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もうすぐクリスマスだ。
街には色とりどりのイルミネーションが灯り、吐く息は白く染まる。冷たい空気が肌を刺し、冬の訪れを実感させる。
俺は本のページを指でなぞったあと、ふと手を止めて窓の外を眺めた。
そして、今日は帆乃さんの幼馴染に会う日。
「はぁぁ……」
俺は、肺の奥から絞り出すように長く息を吐いた。少しでも心を落ち着けようとしたが、胸のざわめきは消えないままだった。
緊張しているのか、指先をこすり合わせたり、足先を揺らしたりと落ち着かない。
なんせ、帆乃さん以外の同級生とはまともに話したことがない。
時計を見ると、針は約束の時間に近づいている。
すると、インターホンが鳴った。
ピーンポーン♪
……来た。
心臓が一瞬止まりそうになる。
俺は意を決して、玄関の扉を開けた。
「は、はーい」
すると、そこには背が俺と同じくらいの男子と高身長の女子のが──
それに、2人とも目を引くほど整った顔立ちをしている。男子は涼しげな切れ長の目に通った鼻筋、女子はモデルのように長い脚と艶のある黒髪が印象的だった。
俺が言葉に詰まっていると、帆乃さんが不思議そうに見つめていた。
「如月くん?」
「あ、えっと…どうぞ…」
俺は咄嗟にそう言ったが、声が少し裏返った気がする。
「紅茶淹れてくるから、ちょっと待ってて…」
ぎこちない動きでリビングへ案内し、慌ててキッチンに向かう。手元が震えないように気をつけながら、湯を沸かした。
ふと気配を感じて振り返ると、すぐ横に帆乃さんが立っていた。
「如月くん、緊張してるよね…?なんかごめんね…」
彼女は申し訳なさそうに小さく肩をすくめ、視線を落とした。
そんな彼女がなぜか子犬のように見え、俺は思わず微笑んだ。こわばっていた頬の力がふっと抜け、少しだけ緊張が和らいだ。
「大丈夫。緊張はしてるけど、人が増えて賑やかになるのは俺も嬉しいから」
そう言うと、彼女は顔を上げ、ぱぁっと表情を輝かせた。
「本当に!?良かった〜」
……!!
無邪気な笑顔が、眩しすぎる。
俺は思わず、手を口元に当てた。
お湯が沸騰する音がキッチンに響く。
リビングに目を向けると、3人で楽しそうに談笑していた。
俺は急須にお湯を注ぎ、慎重に茶葉を蒸らす。深呼吸して気持ちを落ち着かせると、お盆にコップを並べてリビングに戻り帆乃さんの隣に座った。
「じゃあ、2人のこと紹介するね!」
俺は帆乃さんが連れてきてくれた幼馴染を交互に見た。
それにしても、2人とも大人びているな…
「女の子の方が東雲蓮花で、男の子の方が篠宮凪ね」
蓮花さんは上品に微笑み、凪くんは控えめに頷いた。
「よろしくね」
「よろしく」
思ったより、優しそうな人達でよかった。蓮花さんは柔らかく微笑みながら紅茶を口に運び、凪くんは落ち着いた口調で穏やかに話している。その様子に、少しだけ肩の力が抜けた。
「よ、よろしく……」
俺は視線を彷徨わせながら、なんとか言葉を絞り出した。
「もう、そんなに緊張しなくていいわよ」
蓮花さんが軽く笑った。
「蓮花たちの雰囲気に圧倒されたんだよー」
帆乃さんが冗談っぽく言うと、2人は呆れて苦笑した。
「そんなことないだろ」
「そうよー」
そんな3人のやり取りを見ていると自然と頬が緩む。
「3人とも本当に仲が良いんだね」
「まあ、小さい頃からの仲だからな。昔はよく3人で秘密基地を作ったり、無駄に鬼ごっこをして走り回ったりしてたな」
「懐かしいわね。帆乃は昔から泣き虫だったから、よく男の子たちにからかわれて泣いてたわよね」
蓮花さんが口元に手を添えながら、くすっと笑う。
「ちょっと!それ言わなくていいじゃん!」
帆乃さんは顔を赤くしながら抗議するが、その仕草がどこか微笑ましい。
「でも、その度に俺がフォローしてたよな」
凪くんが淡々とした口調で言うと、帆乃さんはぷくっと頬を膨らませてむくれた。
そんな3人の楽しげなやり取りを見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなった。
だけど、その反面自分にはない長い年月を重ねた関係性。それが羨ましくて、少しだけ寂しい。
ふと視線を落とした瞬間、帆乃さんがこちらを見てニコッと笑う。
「これから4人でたくさん遊ぼ!」
驚いた。まるで俺の心を見透かしているかのようなタイミングだ。
「そうだね。たくさん遊ぼう」
思わず口元が緩み、俺も静かに微笑む。