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#王馬小吉
あい
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!!
4
ろろさゔ @よつばリスナー
55
しいな
70
最原 「」
王馬 『』
あの頃の“ボク”は、本当に馬鹿だった。
壊れかけた世界の中で、まだ夢を見ていた。
綺麗に飾られたモールのショーウィンドウや、色鮮やかな風船が揺れる遊園地や、楽しそうな人で溢れている広場。
そんな景色、あるわけがないのに。
今のオレがどれだけ目を凝らしても、そこにあるのは錆びついた金網と、瓦礫ばかりだ。
それでも、最原ちゃんだけはいつもと変わらない顔でオレを見ている。
『最原ちゃん!』
なんて呼べば、振り向いて、微笑んでくれる。
最近、その笑顔が怖い。
ねえ、キミはなんでそんな顔ができるの?
キミは本当に此処にいるの?
オレの視界は、ようやく正常に戻りつつあるらしい。
“電池の切れたタイマー”みたいに止まっていた時間が、勝手に動き出した。現実が、戻ってきた。
最原ちゃんは、パンケーキの粉を保存してある棚を開けていた。小さな缶を手で叩き、「そろそろ買い出しが必要だね」と呟いている。哀れだね、そんなの、モールにだって残ってないんでしょ。どうせ。
『……へえ』
オレの声が、自分のものじゃないみたいに低く響いた。
「どうかしたの?」
『いや……なんでもないよ』
笑ってみせる。でも、もう無邪気な笑顔なんて作れない。
“ボク”が現実を直視できなかった間、最原ちゃんは何を見ていたんだろう。何を、隠してきたんだろう。
食卓に並んだ料理。無理やり形を保ったパンケーキ。カビに覆われたシロップ。どれも、ひどく寂しい。
あれは全部、“ボク”には見えていなかった要素だ。でも、最原ちゃんは違う。ずっと直視してきた。
オレの胸の奥で、何かが重く、沈む。
彼はオレを見て笑う。その優しさが苦しい。息が詰まりそうだ。
『ねえ、最原ちゃん』
「なに?」
『キミ、“オレ”に隠してること、あるでしょ』
ほんの一瞬、彼の肩がわずかに強張る。
やっぱりだ。全部、嘘だったんだ。
「隠してなんか…」
『隠してるよ』
彼の言葉を遮ったのはオレだった。“ボク”が見ていた世界は嘘で、“ボク”が信じていた日常は偽り。分かりきっていた事実を、丁寧に咀嚼して、飲み込む。
『どうして、オレに黙ってたの』
「それは」
『優しさのつもり? 頭のネジが外れたから同情? それとも単なる正義感?』
声が震える。喉が詰まって、たまらない。
最原ちゃんがオレに向ける優しい表情が、怒りの材料にしかならないくて。
『やめてよ。オレを、壊れ物みたいに扱わないで』
「王馬くん」
『どうせさ』
視界が滲む。頬が熱い。
『どうせ、キミもオレの幻なんでしょ?』
彼の瞳が揺れた。赤ん坊のように泣きそうに、でも必死に堪えるみたいに。
違う。泣きたいのはオレの方だ。
それでも、泣く前に言わなきゃいけない。この気持ちを、ぶつけなきゃいけない。
『消えるなら、早く消えてよ!!オレの前から、全部消し去ってよ!!』
机を叩く音。揺れた食器。崩れかけたオレの声。
最原ちゃんが目を丸くして、何か言おうと口を開いた、その時。
オレの頬を、涙が伝って落ちた。ぽたり、と。
『…………ごめん』
その声は、自分でも聞こえないくらい小さかった。
……耳鳴りがする。視界が揺らぐ。
微かに聞こえる王馬くんの泣き声が、遠い。
「(…なんだ、)」
どうして、彼は。
……あぁ、そうだ。僕が泣かしてしまったんだ。
泣かないで、王馬くん。謝らないで、王馬くん。
身体が思ったように動かない。
早く、彼の頬を伝う涙を拭ってやらなければならないのに。
コメント
1件
ああ……この第6話、すごく胸が詰まりました。王馬くんの“ボク”と“オレ”の乖離が、本当に痛いほど伝わってきた。「消えるなら、早く消えてよ!!」って叫ぶ場面、あの強がりと泣き声のギャップにやられました。最原ちゃんの肩が強張る一瞬とか、「何を隠してきたんだろう」って疑い始める心理描写が繊細で……。最後にぽたりと涙が落ちるところ、静かなのにすごく衝撃的でした。二人の距離が近づいたようで、でももっと深い溝が見えた気がして、続きが気になって仕方ないです。素敵なエピソードをありがとうございました。