それからも、日常の中で翔馬とのやり取りは続いた。あれから電話で話すタイミングはなく…というかそんな時間を作らないように仕事で忙しくしているフリをした。嘘でも会社員にしといてよかったと思う。
たまにあのサイト【花開く】を覗くことはあったが、翔馬のオープンコメント欄はほとんど動きがなかった。DMに切り替えていれば、それは私が知らないことだけど。
 
 「あのさ、木曜日、会社に泊まり込みになると思うから、着替えをバッグに詰めといてくれないか?」
 「わかった、一泊だけ?」
 「そう。じゃ行ってくる」
 月曜日の朝の唐突な夫からのお願いも、素直に聞ける私がいた。翔馬と出会ってなかったらもっと卑屈に対応していたかもしれないと想像して、翔馬とのことを肯定しようとしている私がいた。
 ___家庭がうまくいくなら、少しくらい…
 
 家族が出かけた後は、翔馬からのLINEを通知オンにする。洗濯物を干しながら、掃除機をかけながらやり取りをする。それはきっと、付き合い始めたばかりのカップルのような頻度だ。
 ぴこん🎶
 《おはよう!こっちはいい天気だけどそっちは?》
 〈こっちは、今にも降りそう。洗濯物が外に干せないわ〉
 《雨が降ると、運転も危ないから気をつけて行けよ》
 〈はい、ありがとう。翔馬さんもお仕事頑張って〉
 《俺は朝イチから会議が続く予定。はぁ、社長じゃなかったら寝ていられるんだけどな。そしてミハルの夢を見る》
 ___どきん
 こんなふうに、時々私をキュンとさせるセリフを入れてくる。そして私はまた勘違いをしていく。翔馬も私を好きなんだと。
 〈じゃあ、私もお昼休みにうたた寝をして翔馬さんの夢を見ようかな?〉
 打ち込みながら、頬がほてるのがわかる。
 《こらこら、昼寝の時間があるならLINEしようよ。それとも電話する?あの日みたいに》
 バッ!と顔が熱くなった。顔から火が出るとはこのことかと思う。
 〈ごめんなさい、会社ではさすがにそれは〉
 《冗談だよ!集中できないよね?ハゲた上司が見えるところじゃ》
 〈うん、無理〉
 《でも、少しでも時間があったらこうやってミハルと繋がっていたいな、もちろん体はいつも繋がりたいけど、せめて気持ちだけでもね》
 ピーピーピー!
 アラームが鳴って、出勤する時間になったことを告げた。
 〈翔馬さん、私は翔馬さんが好きです。翔馬さんはどうですか?〉
 そこまで送信したら、スマホをバッグにしまい車を発進させた。翔馬からの返事を想像しながら、昼休みにスマホを開くのを楽しみにすることにした。
 
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