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以前の部署にいた頃は、単調な仕事ばかりで、早く終わればいいと思っていたくらいに、一日が長く感じた。
そして現在――慣れないながらも、新しい部署の仕事をなんとかこなしているうちに、日々は過ぎていった。気がついたら一日が終わっていることがあるくらい、あっという間に過ぎ去る時間の感覚に、敦士は虚しさをひしひしと感じた。
変化したのは時間の流れだけじゃなく、時折聞こえていた男性の声も、日を追うごとに数は減っていき、現在は聞くことができなくなった。
それと同時に頭の中で見えていた、青白い色の淡い光も消えた。もう二度と、感じることができない。
そう思うと淋しくて、代わりになるものを探そうとした。思いきってゲイバーに行き、自分に優しくしてくれる年上の男性を見つけ出そうと、サイトで探してしまう始末。
それくらい追い詰められてる状況ゆえに、メンタルはすこぶる悪いというのに、反比例して仕事は順風満帆だった。
「はあ~、疲れたなぁ……」
かなり久しぶりに定時で退勤し、会社の前で伸びをしながら、敦士は思わずぼやいてしまった。
ここ最近は一層責任が重い仕事に手をつけている関係で、気を抜くとポカをやらかしてしまう敦士にとって社内にいる間は、緊張の連続だった。
だからこそ、そこから解放されるとなにもする気になれず、自宅マンションへと一直線で帰宅する。仕事が終わってから、キャバクラ通いをしていた頃が懐かしく思えた。
(前は挫けそうになったときや疲れがピークのときに、例の男の人の声が励ましてくれたから、どんな仕事でも乗りきることができたけど、今は自分の中にある何かを削って頑張っているせいで、毎度毎度燃え尽きた気分になる)
はあという盛大なため息と共に、歩き出した瞬間だった。
「久しぶりに逢えたというのに、情けない顔をしているじゃないか敦士」
背後から聞こえてきた、聞き覚えのない男性の低い声が、敦士の進んでいた足を止めた。声はまったく知らないものなれど、その口調は頭の中に流れていたものに、よく似ている気がした。
意を決して顔だけで振り向くと、目の前は白っぽい光が満ち溢れていて、眩しいくらいの輝きを放つプラチナブロンドの外国人らしき男性が、その場に立っていた。
まったく知らない人物なのに、敦士は彼を見た瞬間から懐かしさを感じ、光に向かって反射的に右手を差し出した。自分の中にある、昏い心を照らす淡い光を捕まえなければと必死になる。
「敦士、ただいま」
外国人が喋った途端に、光はあっという間になくなり、輝きで失われていたであろう見慣れた風景が、目に飛び込んできた。
「だ、れ?」
敦士からそう呟いたのに、気がついたら声をかけてきた男性をぎゅっと抱きしめる。表現しがたい焦燥感に駆られて、男性の存在を確かめるように、何度も背中を撫でてしまった。
どうしてこんなことをしてしまうのか、理由がさっぱりわからないのに、自分よりも小柄な躰に触れるだけで、心を落ち着けることができた。
「おまえのぬくもりは、相変わらず心地いいな。離れがたくなる」
穏やかな男性の声に敦士は我に返り、両腕を万歳したまま慌てて後退った。
「すっ、すみませんでした。見ず知らずの方に抱きつくなんて、信じられないことをして」
「謝ることはない。俺たちは顔見知りだ」
「へっ?」
顔見知りだと男性に言われても、目に映る男性のことがまったく思い出せない。そればかりかなんとも言えない不安が、じわじわと胸の中を渦巻いていった。
男性のことをもっと知りたいと思うのに、近づいては駄目だと、もう一人の自分が止めに入る。
「おまえとは、夢の中で逢っていた。もちろん俺はこの姿ではなく、創造主から与えられた、夢の番人という姿で逢っていたんだ」
「夢の番人……髪を肩まで伸ばした、プラチナブロンドの外国人みたいな人でしょうか?」
ほんの数秒間だったが、印象に残った外国人の特徴を述べてみる。
「もしかして、思い出したのか?」
男性は嬉しかったのか、敦士が離れた分だけ、微笑みながら距離を詰めた。
「いいえ。貴方に声をかけられて振り向いた瞬間に、光り輝く姿が見えたんです」
「二度あることは三度ある、神の瑕疵か。このタイミングで、ありがたいと言えばいいのか……」