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なんとか出してもらったのは、真帆さんと初めて会った日に彼女が着ていた、淡いピンク色のニットと白いロングスカートだった。
真帆さんはまだロリータ服に未練があるらしく、わたしが着替えている最中にもあの手この手でわたしにそれらを着せようとしてきたが、なんとかそれらをかいくぐり一息つく。
「ちぇー、本当にそれで良いんですかー、シンプル過ぎませんかー」
化粧台の前に座るわたしの後ろで、真帆さんがわたしの髪を梳かしながら唇を尖らせ、まだ言ってくる。
「いいんです、十分です、シンプル・イズ・ベスト!」
それでも真帆さんはぶーぶー言いながら、わたしの髪をワンサイドアップにまとめていく。
どうやら本当はもっとゴテゴテした髪型に(ウェーブにしてリボンを散りばめたり、レースを絡めたり)したかったらしいけれど、それも丁重にお断りした。
こんな事なら、自分で準備してもあまり変わらなかったかも知れない。
ワンサイドアップだって、せめてもの抵抗だ。
本当はいつも通りの髪型で良いと思っていたのだけれど、真帆さんが髪を弄らせてくれないなら服も貸さないと言い出したので、話し合いの結果これに落ち着いたのだ。
但し、髪留めには大きめのリボンがあしらわれていて、やっぱりちょっと恥ずかしい。
それからメイクもして貰ったのだけれど、これもまたしっかりひかれたアイラインにゴテゴテした付けまつ毛、まるでお人形さんのような紅いリップをさされた鏡に映る自分の姿を前に、わたしは思わず、
「ま、真帆さん、すみません……も、もっとナチュラルにしてください……」
懇願せずにはいられなかった。
「えーっ、せっかくここまでやったのにー」
口を尖らせる真帆さんにわたしは、
「お願いだから、もっと自然な感じにしてください……」
「もー、注文が多いですねー」
真帆さんは口ではぷんぷんとわざとらしく言いながら、もう一度メイクをやり直してくれた。
……うん、これなら大丈夫。
クラスメイトの中には真帆さんがしてくれたようなメイクをする子も居るけれど、わたしにはハードルが高過ぎてムリだなって思った。
「さて、それじゃぁ、最後にコレ!」
真帆さんはそう言って、どこからともなく小さなスプレー瓶を取り出した。
クリスタルみたいに輝く瓶の中で、透明な液体が波打っている。
「魔除けの香水です。これさえあれば、あらゆる災難からあなたを護ってくれます。やっぱり“邪魔”が入らないのが一番ですよね?」
言いながら、真帆さんはわたしの首筋や手首にシュッと軽く吹き付けた。
バラの香りが辺りに漂う。
「これはサービスです。デート、うまくいくと良いですね」
真帆さんは言って、にっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます、真帆さん」
わたしも笑い返してお礼の言葉を口にし、椅子から立ち上がったところでふと、あのロリータ服の並ぶ衣装掛けが目に入った。
……うん、やっぱり気になる。
「あの、真帆さん」
「はい?」
と真帆さんは小さく首を傾げた。
「あの服、いつ着てるんですか?」
まさか、家着ってことはないと思うけれど、やっぱりイメージに合わない。
すると真帆さんはアハハッとおかしそうに笑い、
「あれはわたしのお姉ちゃんの趣味です。わたしが着るワケないじゃないですか!」
その答えにわたしは言葉を失い、思わず脱力してしまうのだった。