テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
教室に入るとひんやりとした空気が廊下に溢れ出た。昨日熱中症で倒れた人がいたそうで、確か、特急に修理したそうだ。
💡〈おっはよ~、お二人さん〉
ひらひらと手を振る俺と同じ軽音部のライがいた。今日は珍しく短い髪を必死にまとめて、一つ結びになっている。だか纏まり切らず、ぴょこぴょことはねている髪がなんと可愛らしいことか。
「おはようございます」
「…お、はよ」
💡〈あれ?マナ顔赤くない?〉
マジか、赤くなってた?。全く気付かんかった。鞄から手鏡を取り出して見てみると、確かにいつもより頬がピンクがかっていた。
「いや、朝からずっとこんな感じて…」
💡〈熱中症で倒れるとかやめてよね~?〉
自分の机のフックに鞄を掛けて、筆箱や課題を取り出していつでも提出出来るようにしておく。少しでも頬の赤みを消すために、水筒のお茶を一口飲んだ。まだ熱い体の奥で冷たい水が移動しているのが何となく分かる。通っていく所が冷たく冷やされて気持ちが良い。寝不足のせいか、ズキッとした頭痛が走った。
「そういえば、ライは今年もマナとバンドするんですか?」
💡〈勿論!!ねっ、マナ!!!〉
高らかに天井に指差した。聞いているつもりでも頭に入って来ず、右耳から左耳に一方通行していたみたいだ。突然名前を挙げられ、なんと答えたら良いか分からず戸惑う。
「ぅえっ?」
💡〈聞いてなかったの~?今年もバンドする約束だよね?!〉
「あ!ぁあ、うん!」
「…熱でもあるんでしょうか?」
るべが俺のおでこに手を近づけようとした。だが頭が回っていなかったから、何かが飛んできたと勘違いして、俺は咄嗟に避けてしまった。星導は顔を歪ませた。悲しそうな怒っているような顔になった。
「っごめん!ぁー…、トイレ行きたくなってしもうて!」
💡〈いってらぁー〉
駆け足で逃げるようにトイレに向かう。向かう途中あの歪んだ顔を何度も思い出す。俺に避けられて怒ったの?悲しかったの?俺のこと嫌いになった?それは星導にしかわからない。でも普段顔に出さない星導があんな態度を取ったのは何故だ?
「俺のことどう思ってんのやろ」
誰にも聞こえないように、小さな声で呟く。
誰にも聞かれる事なく言い触らされる事なく、部屋に溶けて消えていった。
すこしで良いから心が読めたら良いのになあと、願う。
(ri side)
「マナあ、次移動教室ですって、一緒に行こ」
「ぁー、用事あるから先行っとって、な?」
マナは教科書を抱いて、どこかに走っていった。でも先生に呼び出しをされていた様子もなく、もし告白だとしても授業の休憩にするか?いや絶対にしない。…何だろう。何となくだが、星導はマナに避けられている気がする。
💡〈フラれちゃったな〉
肩に手を置き、付け足してドンマイと言うと、ジトと睨んできた。学校一のモテ男が怒った。おー、怖い怖い。
「うるさいです」
結局俺と行くことになった。なんか気まず。
先生〈二人一組のペアを作って下さーい〉
その一言で周りのクラスメート達は一斉にざわめき出す。そして一人にならないためにと、次々とペアを組んでいく。俺は誰と組むかなと、周りを見渡すと、見慣れた金髪が近付いてきた。ふわりと金木犀の匂いが鼻孔を掠める。ちょいちょいっと俺の肩を突いた。
「なーライ、ペア組んでくれん?」
マナの奥に睨んで来る星導の姿が見える。星導はいかにもマナに声を掛けに行こうとしていて、星導の伸ばされた手が行き場もなく空を舞っていてた。
💡〈星導とは組まないの?〉
「うん、ええの」
何もええの、じゃないでしょ!!何かあったじゃんコレは!!と、心の中だけで叫びながら、落ち着きを取り戻す。
💡〈…マナが良いなら良いよ〉
これが最善の答えだと、信じたい。俺とマナのペアが出来るとすかさず女子は星導を誘いに行った。いつも星導の隣にはマナがいたから、チャンスだと思ったんだろう。星導の周りには人の渦が出来ていた。暫くすると渦も落ち着き、静まっていった。星導は誘いに迫って来る女子を跳ね退け、クラスのクールポジの…確か……小柳とペアになっていた。今更だが、俺がマナとペアになっても良かったのか少し後悔する。喧嘩したなら今が仲直りのチャンスだったんじゃないか、と想像する。それにしてもなんか、拗らせてんな。色々と。
💡〈めんどくさー…〉
「それなあー」
いやお前の事だよと、心の中で突っ込んだ。星導、お前何したんだよ。
