄せる。
「オレのこと好き?」
そして目の前に近づいた透子の目をじっと見つめ、静かに囁く。
もう逃がさない。
ちゃんと聞かせて。
透子の口から、ちゃんとその言葉を。
「あぁ・・うん・・・」
だけど透子はまたつれない反応。
「ちゃんとオレの目見て、好きって言って」
何度でも欲しい。
その言葉を。
ちゃんとオレを見つめて、その言葉を言って。
「は? なんで・・」
恥ずかしがっても今はダメだから。
言葉にしてくれないとわからない。
透子がホントにオレが好きなのか。
どれほどオレが好きなのか。
「じゃないと放さないよ。ずっとこのままで仕事に戻れないけどいい?」
ちゃんと言ってくれたら放してあげる。
オレが安心出来たらちゃんと解放してあげるから。
「はっ? それは困る!」
「オレはずっとこのままでも全然問題ないんだけど」
許されるなら、オレはずっとこうしてたい。
ずっとこの腕に透子を感じて、目の前で透子を見つめて、ずっと愛を確かめ合いたい。
「いや!こっちは問題あるから!」
だけど当然透子はまたいつもの反応。
「じゃあ、ちゃんと言って」
透子への愛をちゃんと感じられたら安心出来るから。
お願い。
透子の言葉を、透子の愛を、オレにちょうだい。
「・・・好き」
そして静かに恥ずかしそうに、ようやくそう呟いてくれたと喜んだら・・・。
その言葉と同時にチュッと軽く透子から重ねてきた唇。
へっ!?
ちょっと待って。
今何が起きた!?
透子からキス・・してきた?
オレは思ってもいなかった透子の行動に驚いて動揺して、思わず抱き締めていた腕を緩める。
すると、すかさずオレから離れる透子。
いや・・マジこれはヤバい・・・。
「ちょっと透子・・・。それ反則」
あまりの出来事にオレは恥ずかしさも驚きも愛しさも嬉しさも、いろんな気持ちがまとめて押し寄せて来て、うまく対処出来ない。
「どうだ。年上なめんなよ」
すると、またまさかの透子からの言葉。
「やば。透子。最高」
なんだよ、その可愛さ全開の攻撃。
やばい。どこまで可愛いのこの人。
ホント好きすぎる。愛しすぎる。
その透子の可愛さと幸せで、オレのちっぽけすぎる不安が一気に吹き飛んで、思わず可笑しくて笑ってしまう。
「私が恋しくなったらまたうちの部屋に来たまえ。ご馳走してあげよう」
「ふっ。喜んで」
頼もしい年上の彼女。
愛しすぎる大人な彼女。
どうやったってオレはあなたにこんなにメロメロなんだ。
「じゃあ。今日の夜行っていい?」
オレはずっと透子が恋しい。
昨日も、今日も、明日も、オレはずっと透子といたい。
「すぐだね(笑)いいよ。ご飯なんでもいい?」
「もちろん」
当たり前でしょ。
透子に会えるなら、透子のご飯食べられるなら、どんなに忙しくてもその為の時間を作る。
一秒でも多く透子と一緒にいたい。
「なら用意して待ってる」
「よろしく」
「じゃあね」
透子は大人な余裕を見せて、そう返事をして仕事に戻って行った。
オレを待ってくれる幸せ。
オレの為にご飯を作ってくれる幸せ。
また一緒にいられる幸せ。
これからまた手に出来る幸せをオレはまた静かに噛みしめた。