しばらくして、すちの腕の中で眠っていたみことが、小さく身じろぎした。
「……っ、……すち……」
寝息とは違う、小さく震える声。
眉が寄り、唇が震えている。夢を見ているのだとすちはすぐに察した。
「……やだ……いかないで……っ」
みことの呼吸が乱れ、胸が上下する。
次の瞬間――
「……すち……っ……すちぃ……!」
みことが突然涙を零しながら目を覚ました。
ぽろぽろと大きな涙が頬を伝い、息も絶え絶えにすちの胸に顔を埋める。
「どうしたの、みこと!? 悪い夢、見たの?」
すちは驚きながらもすぐにみことを抱きしめ、背中を優しく撫でる。
「……すちが……どこか、いっちゃう……っ、おれ、おいて……ひとりに……」
言葉にならないほど泣きじゃくる声。
みことの小さな手が、すちの服をぎゅうっと握りしめて離さない。
「行かないよ。絶対に離れない。みこと置いてどっか行くわけないだろ」
すちは耳元でゆっくり囁き、何度も頭にキスを落とす。
「ほんと……? ほんとに……?」
「ほんと。嘘なわけないだろ。どこにも行かない。ずっと一緒」
みことは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、すちの胸元にしがみつく。
「……こわかった……すち、いなくなっちゃうの……」
「大丈夫だよ、ほら……俺はここにいるから」
すちはみことの頬を両手で包み、涙の筋を親指で拭った。
そのあと、拭いきれなかった涙を唇でそっと吸い取るようにキスしていく。
「……すちぃ……っ」
「泣かなくていい。俺のことだけ見ててくれたらそれでいいから」
みことはすちの胸に額を押しつけ、小さくしゃくりあげた。
しばらく抱きしめていると、みことの呼吸もゆっくり落ち着いていく。
「……いっしょ……がいい……」
「うん。一緒。ずっと一緒」
すちはみことを抱えたまま布団に潜り込み、ぬくもりごと包み込むように腕を回した。
安心したのか、みことはすちの胸に耳を当て、鼓動を確かめるように目を閉じる。
すちはその髪をそっと撫でながら、もう一度囁いた。
「離さないよ、みこと」
夢から覚めて泣き疲れたみことの身体を抱きしめながら、すちはふと違和感を覚えた。
「……みこと? なんか熱いな」
額に手を当てると、じんわりとした熱。
指先が触れた瞬間、すちは眉を寄せた。
「みこと、しんどい?」
「……んん……ぁっぃ……すち……」
とろんとした目、弱々しい声。
頬は赤く、呼吸もいつもより速い。
「よし、病院行こうな。大丈夫だよ、俺が一緒だから」
すちはみことを厚手のブランケットで包み、急いで外へ出た。
病院の待合室。
みことはすちの胸にぐったりとしがみつき、顔を埋めている。
「すち……いたいの、やだ……」
「まだ何もしてないよ。大丈夫、大丈夫」
そう言いながら背中をさすっていると、名前が呼ばれた。
診察室に入ると、医師が優しい声で話す。
「ちょっと熱が高いね。注射して解熱剤を出しておこうね」
“注射” の言葉に、みことの体がびくんと震えた。
「……や……だ……っ」
「みこと、がんばれ。俺が抱っこしてるから」
すちは椅子に座り、みことを胸に抱いたまま腕をしっかり固定した。
「すちぃ……やだぁ……っ……やだぁ……!!」
「暴れたらもっと痛くなるよ。大丈夫、痛いの一瞬だから」
泣き叫びながらすちの服をぎゅうっと掴むみこと。
医師が素早く腕を消毒し、注射針を近づける。
「いやぁぁぁぁっ!!」
すちはみことの体を落ち着かせるように、強く抱きしめた。
「ごめんね、でも動いちゃダメ。俺がいるから……ほら、いくぞ」
ぷつ、と針が刺さる瞬間。
「っっ……!! すちぃぃぃ!!」
みことは声を振り絞って泣き叫び、すちの胸に顔を押しつける。