「ねえ、マナ弁当一緒に食べよ」
いつも星導とマナは天気の良い日は屋上で昼食を取る。雨の日は屋上までの階段でひっそりと食べている。何かしらの喧嘩だと予想していたが星導が一方的にフラれているような感じだ。マナは何かと用事を付けてのらりくらりと避けていく。今回はマナの友好関係の広さが優勝したな。
「ごめん、今日は隣のクラスのやつと食べる約束してんねん」
リュックからお弁当を取り出して、駆け足で廊下に出た。すると大きく手を振り、どこかに走って行った。今日、星導には見せない笑顔を浮かべながら。
💡〈お前マナになんかした?〉
「いや……?」
星導が鈍感で気付いていないのか、はたまた何にもないのにマナに避けられているのか。これは明らかに前者だ。マナが、あのマナが!何もないのに人を避ける訳がない。
💡〈話聞くから洗いざらい話して〉
俺としては早く仲直りして欲しいので、原因を探るべく尋問が始まった。めんどくさいし、いろいろと。普通にこの二人には仲良くしてて欲しい。
だが、話を聞いて早20秒。もう原因がわかってしまった気がする。
💡〈え、ちょっと待って。きききき、キス?!〉
星導が昨日勉強してる時に口が当たった、と開口一番に言った。流石に動揺を隠せない。星導は耳を抑えて、いかにもうるせーと言っているようだった。お前らのことやぞ、おい。何か星導がノンデリ発言をかまして、それで避けられていると予想していたが斜め上だった。そう来たか…。
💡〈で、きっキスしたのはいつなの?〉
「キスじゃない。たまたま口が当たっただけ。……昨日」
💡〈あー……〉
そりゃそうなるわ、このどアホ。俺も薄々は気付いてはいた。マナから星導の視線に友情以外にも含んでいる事を。嬉しそうだけど切なげなあの眼、ふと笑顔が曇る瞬間。きっとマナは星導の事が好きなんだ、と悟っといた。多分キス以外にも、まだ他にもあるな。だからマナはこれ以上星導を好きにならないために避けてる…、うんきっとそれだ。俺の今まで経験の勘がそう言ってる。
💡〈星導はマナとどうしたい?どうなりたい?〉
俺は悲しいけど、二人がこのままで良いならそれで良いし。避けられないようになりたいなら、俺も助けるし。今まで以上の関係が良いなら、全力で応援する。
だが星導は、口を噤んだ。
(mn side)
💡〈だーれだっ!〉
まるで付き合いたてのカップルのように後ろから俺の眼を塞いで、誰だと問う。だが特徴的な、男にしては可愛らしい声。毎日のように聞いているのでライの声だと直ぐに分かる。
「ライ、急にどしたん」
悔しげに「分かっちゃうかあ」とライは呟いた。流石に分かるわ!
💡〈今日さプール掃除やんなきゃいけないんだけど、人数が足んなくてさあ〉
振り向くとわざと中腰になり俺にきゅるりんと上目遣いして、手伝わせようと諮る相方の姿が。心なしかいつもより声が高く聞こえる。クッソ、俺がその顔弱いのを知って…コイツ!。
「手伝えってかよお」
💡〈あ、バレた?〉
「まあ、別にええよ」
予定が出来たし、るべと一緒に帰らんでいい口実が出来た。俺としては嘘を付かなくて良いという事でほっとする。まあ、winwinか。それに楽しそうだし、プール掃除って青春の醍醐味じゃね?
💡〈ありがとよ~、後でアイス奢るわ〉
ひゅうっと口を鳴らす、何に奢って貰おうかな~なんて思っていると、昨日の甘ったるい葡萄味を思い出してしまった。掌で唇を拭う。勢いよく拭ったせいでヒリヒリして些細な空気も痛く感じた。
有志であるからか、人数は大分少ない。俺達や俺が数人誘った奴などを含めて八人いる。ライが誘ったのかその中にるべもいて、帰りは一緒になる可能性が高い。気まずくもあるが、見れただけで嬉しいとも思ってしまった自分がいる。
💡〈それじゃあ!デッキブラシかタワシか選んで~!〉
各々散らばっている八人に聞こえるように大きな声で言った。近くの友達と何にする?って聞き合いながら、わらわらと集まってくる。プールサイドのコンクリートは太陽の光でとても熱くなっていて、まるで鉄板で焼かれているようだ。
💡〈マナ!どっちにする?〉
さっきるべと……小柳が話しているのが聞こえて、二人はタワシにすると話していた。だから俺は、
「デッキブラシが良い」
ライはおけ~と簡単に返事して、俺にデッキブラシを渡した。
