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『遅くなって済まなかったバストロ、ジグエラ、これこの通りじゃ』
竜種を除く地上の最大種、地の王とも言われるボアが、屈託の欠片(かけら)も見せずに頭を下げた。
歳を経て、元々の濃灰(のうかい)の毛皮を薄灰に変じさせたヴノは真っ白なタテガミを見せて言葉を続ける。
総白、全てが美しく白んだタテガミは、長寿、齢(よわい)、なんと数百年を経て生き続けている証であり、同時にあらゆるシーンを生き抜けたと言う知性の証明でも有るのだ。
ましてや、魔術師とトリオ、スリーマンセルを組んでいる魔獣ともなれば、彼らが持つ純白のタテガミはその意味を大きく変容させる事となるのだ。
脆弱(ぜいじゃく)なヒトである魔術師と、時に、いいや割といつも傲岸(ごうがん)な竜種、そう言った愚物の浅慮(せんりょ)に付き合い続け白髪と化すまで耐え忍んだ魔獣種は、同系の魔獣達にとっては賢者、いいや神の如く扱われる事が普通であった。
だと言うのに、自分の十分の一も生きてはいないバストロや百分の一以下のレイブに頭(こうべ)を垂れるヴノは甚(はなは)だ特殊な存在、魔獣サイドから言えば神々しい存在だったと言えよう。
神々しく大変珍しい珍獣みたいなヴノは続けて言う。
『今日はのぉ、大変珍しいお客さんをお連れしたんじゃぞぉ? ほれほれ、恥ずかしがらずに出ておいでぇ、いと珍しき毛皮を持ったお嬢さん! ここにいる者は、見た目は兎も角、皆、気の良いヤツラじゃぞい、恐がる事は無いのじゃぁ! さあさあ出ておいで!』
誰に言っているのか? そんな風にヴノの周囲に視線を送ったバストロはキョトンとした顔で答える。
「おいおい、大丈夫かよヴノぉ…… 誰もいないじゃないか! ま、まさか、ボケたのか…… お前?」
横でバストロ以上に忙しなく視線をキョロキョロしていたレイブが大声で言う。
「あっ! おじさん、師匠っ! ヴノ爺さんのタテガミの中から毛玉が出てきたよっ! ほらほら、あそこっ! 毛玉だよ毛玉ぁ、真っ黒いヤツぅ!」
なるほど、語彙(ごい)は甚(はなは)だ残念で表現力に欠ける物の、言った通り、純白のタテガミの中からもぞもぞ動いて姿を現した存在は毛玉っぽい漆黒の毛むくじゃらである。
巨大なボアであるヴノとの対比のせいか、異様に小さい生き物に見える。
『ほれ』
降り易い様にとの気遣いだろう、ヴノが鼻先を地面に寄せて少し急ではあるがスロープ状にしながら言った。
二度程スロープを見下ろして、躊躇(ためら)ったような素振りを見せていた黒い毛玉であったが、やがて覚悟を決めたらしく勢い良くヴノの顔を滑り降りて来たのである。
シュパッ! ドン、ゴロゴロゴロ
勢いを付け過ぎたのか、鼻先で止まれず空中に放り出された後、落下した場所から転がって停止したのはバストロとレイブの目の前であった。