「よしよし、あとちょっと……がんばれ、がんばれ……」
すちの落ち着いた声と体温だけが、みことの支えだった。
数秒後。
「終わったよ。よくがんばったね」
医師の声に、すちはすぐみことを抱き上げ、頭を撫でる。
「……終わったよ、えらかったね……ほんとによく頑張った」
みことはひっくひっくと泣きながら、すちの首にしがみついた。
処方された解熱剤を受け取り、家に戻る。
帰り道、みことはすちの肩に頬を押しつけたまま、弱い声で呟いた。
「……すち、いっしょ……?……」
「うん、一緒にいよう。今日もずっとそばにいるから」
すちはみことの熱い額にキスし、腕の中の小さな体を大切そうに抱きしめたまま、家へ帰っていくのだった。
病院から戻ったあと、みことはぐったりとすちの胸に身体を預け、熱のせいで呼吸が浅くなっていた。
「みこと、座薬入れるからね。ちょっと嫌かもだけど……すぐ楽になるから」
優しく声をかけても、みことは弱々しく首を振る。
「……やだ……すち……」
「痛くないよ。俺がするから、大丈夫だよ」
すちは慎重にみことを抱き寄せ、ベッドに寝かせた。
パジャマの裾をめくり、小児用解熱座薬を準備する。手袋を着け、潤滑剤を先につける。冷たさにびくっとするみことの手を優しく握った。
「大丈夫、すぐ終わるから。ちょっと冷たいだけ」
小さな身体が少し緊張して震える。すちはゆっくりと座薬を挿入し、指先もわずかに入れることで座薬を奥まで導いた。
手の温もりが伝わると、みことの体は少しずつ力を抜き、安心したようにすちに身を預ける。
「……すち……ん……」
指を抜くと、座薬の違和感にみことは小さく声を漏らした。
「……すち……なんか……へん……」
「うん、わかる。でもすぐに落ち着くから、もう大丈夫。ほら、抱っこしててあげる」
すちは背中をさすり、額を撫でながら優しく抱きしめる。みことはぐすぐすと鼻をすすり、小さな手で胸をぎゅっと掴む。
「……すち、いて……」
「もちろん。えらいね、みこと」
そのまま腕の中でゆっくり呼吸を整え、みことが安心して眠れるように見守る。
布団をかけ、毛布ごと抱きしめ、すちは額に軽くキスを落とした。
「もう心配しなくていいから。俺はずっとそばにいるから」
みことは小さくうなずき、まだ少し違和感が残る体をすちに預けて、やっと安心したように目を閉じる。
しばらくすちの腕の中で休んでいるうちに、みことの体温は少しずつ落ち着き始めた。
それでもまだだるさは残っており、体は小さく丸まったまま。
小さな手がすちの服をぎゅっと掴む。
すちは熱で弱ったみことの体を抱き寄せ、胸にぴったりと密着させる。
みことは顔をすちの胸に押しつけ、うっとりとした声で小さく鼻を鳴らす。
まだ熱でぼんやりしているのか、力も抜けて、全身をすちに預ける。
すちは背中をゆっくり撫で、額の汗をそっと拭いながら囁く。
「えらいね、みこと。ちゃんとがんばってるよ」
「……すち……だいすき……」
声に力はないけれど、しっかりと想いが伝わる言葉。
すちは胸が熱くなり、思わず髪を撫でて額にキスを落とした。
みことはその温かさに目を細め、さらにすちにしがみつく。
すちは毛布ごとみことを抱きしめ、腕の中で安心させながら寝かしつける。
甘えるみことを抱えながら、すちはそっと囁き続ける。
「大丈夫だよ、みこと。俺がそばにいるから、怖くない」
みことはすちの胸に顔を埋め、小さく頷く。
そのまま眠りに落ちるときも、すちの腕から離れることはなかった。
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座薬マジ嫌い!でも主さんの作品は好き(๑♡∀♡๑)