ブラシの部分は緑色で典型的なブラシ。何か…青春っぽい。昔に読んだ少女マンガを思い出す。恋する女子高校生と男子の先輩が一緒にプール掃除してて、女の子が転びかけて先輩が庇うなんて事があった。そして水に濡れた女の子に先輩が意識し始めて、みたいな感じだった。
頭の中で俺とるべを置き換えてしまって、一人恥ずかしくなる。
昨日に戻って、るべに勉強を教えてもらおうとしなければ、いつものように一人で勉強していたら、今頃楽しい時間を過ごせていたのだろうか。
ハシゴを使って水の中に入るとちゃぷと音が立ち、小さな波が出来る。浅いものの、ズボンを捲らなければ濡れてしまう水位だ。
「冷たっ!」
💡〈気持ちいぃ~〉
ライはばちゃばちゃと、大きな波紋を作る。水しぶきを上げ、俺のズボンに染みを作った。
「さて、やりますか!」
ブラシでぬめっている床を擦る。
少し黒ずんでいた床が少し白くなり、始めたからには全て白くしたいという内なるA型が叫んでいる、O型だけど。
夢中になって力を込めて擦っていると、ふと紫髪の人が目に入った。るべはタワシで壁を擦りながら小柳と楽しげに話している。
ちくりと細い針で胸らへんを刺された。気づいた頃には手が止まり、るべに釘付けになっていた。俺を夢から醒ますように、頭上から冷水が飛んできた。
🍱🦖〈こらー!手が止まってるぞ~!〉
「っうお゛っ!」
どうやら、ウェンがバケツで俺に水をかけたようだ。
驚き過ぎてつるっと後ろに滑った。
あ死ぬ、と覚悟しているとウェンが横抱きをして俺を支えてくれた。
目の前にウェンの綺麗な水色の目が俺の網膜に写されていた。太陽に照らされて、きらきらと輝いていた。ほんのり匂う、制汗剤と日焼け止めの匂い。
「っ……ウェン!ありがとお!命の恩人や!!」
横抱きされたまま、ウェンに抱き着く。
すると、陽気に「もちもた~」と言いながら下ろしてくれた。ぎゃうやと思ってたけど力が強いぎゃうだったか。
「てか、やってくれたなあ!ビショビショやんけ!!」
帰りどうしたらええねん!!
ワイシャツやズボンが肌に張り付いて気持ち悪い。でも、炎天下のせいで熱くなっていた体が一気に冷やされた事による爽快感もある。ウェンのバケツを奪い取り下から空くって、掛ける体制になる。
🍱🦖〈やれるもんなら!やってみな!!〉
ウェンは後ずさりをして誰かを盾のように前に構える。濡れた鴉のような綺麗な黒髪、俺が誘った中の一人である佐伯イッテツだ。
🤝〈やっ、やめてよぉ〉
テツは顔を庇うような体制を取る。イッテツが怯えていて、罪悪感が混み上がってくる。これではやり返したくてもやり返せないではないか。
ぐぬぬとウェンを睨んでいると、リトがウェンの頭を軽く叩いて、ツンと俺の頬を突いた。
🌩️🦒〈ウェン止めろ、テツが怖がってんだろ。それにマナ眉間にシワよってる、せっかくの可愛い顔がもったいねぇぞ~〉
🍱🦖〈ちぇ、ごめんね〉
「テツ~、ごめんよぉ。でもウェン!一発食らえっ!!」
テツが退けた瞬間、ウェンにバケツの水をぶっかける。ぎゃみ!と言いながらウェンは諦めたのか大人しく攻撃を受けてくれた。
ウェンに掛けてすっきりしているとリトが俺の方に手を広げて「かけろ!かけろ!」と言わずもがな無言の圧があった。
「ぅお゙らっッ!!」
思いっ切りリトに水を浴びせる。
🌩️🦒〈っはー!気持ち〉
リトは前髪を乱雑に掻き上げた。その自然な仕草が色っぽくて、…流石るべに続くモテ男やね。
簡単に説明すると、るべが遠くで眺めていたい目の保養(推し)枠で、リトはガチ恋枠だ。
へっ、俺にははち切れんばかりの筋肉もコミュ力もねぇよ!!自分のお腹をつまみ、悲しくなった。
「ギャー虫!虫!!虫ッ!!!」
突然のるべの叫び声に、皆の視線が一斉に集まった。
大きな飛沫を上げてびっしゃびっしゃっと走り周り、蜂のような虫がるべをずっと追いかけていた。それを眺めながら大爆笑していた。
👻🔪〈んははは!お前、虫大ッ嫌いだもんなw〉
太い尖った杭のような物で心臓を一突き。
嫉妬というどす黒い感情がダラダラと零れ落ちる。俺しか知らなかったはずなのに、俺だけが知ってたはずなのに。
ぢくぢくと傷口が熱くて冷たくて。嫌だ。俺だけを見ていて欲しい。俺と彼だけの秘密が欲しい。俺だけが知っている彼の姿が。
「もーやだー!何で着いて来んの?!」と、呑気に笑っていた姿を見るのが酷く痛かった。
コメント
5件
あぁ〜…もう文章が上手すぎて読んでて楽しかったです😭この作品を作ってくださったことに感謝しかないです…💖
青春学パロの素晴らしさを知ってしまった…🙄神作品をありがとうございます…😘😘😘